エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

Indicatif: コレクション (2021), 同 II (2022) - CRTの向こうに想定された《一》

フランスの人によるというヴェイパーウェイヴのバンド、《Indicatif》。2021年から活動中です()。
このバンド名のアンディカチフという仏語は、〈指標、徴候、放送番組のテーマ曲〉……といったことらを一般的に、意味するようです。

──で、それで、もう。このアンディさんによるヴェイパーが、実にこり固まったシグナルウェイヴなのです()。ザ・CM・オンパレードです!

ああ──。でも、そもそも英語とかではテレビ等による宣伝を《CM》って言わないようなので、こんなニッポン製の略語が通じているのは、おそらく世界ではヴェイパー方面だけなんでしょうけれど。

さて。現在までに8作のアルバムがBandcampに出ていますが、アンディさんによるシグナル作たちは、大まか2系統と考えられます。
そのアルバムのタイトルが、仏語であればフランス、ニホン語であればニッポン……それぞれの、CMおよび放送の断片らが、素材であるようなのです。

そして。ご紹介したいアンディさんの『コレクション』および『コレクション II』は、かなり、きわまってしまっているアルバムらです。
何しろたいへんな大作たちで、その第1弾は120曲・126分、第2弾は100曲・90分という無謀なボリュームを、全人類に向けて誇りちらかしています!

そしてアルバムのタイトルが日語であるので、素材らはニッポンのCM等。そして、80年代くさいものらが中心のようです。
かつ、この人のスタイルとして、根本的には短い素材らを、けっこうくどくどと、ループさせがち。
ゆえに……CMなんて本来は15秒とか30秒のがほとんどでしょうが、しかしアンディさんの楽曲に60秒くらいのが多いのは、その仕組みによって。

それで、いいとは思うんですけれど、さすがの私もやや引くところがあったんですよね! ではせっかくですから、皆さんもぜひこの、計210分くらいのCMシグナル体験を、エンジョイしてみてください。

ああ、それにしても……。

マーシャル・マクルーハンさん()──いわゆる《メディア論》の祖であり、私たちの偉大なる導きの師のひとりです。
そしてその人が、確かこのようなことを述べておられたと、私は記憶しているのです。

映画のスクリーンというものは、手前の映写機から出ている光を〈反射〉しているわけなので、つまり絵画とかにまだ近い。
いっぽうテレビのスクリーンは、向こう側からの光を〈透過〉して、その画像を表示している。この構造は、すなわち、礼拝堂のステンドグラスと同じである。

……マクルーさんの言説たちの、常に根底にありげな考え方として、〈テレビの普及と浸透は、むしろ人間らの意識を、近代から中世の段階へと逆行させる〉。逆に言うなら、中世のステンドグラスは、テレビ発明よりも以前のテレビだったのです。

それでもう、この現代人どもはあたかも、すべての崇高さの根源の《一》(イチ)であるらしき教会の、尊きステンドグラスを透過する光が描きだす、輝きに満ちた神聖なるもようや絵づら等をでもうっとりと眺めるかのように、テレビさまへとガッツリかじりつき、それへと拝跪し、そしてご自分らの祈りを──欲望を──捧げつづけているのでしょうか?

どういう救いが、そこから得られるとでも、思いこんでいるのでしょう?

いやじっさい、冗談でも比喩でもないんですよね、けっこうなところで。

──とは。はっきり言うなら、私はテレビなんて嫌いなんですよね! だってくだらないし、ムダにうるさいでしょう?
ところがそんなものを、いまだに悦んで視聴している未開でバカな中世人間どもが多い、との現況。
《近代》は、挫折しています。われらのフロイトさんが『幻想の未来』(1927)で叙述なされた《未来》──宗教やら何やらの腐った迷妄らからの解放──は、いまだ到来していません。

よってとうぜん自分からは視ませんが、しかし他人の視ているクソテレビの音を聞かされる、そのことが大嫌いです。しかしそのことが、意外と避けえないのです。

けれども……あるいは、そこで……。

低劣さをきわめたクソテレビ文明からの逃避が不可能なので、逆に私たちは、それを〈愉しめ!〉という内面化された資本主義クソ社会の規範──すなわち超自我──の命令に少しは従って、せめてこのシグナルウェイヴみたいなものを──古みを帯びて、薄められたテレビの害毒を──エンジョイしているのでしょうか?

さもなくば──。こんな私さえも旧20世紀には、悦んでテレビを眺めている時期が少しあった気がしますので──。その、蜜月の時代に味わいえた法悦のノスタルジアとして、シグナルウェイヴがあるのでしょうか。

それとさいごに、ちょっと音楽っぽい作品の話に戻りまして。

シグナル系ヴェイパーの近年から現在あたりの王者と申しますれば、もはやすっかりおなじみの、《天気予報》さん()です。
それとアンディカチフさんとの比較を意図して、ちょっといくつかのアルバムを、聞きなおしてみました。図に出ている、コンパクトにまとまった秀作『アナログ滝』などを。

すると……。やっていらっしゃることらは、そんなに変わらない、とも言えるのですが。

しかしお天気さんのサウンドにはその全般に、何か奇妙なベールでもかかったような……ふしぎな音質のなまり方が、あることに気づきました。アンディさんとの比較によって。
これはおそらく意図的なもので、単にもとがVHSテープだからとかYouTube動画からのリップだからとか、それだけのローファイさではない気がします。

ことによったら、再生した音を室内の遠くに置いたマイクで拾っているのではないか、とも……? そんなめんどうなことはしない気もしますが、にしてもそういう、ふかしぎなサウンドの劣化が、何か奇妙な空間性を感じさせるのです。

ともあれその劣った音質のソフトさが、実によくて。かつ、まとめ方や構成にも、くどさやいやみがなくて──。やっぱりお天気さんはシグナルの帝王、さすがです……と、あらためて、感じいったしだいです!


Indicatif: コレクション (2021), コレクション II (2022)

[sum-up in ԑngłiꙅԧ]
A Vaporwave band, Indicatif, apparently from France, has been active since 2021 ().

They have released 8 albums on Bandcamp so far, but there are 2 kinds of Signalwave from Indicatif.
If the title of the album is in French, the material is French; if in Japanese, the material is Japanese… The material is fragments of commercials and broadcasts, respectively.

And the albums we would like to introduce, 『コレクション』(Collection) and 『コレクション II』 by Indicatif, are quite outstanding.
The first volume contains 120 songs & 126 min, while the second volume contains 100 songs & 90 min, they boast to all mankind, of their huge volume!

And since the album titles are in Japanese, the material seems to be mainly Nippon commercials in 80's style.

In addition, as Indicatif's style, they tends to loop short pieces of music in a long and tedious way.
Therefore, common CMs on are probably 15 or 30 sec long, but Indicatif's music is often around 60 sec long because of this mechanism.

And now we hope you will enjoy this huge, huge commercial signal experience of 210 minutes or so in total!