エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

∆ΣTHΣR░विज्ञान: ⒺⒸⒸⓄ, O̾r̾d̾e̾r̾ ̾o̾f̾ ̾t̾h̾e̾ ̾D̾o̾l̾p̾h̾i̾n̾ (2021) - 非常に悪化している解離した

《∆ΣTHΣR░विज्ञान》を名のっている人は、米ニューヨーク市に在住するらしいヴェイパーウェイヴのアーティストです。2019年から活躍しているもようです()。

で、この人のステージネームが、実にどうしようもない感じですが! しかし調べたところ、後半のヒンディー語は、〈サイエンス〉くらいを意味するようです。
かつ、Bandcampページのアドレスにethernet mind〉とありますので、おそらく《意味》は、そういう感じなのでしょう。ともあれここでは、仮にエーテルさんと呼んでおきます。

そしてこのエーテルさん。バンド名だけでなく、そのアルバムやトラックらのタイトル表記が……また実にすさまじい。
これらを面白いと思う人がいないとも限らないので、現在までの彼のアルバム8作の、タイトルらを列挙しておきます。

ıllıllı 𝓟άภ¢𝐇Ⓐ βħ𝐨𝐎tά ıllıllı (2019)
i҉g҉n҉e҉s҉t҉h҉a҉i҉ ҉t҉h҉e҉ ҉O҉b҉s҉c҉u҉r҉e҉ (2019)
Зялёная_ ᵂᵉ ᵖˡᵒʷ ᵗʰʳᵘ ᵗʰᵉ ᶠⁱᵉˡᵈˢ & ˢᶜᵃᵗᵗᵉʳ (2019)
𝑀𝑜𝓊𝓃𝓉𝒶𝒾𝓃𝓈 𝓃𝑜𝓌 𝓌𝓇𝒾𝓉𝓉𝑒𝓃—𝑅𝒾𝓅𝓅𝓁𝒾𝓃𝑔 𝓌𝒶𝓉𝑒𝓇... (2020)
๔๏ ฬђคՇ Շђ๏ย ฬเɭՇ ὀρθοδοξία (2020)
𝕄𝕒𝕤𝕥𝕖𝕣𝕤 𝕠𝕗 𝕥𝕙𝕖 𝔸𝕟𝕔𝕚𝕖𝕟𝕥 𝕎𝕚𝕤𝕕𝕠𝕞 (2020)
𝐄𝐚𝐫𝐭𝐡🌎𝙄𝙣𝙛𝙚𝙧𝙣𝙤🔥 (2020)
ⒺⒸⒸⓄ: O̾r̾d̾e̾r̾ ̾o̾f̾ ̾t̾h̾e̾ ̾D̾o̾l̾p̾h̾i̾n̾ (2021)

……何をどうすれば、こういうわけの分からない文字らが出てくるのか、無知にして見当もつかないんですよね!
けれどまあ、文字のことなどはさておき……。

そしていまご紹介したい、“ⒺⒸⒸⓄ: O̾r̾d̾e̾r̾ ̾o̾f̾ ̾t̾h̾e̾ ̾D̾o̾l̾p̾h̾i̾n̾”。これは9月初頭に出たばかりの最新アルバム、エーテルさんとしては、今2021年の初の作品です。全9曲・約71分を収録します。
タイトル的にはどう見ても、かの伝説的なチャック・パースンさんの『エコージャムズ第1集』(2010)、あれが強く意識されたもののようですが……()。

そしてこのアルバムは、いま視点のシャープさを誇っているカンパニー《global pattern》、そのサブレーベルからリリースされました()。そしてその、ツイッターにおける発表アナウンスに、きわめてふるったフレーズが見出されました()。

highly deteriorating mashup of genres and dissociating atmospheres
非常に悪化しているジャンルのマッシュアップと解離した雰囲気

──まさしく、です!
エーテルさんによる音楽を短く形容するために、それ以上のことばが、とても私には思いつけません。

だいたい通常のヴェイパーウェイヴは、あっさりと既成の楽曲らをサンプリングして、しかもそのことを隠そうともしていない。そういうところがありますが。
いっぽうこちらのエーテルさんは、何かをサンプリングしているのかどうか、はっきりとは分かりません。しているとしても、かなり手の込んだ処理で構成していそうです。

そうして構成されたトラックらは、概して短くはありません。平均すれば、一曲が7〜8分間くらいでしょう。

そしてそれらを聞いた感じは、サイバーパンクなムードを持つ、エレクトロニックでサイケデリックな、きわめて複雑怪奇にしてこんとんとしたIDM──かつドラムンベースグリッチ的なところもないではない──、くらいに言えますが。しかし、苦しまぎれの貧弱な形容です。
IDM》かなあ……とも思いつつ、しかしぜんぜんダンスなんかできないし。こんな音楽をこれだと言いうることばが、現状は存在していません。

それをあえて言うならば、まさしく、〈非常に悪化しているジャンルのマッシュアップと解離した雰囲気〉なのです! グローバル・パターンの人がうまいことを言いすぎるから、強く私は敗北感を覚えています。

そして。このエーテルさんの音楽に初めてふれたら、かなり多くの大部分の人が、違和感や不快感を覚えることになりそうです。私にしても、それは、まあ。
ですけれど。その放っている妖気につられて何度も何度も聞いているうちに、〈これは……あるいは……いい音楽なのか?〉という気が、してきたんですよね。少なくとも、非凡なものであることはまちがいない。

とくにこの最新アルバム、“ⒺⒸⒸⓄ: O̾r̾d̾e̾r̾ ̾o̾f̾ ̾t̾h̾e̾ ̾D̾o̾l̾p̾h̾i̾n̾”、これのサウンドにいっそうの切れが感じられます。
これがいずれは、少なくはない聴衆にアピールする時代が来るのでしょうか? そして私たちのエーテルさんが、多少なりとも今後、その名を──分かりづらい上に発音もできないそのバンド名を──高めていったりするのでしょうか?

何も分かりませんが、たぶんヴェイパーウェイヴの影響下にあるものとして、このエーテルさんの奇妙きてれつなサウンドが出てきたことを、ひそやかに私は大きく悦んでいます。

[шrαρ-υρ in ԑngłiꙅℏ]
Vaporwave artist ∆ΣTHΣR░विज्ञान who claims to live in New York City, USA. This strange stage name probably means something like “ethernet mind”.
As far as we know, he has released eight albums from 2019 to the present. And his latest work is “ⒺⒸⒸⓄ: O̾r̾d̾e̾r̾̾o̾f̾̾t̾h̾e̾̾D̾o̾l̾p̾h̾i̾n̾”. Contains 9 songs, about 71 minutes.

This album was released on the sub-label of the company global pattern, which is now proud of its sharp perspective. And in that announcement on Twitter, a very clever phrase was found ().

highly deteriorating mashup of genres and dissociating atmospheres

── That's truely right!
I can't think of any more words to describe the music by ∆ΣTHΣR░विज्ञान in a short way.

In other words, it's an electronic, psychedelic, highly chaotic complicated IDM with a Cyberpunk mood, and some Drum'n'Bass and Glitch flavor. Anyway, it sounds like no other, and it's just “highly deteriorating mashup of genres and dissociating atmospheres”.

And this ∆ΣTHΣReal sound will impress a big discomfort to those who are not familiar with it. But as I listened to it inadvertently over and over again, I began to illusion that this might be surprisingly wonderful.
And I hope that the illusion will spread to many people and all over the world!

蜃気楼MIRAGE: fantasy (2020) - 妄想から始めよう、ファンタジーにいたるまで

《蜃気楼MIRAGEを名のるヴェイパーウェイヴのアーティスト。Bandcampページでは東京在住の人だと称しているのですが、もちろん信じていません()。

いっぽう、Rate Your Musicの該当ページには、カナダのモントリオールの人だと書かれています()。この話もうのみにはしませんが、一説として紹介します。

この蜃気楼さんについて、分かっている限りのことは、どうやら2015年から活動中であるらしい。彼のデビューアルバムと目される『妄想 delusion』は、レイトナイト・ローファイ系ヴェイパーの名作と言えるでしょう()。
「妖怪都市」というけっさくな曲名のトラックで始まるそれは、追って現在までの蜃気楼さんの音楽を、早くも集約しています。

そこではスムースジャズらしいサンプルが、実に快くスローダウンされローファイ化されています……という、手法的にはおなじみすぎるものですが。
それにしても、ちょっとすごいと思うのは『妄想 delusion』の、きわめて大胆なベース(低音)の削り方です。その結果カスッカスで、しかもスッカスカの乾いたサウンドになっています。これがいい!

そういえば。

スムースジャズを素材とした……〉ヴェイパーウェイヴというと、私たちがもっとも強く支持している床屋系、《バーバー・ビーツ》もまた、それであると言えます()。
しかし聞き比べてみると、アプローチの違いがよく分かって、興味深い。レイトナイト系が脱力の一辺倒であるのに対し、バーバーは、享楽と絶望のはざまでビートが〈立って〉、いるように聞こえるのです。

話を戻し。おそらく蜃気楼さんのアルバムでもっともポピュラーなのは、やや近い世代のアーティストである《waterfront dining》さんとのスプリット、“Songs For Lovers”(2016)だと思います()。
スムースジャズめいたインストを得意とする蜃気楼さんに対して、R&Bのような唄ものの加工を得意とするウォータフロントさん。二人の個性がそれぞれに出ていて、じっさいにいい作品です。

さて、蜃気楼さんなんですが──。一時期は作品の発表がとぎれていたところ、2020年、3年ぶりくらいに出たアルバムが、“fantasy”です。全8曲・約15分を収録。
この人の作品系列を追って聞いていくと、『妄想 delusion』で確立されたスタイルが、びみょうに左右へと動いている感じがします。そして現在の最新作“fantasy”は、再びそれを集約しなおした、蜃気楼サウンドの再確立であるかも知れません。ナイスです。

ところで。

蜃気楼サウンドをいいと思いますけれど、何も《いま》ぜひ注目すべき作品であると、言いたいのではありません。
いや、実は。違うところで実にショッキングなサウンドに出遭ってしまったので、〈ああ! そもそもヴェイパーウェイヴってどんな音であったか!?〉ということを、ほぼ見失いかけました。
そのあたりの再確認のため、もう少しモデレートなヴェイパーを聞き直していたような関係で、この蜃気楼さんへの注目となったのです。

いずれ近く、その衝撃的で画期的なヴェイパーウェイヴ──おそらく──について、語り直さなければならないでしょう()。では!

[шrαρ-υρ in ԑngłiꙅℏ]
The vaporwave artist who calls himself 蜃気楼MIRAGE claims to be from Tokyo on his Bandcamp page. On the other hand, Rate Your Music says he is from Montreal, Canada.

As far as we can tell, he's been active since 2015. His debut album, 『妄想 delusion』, is considered to be a masterpiece of latenight lo-fi vapor.
It begins with the delightfully named track 「妖怪都市」(Specter City), already sums up 蜃気楼MIRAGE's music up to the present day.

In it, smooth jazz-like samples are slowed down and lo-fi'd in a very pleasant way. ...... is all too familiar in terms of technique.
What I find a bit amazing is the extremely bold way the bass is cut in 『妄想 delusion』. As a result, it has a dry, crunchy, tinny sound. This is good!

And 蜃気楼MIRAGE, his action was interrupted for a while. But in 2020, album called “fantasy” was released. It contains a total of 8 songs and about 15 minutes.
When I listen to this person's work series, I feel that the style established in 『妄想 delusion』 is swaying from side to side a little. And the latest work “fantasy” may be a re-establishment of the 蜃気楼MIRAGE, re-consolidating it. Nice.

COOLSUN 涼日: Coolsun Rises (2021) - 消えぎわのエロティシズム、この手から…

《COOLSUN 涼日》は、米アイダホ州ボイシー在住のライリー・ミラーさんによるヴェイパーウェイヴのバンドです()。
アイダホといったら、ポテトしかない土地のような感じですが──始まりました偏見ステレオタイプ──。

しかしその州都ボイシーは、全米でも指折りの治安のよさで知られ、しかも現在はITみたいな産業の栄える、きわめてクールな都市であるようです。

そして“Coolsun Rises”は、2021年6月・発、クールサン涼日のファーストアルバムです。全7曲・約40分を収録します。
そのすべてのトラックのタイトルが、《暹》という難しい漢字を含みます。調べたらこれはずばりサンライズ、〈日の出〉という意味であるようです。

そしてその音楽スタイルは、きっぱりとスラッシュウェイヴです()。
さいしょのトラックがプレリュード的な短いインストゥルメンタル。以後の6曲は、1980年代ニッポンのシティポップ曲らを、じっくりとスラッシュへ展開しています。

そして。《ここ》には、はっきりとサンプル元などを書かないのですが……。
ですが、まずさいしょのほうに登場するのが、問宮責子さんの「衰しみは夜の向こう」。それに続くのが、否里さんの「ラス卜・サ▽ー・ウィ又パー」。いずれもオリジナルは1982年リリース……くらいに言うと、その選曲の傾向がつかめるのではないでしょうか。

そういえば後者の楽曲は、一年ちょっと以前にも、新しい感じのR&B曲のサンプリングソースとして、ご紹介しました()。それやこれや、80'sシティポップへの評価の高まりが続いていますが、それはそれとして。

さて、こうしたシティポップを素材としたスラッシュウェイヴ作品、すでにかなり多くのものが作られていますが……。
その中でクールサンさんのトラックらには、もともと原曲らが含んで匂わせているエロティシズムの自然な増強、ということを感じたんですよね。
スローダウンされたサウンドの、減衰のところのトランジェントが、つややかにエロティックなのです。しかも重くなく、さらっとさわやかな感じに。

そのいっぽう。何かと話題にせざるをえない人ですが、このスタイルの元祖である、偉大な《t e l e p a t h テレパシー能力者》さん()。彼のスラッシュのきわまりは、ドロドロと密室的な情念の煮こごりみたいなところがあると思うのですが、またそれとはテイストが違うということです。

ですから。クールサンさんの1stアルバム“Coolsun Rises”は、スラッシュ陣営各位の中でも、もっともライトな感じに仕上がっています。こういうものも大いにありでしょうと、私は愉しんだのです。

[шrαρ-υρ in ԑngłiꙅℏ]
COOLSUN 涼日 (“涼日” means just cool sun) is a vaporwave band by Riley Miller, who lives in Boise, Idaho, USA.
And “Coolsun Rises” is the first album of COOLSUN 涼日, which was released in June 2021. Contains all 7 songs, about 40 minutes.

And the music style is definitely Slushwave. Most tracks there are made from Japanese 1980's City-Pop .

Now, many Slushwave works based on City-Pop have already been produced…
Among them, I felt that the Slush tracks by Mr. COOLSUN were a natural enhancement of eroticism that the original songs originally contained.
The transients at the decay of the slowed down sound are luscious and erotic. Moreover, it is not heavy and feels refreshing.

On the other hand, the great t e l e p a t h テレパシー能力者 who is the originator of this style, I think his Slush is mass of sludge, introvert and secretive passion, but COOLSUN's Slush has a different taste.

Therefore. COOLSUN's 1st album “Coolsun Rises” is the lightest of all the Slush camps maybe. And I enjoyed it while feeling that this direction was also good.

天気予報 2: スーパーシグナルウェーブ!!! (2021) - 私は性交する必要があります!!

ヴェイパーウェイヴのサブジャンルのひとつである、《シグナルウェイヴ》()。これはおおむね、むかしのテレビのCMのサウンドを素材とした音楽(もどき)である、と言えるでしょう。

そして、そこから登場した最大のスター的アーティストが、《天気予報》さんです()。
いや、別に皮肉でスターとか言っているのではなくて、じっさい彼への支持の厚みが印象的なのです。私がこの、ヴェイパーのシーンを眺めている視界の中で。

ただし。昨2020年くらいからこのお天気さんの、挙動が不安定であることは、ここにてもお伝えしているとおりです()。
たとえば、Bandcamp上の作品らを消したり戻したり、また引退を表明してはすぐ復活したり。もしくは〈シグナルウェイヴの死〉を宣言し、これからは〈CM PUNK〉としてやっていくと表明、なんてこともありました。

……《HKE》ことデヴィッド・ルッソさんあたりもそうなんですが()、いちおう以上の実績があった上で、こういうお騒がせパフォーマンスをしてくれる人って、音楽ジャーナリズム的には〈おいしい〉んですよね!
いや。ヴェイパーウェイヴの世界に、あると言うほどのジャーナリズムなんて、存在しないようなものですが。しかし《ここ》なども、多少はそういうところがあるのかも。

そして……今2021年の7月。《天気予報 2》を名のるアーティストが、『スーパーシグナルウェーブ!!!』というアルバムをBandcampでリリースしました。シグナル系の有力レーベルである、《Night Coverage》から()。
かと思ったらそのアルバムは、わずか数日後にデリートされてしまいました。この方においてはお得意の、自主的テイクダウンだろうか、と想像しています。
こんなことを《事件》と称するのも大げさですが、しかし、私が少々びっくりしなかったとは言えません。

ああ、そもそもこのお天気2さんが、オリジナルのお天気さんと同じ人であるのか、どうか……? たぶんそうだろうと思っているのですが、しかし誰に訊ねたところで、真実が分かりはしないです。

で。そうしてBandcampからは消えてしまったアルバム『スーパーシグナルウェーブ!!!』ですが。しかし、インターネット・アーカイヴにアーカイヴされてしまっています。いやはや、これがネットの恐ろしさと言えましょう。
サウンドとカバーアートだけでなく、発表当時のあおり文句までも、そちらに保存されています。そのトーンのむやみな高さを愛するので、引用します。

ここにいるよ!!!新しいSIGNALWAVEアーティスト!!! 天気予報 2
私は大阪出身です!!! そしてこれは私のデビューシグナルウェーブアルバムです! 私はSIGNALWAVEがとても大好きです!!!
懐かしい日本のコマーシャルを毎日見ながら育ちました!!
いいですね、アジアの古いコマーシャルを見つけました! よくやった!
テレパシーはすでにこのゲームで私を打ち負かしましたが、私は性交する必要があります!!

 

あなただけの69曲!!
Nice!!
Vinyl soon!

というこのあおりをいま見て、〈もう、いきなりヴィニール盤をプレスする気……〉と感じたことを想い出します。よくやった! いや、しかしやっていない!!
そして。このお天気2さんは、かのスラッシュウェイヴの巨人《t e l e p a t h テレパシー能力者》さん()、その人にライバル意識を抱き、対抗するためにこのアルバムを作成した、とでもいうのでしょうか? 対抗できたのでしょうか?

ところで。いちおう聞いてみますと、このアルバム……(69曲・約33分を収録)。

各トラックのタイトルがCMの商品名そのものなのですが、しかし、それが途中からずれています。対応できていません。
また、同じ素材が何度も出てくるような気もします。かつ通常の感覚では、マスタリングあたりにも難があると言えそうです。

と、失敬ですけど、ずさんさが目だっています。あるいはそれが、自主的テイクダウンの動機だったりするのでしょうか?

などとは言いながら、ラスト曲であるタイトルトラックは、なかなかいいと思いました。これは腐臭にまみれたメガミックス&マッシュアップみたいなもので、それまでに登場したCMサウンドらがぐちゃ混ぜのこんとんで、逆に爽快です。イェイッ

──と、そんなことがあってから、追ってこの2021年8月末。再びナイトカバレッジからリリースされたのが、新規まき直し、お天気2さんのシングル曲。
それがわずか33秒間の断片的サウンドなのですけれど、しかしそのタイトルが性交的に長く、思わず草が生えてしまいます。

アジアで放映されたコマーシャルからリッピングされたあなたの静止画像やビデオは、創造的または興味深いものに合格することはありません テレパシーはすでにこのゲームであなたを打ち負かしました 性交オフ

そしてサウンドそのものは、何だか分かりもしませんが軽薄で軽率な感じのCMサウンドがたれ流され、そしてトラックのタイトルそのものが読み上げソフトによって読み上げられる、というものです。性交オフ!!

かくて。お天気2さんと私たちはいつの日か、〈性交オン!!〉と、高らかに叫ぶことができるのでしょうか? テレパシーさんの牙城を崩すことが? 性交を祈ります!

と、だじゃれもびみょうに決まったところで──ぜんぜん決まっていませんが──、この文章を、終わりにしたくもあるのですけれど。
しかし。

どう考えても最大の問題点は、こんな古いテレビのCMらのサウンドを、ほとんどそのままたれ流している音楽(もどき、その以前)が、何になるのか。なぜそんなものを聞いているのか、いつまでそんなことをしているのか。
それがいつか、〈創造的または興味深いもの〉になりうるのか──、ということでしょう。
フラットに言ってしまえば、せめてさきに賞賛したぐちゃ混ぜミックスアップ曲くらいの質とくふうが欲しい、というわけですが……。

私たちのボードリヤールさんは著書『芸術の陰謀』で、美術家アンディ・ウォーホルさんの自己模倣・自己反復への転向・転換を、ちくちくと批判しています。

ウォーホルが一九六〇年代に《キャンベルスープ缶》を描いた時、それはシミュレーションとあらゆるモダンアートに対するみごとな一撃となった〔…〕。
ところが、ウォーホルが一九八六年に《スープボックス》(キャンベルスープの紙箱)を描いた時、それはもはや華麗な一撃にはなり得ず、ステレオタイプなシミュレーションに陥ってしまった。
一九六二年に、彼は(スープ缶で)オリジナルな方法でオリジナル性の概念を攻撃した。一九八六年に、彼は(スープ箱で)非オリジナルな方法で非オリジナル性を複製した。
ジャン・ボードリヤール『芸術の陰謀』(2011, NTT出版 p.113-4)

かつ、これがシグナルウェイヴだけの問題ではない、とも思うんですよね。

私たちのことに限定して言うと、ヴェイパーウェイヴのように聞こえなくもないサウンドを作ることは、あまりにもかんたんです。私にでさえ、できなくはないくらいです。
しかも、その〈誰にでもできる〉ということに、積極性を見出そうとしています。──ですけれど?

性交オフ&性交オン&オフ。反復強迫ということは、反復のあげくにその強迫を、克服できるかのように思えてならない──、という楽観的な営みらしいのです。

[шrαρ-υρ in ԑngłiꙅℏ]
天気予報 (Weather Forecast) is one of the biggest stars of the Signalwave scene. In fact, his popularity seems to be quite impressive.
However. Since last year 2020, it seems that instability has been noticeable in this person's behavior. Erasing and returning many of the works on Bandcamp, returning soon after announcing his retirement, proclaiming "Death of Signalwave" and "The Age of CM PUNK", and more.

And then, in July 2021. An artist calling himself 天気予報 2 (Weather Forecast 2) released an album called 『スーパーシグナルウェーブ!!!』 (Super Signalwave!!!) from Night Coverage, one of the leading labels in the Signal scene. It contains 69 tracks and about 33 minutes.
And I feel that the original Mr. 天気予報 and the “2” are the same person but I apologize if it is not.

However, the album was delisted just a few days later. I imagine it was a voluntary takedown, which is his specialty.
It's a bit of an exaggeration to call this an incident, but I was a bit surprised.

And the album 『スーパーシグナルウェーブ!!!』 has been deleted from Bandcamp, but the archive remains. This is the horror of the Internet.
When I listened to it, felt that the production was a little rough. The commercial products written in the titles do not match the contents of the sound, etc.

However, I thought the title track, the last of the album, was quite good. It's like a rotten stinking mega-mix or mash-up of all the CM sounds up to that point, and it's refreshing yeah.

And after all that, here we are at the end of August 2021, the single track by the newly reworked 天気予報 2, released again from Night Coverage.
It's only 33 seconds of fragmented sound, but the title is so sexually long that it makes me weed.

Your still images and videos, ripped from commercials aired in Asia, will not pass for creative or interesting. Telepathy has already beaten you at this game. Intercourse off.

And the sound itself, I don't know what it is, but it's just a bunch of frivolous and thoughtless CM sounds, and the title of the track itself is read aloud by the reading software. Intercourse off!!

And so it goes. Someday, 天気予報 2 and we will be able to yell “Intercourse on!” in high spirits? Can we break the stronghold of t e l e p a t h テレパシー能力者 the Vaporwave king? Intercourse on!!

DreamSphere, V.A.: TIDE-010 - 銀河間 (2021) - 《ドリームトーン》とは?

このヴェイパーウェイヴみたいな世界を眺めていると、さまざまなプチ・ムーブメントらが、そこに次々と興ってはすたれていく──ということに気がつくような気がします。
そして今回ご紹介しますのは、《Dreamtone》、ドリームトーンと呼ばれる超マイクロ級の新興サブジャンルです()。

ただし、このミクロでナノピコな運動が、ことし末くらいにはビッグなムーブメントになっていないとも限りません。まあ、そうまではならないと予想しますが。

端的に言うならドリームトーンとは、むやみな長尺のドローン系チルアウトのようです。曲調のきょくたんなフラットさを誇り、あまり展開らしい展開を持ちません。
このサウンドは、安らかな夢から導き出されたものなのか、またはリスナーらを安らかな眠りに誘おうとしているものなのか……。おそらくは、そのどちらかでしょう。

そして。このスクールの奇妙に目だつ特徴のひとつは、各トラックの演奏時間が、へんにきりのいいジャストの数字になっていることです。最短で10分、平均的には30分、長ければ50分、などなどなど。端数なし、明らかに意図的な操作です。
どういうつごうで、そうなっているのでしょう? どうせ展開のない音楽ですから、10分でも50分でも同じだし、機械的なきりのよさで処理──といった意図なのでしょうか?

……そこらに私はヴェイパーウェイヴ特有の、不敵なシニシズムニヒリズムを感じてしまうんですよね!
楽曲の演奏時間などというものは、それ自体の内部から決まってくるような、常識──それを、むだに否定しています。《内部》という幻想への否定でしょうか?
そういう構えのいやな感じが、このドリームトーンというプチ・ジャンルを、通常のスタティックでカーム(calm)なドローン系チルアウトとは、また別のものにしているのでしょうか。

で、さて……。

《DreamSphere》は、〈ネット上初めてのドリームトーン音楽レーベル〉を自称するカンパニーです。2020年・秋から活動中のようです()。
そして、“TIDE-010 - 銀河間”は、今2021年7月・発の、このレーベル初のコンピレーションです。ご本人らが言われるように、〈これがドリームトーンだ!〉という宣言と、受けとめうるでしょう。タイトル中の“TIDE-010”は、品番です。

ところで。

このドリームトーン全般について、私が強く思っているのは、〈長すぎて、ことばを喪ってしまう!〉ということなんですよね。
いや、表面的には〈長すぎて〉という気がするのですが──最頻の尺が30分間ですから──。でも実は、また別の理由があるのかも知れません。
何となく気持ちいい感じはありながら、しかしふしぎと、〈いま鳴っているこのサウンドに集中〉、ということができません。分析的に聞くことができないし、構造が把握できないし、ゆえにことばが出てこない。

〈むやみに長いドローン系アンビエント〉と言うなら、私が長年愛聴しつづけているスティーヴ・ローチさんの、“Immersion”シリーズあたりもそうですが。……しかし何か、そういう親しい響きとは別の性質を、ドリームトーンには感じています。

かのブライアン・イーノさんは、〈アンビエントとは、傾聴を求めない音楽である〉、ほどのことを言われました()。そのいっぽう、私たちのドリームトーンは、〈傾聴をすり抜けていく音楽〉だったりするのでしょうか。
何かそこには構造的に、聞き手の集中をかわしていくところがあるのではないか……。そんな気さえもしています。いかが思われますか?

ともあれ。

ドリームスフィアによる“銀河間”、これは全19曲を収録したオムニバスです。そのすべてのトラックの演奏時間が10分ジャストなので(!)、合計すれば3時間10分。
その10分間とは、ドリームトーンで考えられるもっとも短い演奏時間だと思われます。ショーケース的なオムニバスなので、可能な限りコンパクトになっているのかと。

そして、この可能である最短の10分間でさえ、たちまち注意も集中もそらされて、よく分からなくなってしまいます。そして残るのは、〈何となく気持ちいい音を聞いたような気もする〉という印象だけなので、おすすめです
つまり。私たちの日常の《夢》という営みは、目ざめたときに〈何となくいい夢をみた気もする〉、という印象だけを残せば成功ですから、そうなのです。フロイトさんに強くかぶれている立場から、これは言えます。

……とはいえ。これもドローン系なのですが、さいごのほうに入っている2曲くらいは、ちょっと耳にやさしくない響きなのでどうかな、とは思いました。

そして続いては、もはや信頼のレーベルであると言える《global pattern》から、ドリームトーン運動に協賛していくコンピレーション、“GLOBAL DREAM PATTERN”をご紹介。

これは全15曲を収録、演奏時間は約9時間半(!)という、“銀河間”よりもいっそうトゥーマッチなアルバムです。オゥ、イェイッ
そして、両方のコレクションに参加しているアーティストらは……。意外と少なく、ああ、たぶん3組だけと見られます。

このグローバルのコンピレーションも聞きごたえ十分ですが、しかし、コアなドリームトーンであるらしきものは、やはりご本家による“銀河間”です。
グローバルのほうのドリームには、彼らが得意としているスラッシュウェイヴ()、もしくはドリームパンク()、それらからのアプローチ、という印象が目だつんですよね。

その典型が、私が強くリスペクトしている《カゴシマ・タンジェリン》さん()、彼によるラストのトラックです。
“zzz”というタイトルのついたそれは44分間もの力作で、すごくいいとは思うのですが。しかし、ドリームトーンということばを求めてはいないような気がします。

それにしても……。

このムーブメント──ドリームトーン。これを大いに肯定的に、受けとめたくはあるんですが。しかし、楽曲らの長さはほどほどにして欲しいな、とは思うんですよね!
10分ちょっきりとは言いませんが、できれば1トラック20分間くらいにとどめていただきたくて。40分間が4曲入りのアルバムみたいなもの、聞かない前からくたびれてしまう……という、実に根気のない私からすれば!

[шrαρ-υρ in ԑngłiꙅℏ]
Dreamtone is one of the micro genres that is currently buzzing around the Vaporwave scene in this summer of 2021.
Simply put, it sounds like an unreasonably long drone-style chillout music.
But I don't think it's just that.

And DreamSphere is a company that calls itself “The Internet's first Dreamtone music label”. It seems that it has been active since the fall of 2020.
And “銀河間 (Intergalactic)” from DreamSphere, is an omnibus album containing all 19 songs. The playing time of all the tracks is just 10 minutes (!), So the total is 3 hours and 10 mins.
10 mins is the shortest playing time possible in Dreamtone, I think. It's an album as a show-case, so they are maybe.

…A strange feature of Dreamtone is that the playing time of each track is a very nice and just number. 10 mins or 20 mins if short, 50 mins if long, and so on.
What are they thinking and doing so? It's music that doesn't develop anyway, so is it the same for 10 mins or 50 mins?

That's where I sense the fearless cynicism and nihilism that is unique to Vaperwave!

And another feature of Dreamtone is the mysterious feeling that I can't concentrate on listening for some reason.
Even the shortest 10 minutes of a Dreamtone can quickly divert my attention and focus and obscure me. All that remains is the impression that I've heard a pleasant sound maybe, so I recommend this “銀河間”.
In short. Because our daily activities of dreaming are successful if it leaves us the impression that we had a good dream maybe, when we wake up. I can say this from the standpoint of being strongly devoted to Dr. Freud!