エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

ボカロP “いよわ”/ハウス・ミュージック/肉体とシミュレーション

アカイアカイ アサヒアサヒ - 産経新聞の何かの記事から引用
アカイ アカイ アサヒ アサヒ

あるきっかけで、つかぬことを、近ごろ想いだしたのですが……。

確か、1993〜95年あたりの大むかし……。朝日新聞の文化欄に、その時代のトレンディな論客でいらした浅田彰先生が、こんなことをちょっと、お書きになっていた気がするんですよね。

……あたかも、ハッカーめいたサイバー・キッズが、パソコンの操作によってハウス・ミュージックを発明したように……

で。お察しのこととは思うのですが、その論述の本題は、ハウス論ではありません。
音楽の話でさえもなく、たぶん世界がサイバーっぽくなっていくようなお話の傍証として、たとえばそういう現象もあった──“かのように”、チラリと述べておられたかと思うのです。

それと、まあ。これは当時は印象的なできごとだったので、朝日に掲載の……浅田先生が……という記憶は鮮明なのですが、しかしいま確証はないことです。
かといって確認しようにも、電車に乗っていく遠くの図書館で、朝日の縮刷版を3〜4年間分もチェキる時間はありません。

ゆえに……投げやりな解決策で! テクストの以下では実名を伏せて、くだんの執筆者さまを、《A・A先生》と呼称いたしましょう。これによって裁判が、じゃっかん有利になるはずです。訴えられた場合に。

それでは、お話を戻しまして──。

ハウスというのが、米シカゴ発の《ハウス・ミュージック》のことであったなら、ハッカーもどきのサイバーなパソコン・キッズみたいな方々は、何の関係もありません。その誕生について。
そんなことは、おそらく皆さまもよくご存じでしょう。

それが、いかにして誕生したものなのか──たぶん、ウィキペディアとかにも書かれてありましょう。とくにその英語版であれば、まあそうかな……くらいには書かれているでしょう()。
また、あるいは。もしそんな文字らを読むのがめんどうならば。〈“ゆっくり”解説動画〉か何かでてきとうに、まとめたハウス史が視聴できるのではないでしょうか。

いや実のところは、別にそういった“知識”が要るものだとも思っていないので……。
ですから。ご覧のようにこのページ上で、F・ナックルズ、M・ジェファーソン、そしてDJピエール……というシカゴハウスの超オリジネイター各氏によるMIXを、ご紹介しています。ハウスとは何か、これらがその代表例です。

……で、そうかと言って。
とんでもない大むかしにA・A先生が、偽りのハウス誕生秘話を語っていらしたことを、いまさら責めようというつもりはないのです──その当時においては、すごく頭にきていた気もしますけど──。

なぜなら、1990年代の前半のニッポンでハウスを、それなりに正確に把握している人は、ほとんどいなかったのです。

ああ、いや。ここで私は、ちょっと自分の知っている気がする話題だからといって、何かよけいなことらを長くつらつら書いてしまいそう。よって大胆に、話をはしょってまいります。

それで。いまハウスについて考えたとき、それが、肉体から肉体で、できていったもの……ということを強く想うんですよね。

もとはと言えば、だいたいのポピュラー音楽がそうであるように、そのルーツはリズム&ブルース(R&B)です。そのR&Bとは、アフロ-アメリカン的なポピュラー音楽のことです(ただし、一般的にはジャズを含めない)。
そこからダンスフロア向けに先鋭化したサウンドたちが、まあ、発展して。ファンク・ディスコ〜フィリー・ソウル〜ハイエナジー──エレクトロニクス関係などの“白っぽい”要素らをもどんどん取りこみながら──そして、ついにはハウスの誕生となったわけですが……。

その過程を発展とでも呼ぶとき、その発展の原動力は、“何”でしょうか?
それは、ニューヨークやシカゴ等のクラブ/ディスコに集った先端的なダンス・ピープル/パーティ・クラウド、その方々の嗜好や要望に他なりません。

目の前の人々をフロアに引きだし、激しくダンスさせる……そのためのDJたちのくふうがあれこれとあり、そしてクラウドはそれに、呼応したりしなかったり。その繰り返しが、結果としてシカゴのアンダーグラウンド・クラブシーンにて、ハウスという音楽を作ったと思われます。

そして結果として“成った”ハウスは、ファンク・ディスコどころかハイエナジー等に引きくらべても、音楽めいた要素らが大はばに差し引かれ、マシーン・ビートばかりがドカチャカと大きく鳴って騒音性がきわまり、しかも構成が異様に反復的です。
が、そうかと言ってもルーツ的でソウル的な要素らが残っていなくもないというか、ときにはかなり大きいので、その分裂性がまたいいんですよね。

そのようなシカゴハウスの奇妙チン妙な特徴を、私はかつて、〈インダストリアル・ソウル〉と呼んでおりました。

しかもそうした曲たちを、テンポを合わせて次々に、シームレスにつないでいく。そうすると、慣れない人には90〜120分間もずっと同じ曲が鳴っているようにさえ聞こえるらしいのですが、むしろそのくらいでいいわけです。反復と持続の中に起伏がある、という状態を作っていきたいのです。

そういうハウスのDJ-ingについて──。持続についての固執がきわめて強くあり、大げさに言うならパラノイアック、〈パラノ的〉かなあ……とも、考えたことがあります。
それに対し。同じターンテーブル起源の音楽ですが、ヒップホップDJらのなされることは切断・飛躍が目だってスキゾフレニーク、〈スキゾ的〉かな、と……まあ言えなくもないのでは。この二元論は、かのA・A先生のお家芸の関連のことですので、余談ですけど触れておいてよいでしょう。

で。それもこれも、アンダーグラウンド・クラブのダンスフロアで肉体を揺らし汗を流す人々のため、その方々の嗜好に応じてのことです。その悦びのため、ハウス系のDJやプロデューサーらもまた、ダラダラと汗をしぼってきたのです。

であるので、ベッドルームでパソコン・キッズが座ったまんまのクールな頭脳プレーでやったようなことでは、ありません。関係ない。とまあそんなことは皆さまもよくご存じと、知った上で述べてきましたが……。

ここで。座興みたいなことですが、ひとつ逆に考えてみましょう。

当時にハウスをご存じでなかったA・A先生は、なぜそれを、ハッカーめいたパソコン・キッズによる所産かのように思いこまれたのでしょうか?
むしろ、そうした新奇なデジタルっぽい(らしい)音楽が、サイバーにしてハイテックなキッズによって、座ったままのパソコンの操作で発明されて欲しい……そのような無意識の願望が、《錯誤行為》として表れたのだと思われます。

A・A先生のご風貌もまた、一貫して〈ナード〉っぽくおられ──ここでの“nerd”は〈おたく〉ではなく、ガリ勉くん風という意味──ますが。そして何やら先端的らしき音楽であるハウスを、彼の同志めいたナード少年らが開発成功したのなら、ご同慶のいたりで実に悦ばしい……と、そのくらいの願望をたくましくなされたのでしょうか。

と、フロイトさんリスペクトで分析かぶれの私ですから、そういうことを平気で述べたりするんですよね。ごくまれに……ですが!

また。A・A先生とは別のところでも、わりにそういう話の歪曲がその時代のニッポンには、あったように思えます。
つまり、〈ベッドルーム・テクノ〉ということば──一種の標語──が、ちょっと盛んに言われたりしましたが……。そういう誘導がありましたが……。
しかし。そんなひっそりとパーソナルなものではない、街頭や公共の場にての《アシッドハウス》大フィーバー・1988年の戦慄的な恐ろしいまでの狂熱が、その余熱が、20世紀末期のハウス/テクノ関係の隆盛を支えていたことは、さすがに知らねばなりません。私も逸話でしか知りませんが()。

🪩 🤸 🤖

だいたいニッポン人は踊らない、クラブ/ディスコよりもカラオケに行きたい人が多いわけですから、そういう座りこむ方向に話をねじ曲げていくんですよね。
クラブ文化とカラオケ文化は排他的なもので、そのいっぽうが盛んな文化圏では、他方は流行らない……。そう言えばそんなことをも、むかし考えておりました。

ともあれ。私みたいなものが申すのも何なのですが──いまはもう、ほとんど踊らないので──ダンスで流された汗は、ウソをつきようがない。
何らかの真実が、そこにはあります。つまらない音楽を分かったふりして聞くことはできても、つまらないと感じながら2時間とか踊りつづけることができるでしょうか。

さてさて。ここで大きく、冒頭のところまでお話を戻すのですが……。

なぜにまた、A・A先生(らしき人)のチン妙なハウス観という大むかしのことを、ふと想いだしたかと申しますと。

ボーカロイド曲のプロデューサー、〈ボカロP〉でおられる“いよわ”さん──という方(の作品ら)が、いま注目の的らしいです。
ツイッター(現・X)でのお知り合いみたいな方である“namahoge”さんが、そのブログでご紹介なされていたので、私はそれを知ったのです()。

それで、すなおな私としては。誘導された感じで、そのいよわさんによる楽曲らをいくつか拝聴いたしました。
そして、その感想が。

〈パソコンから出て、パソコンへと還る……音楽に本来ふつうになくべからずの肉体性ってものを全面的にスパッと斬りすてた、デスクトップのファインプレー……おそらくA・A先生のむかしお考えらしたような理想のひとつの実現、デジタル的サイバーなメカニカル・ポップ……〉

ともあれ何かユニークではあり、ざらにはできないものでしょう。これはこれでいいのかも知れません。

と、しかし、まあ。
例のあの《ヴェイパーウェイヴ》とかいう、ふざけきったパソコン音楽みたいなもの(……!?)を、何やら称揚・宣伝している感じのイデオローグめいたモドキ野郎こと私が、そんなことを言いきるのもおかしいのでしょうか。

あんな風ですが、ヴェイパーもまた、R&Bとかの流れを承けたもの──みすぼらしく頽落したその末裔であろうか、と考えています。それは、肉体が音楽を、音楽が肉体を、それぞれ力強く駆動していたよき時代をしのび、その墓碑銘を書きつづけています。

だとしても、まあ、それこそ。われらがボードリヤールさんの口ぶりを、ちょっと拝借の寸借いたせば、いまや肉体そのものがシミュレーションでしかないのでしょう。
であるので、今21世紀における人体改造の隆盛──たとえば美容整形/タトゥー描画/性転換……等々の施術らが前世紀に比してお盛んになっているかと見て──は、どうせなら積極的にシミュレートしていくぜっ!!……という健全な前向きさなのでしょう。

そして、そのような積極的シミュレーション活動への賛歌として、たとえばあの《ハイパーポップ》があるのでしょう。よくも悪くも身をさらす……といういさぎよさを、そこにともないながら()。
しかしそこまで積極的にはなりにくいニッポン人的には、いよわさんレベルのシミュレーションが、そのご趣味に合う(場合もある)のかも知れません。


Vocaloid producer “iyowa” / House Music / Physical & Simulation

[sum-up in ԑngłiꙅh]
This text is, in essence, my own hymn to House Music, and also a requiem to it.
It praises “the physicality” that is the source of its development, from R&B to Funk Disco to House.

But on the other hand, music that discards that physicality seems to be subtly popular at present.
As part of this trend, I briefly introduce a Vocaloid producer, いよわ/iyowa.
Their music may be the cyber sound of extreme digitality generated from inside a computer, as imagined by a Nipponese intellectual at the end of the 20th century.

To borrow Baudrillard's words, it may be a triumphant ode to an era in which the body itself has become nothing more than a simulation.

身分けの前の、こと分け - ヴェイパーウェイヴのサブジャンル&関連用語たち

ヴェイパーウェイヴの関連で言われている新語やチン語ら、そのご説明です!
気になる項目を拾い読みなさるも可、また上から順にご高覧なされてもよろしいかと?

《見出し語の一覧》
[1. 基本的なヴェイパーウェイヴ用語🏛]Vaporwave, ヴェイパーウェイヴ | Chopped and Screwed, チョップド&スクリュード | Slow Down, スローダウン | Chillwave, チルウェイヴ | Eccojams, エコージャムズ | Plunderphonics, プランダーフォニックス | Muzak, ミューザック | Aesthetics, エセティクス(美学)
[2. 初期からのサブジャンル🐬]Hypnagogic Drift, ヒプナガジック・ドリフト | Utopian Virtual, ユートピアン・バーチャル | Segahaze, セガヘイズ | Mallsoft / Mallwave, モールソフト / モールウェイヴ | Late Night Lo-Fi, レイトナイト・ローファイ | Vapornoise, ヴェイパーノイズ | Broken Transmission / Signalwave, ブロークン・トランスミッション / シグナルウェイヴ | Computer Gaze, コンピュータゲイズ | Future Funk, フューチャーファンク | Vaportrap, ヴェイパートラップ | Vapormeme, ヴェイパーミーム
[3. やや新しいサブジャンル🆕]Ambient Vapor, アンビエント・ヴェイパー | Slushwave, スラッシュウェイヴ | Hardvapour, ハードヴェイパー | Dreampunk, ドリームパンク | Classic Vapor, クラシックヴェイパー | Vaporhop, ヴェイパーホップ | Barber Beats, バーバー・ビーツ | Dreamtone, ドリームトーン | Hushwave, ハッシュウェイヴ | Weathersoft, ウェザーソフト | Dungeon Synth, ダンジョン・シンセ

なお以下のテクストのうち〈【】〉で囲まれた部分は引用であり、特記がなければ《Last.fm》Wikiの英文をグーグル翻訳したもの。執筆者の皆さまに感謝。
[初稿]:2020/04/16 / [最終更新]:2024/10/13 / [更新ヒストリー]:⤵️

1. 基本的なヴェイパーウェイヴ用語🏛

《Vaporwave, ヴェイパーウェイヴ》

【コンピューターソフトウェアを使用して、オーディオの残骸やゴミの音楽からサウンドを再構築する、インターネット上の少数のアーティストで構成されるジャンル。
〔中略〕ポピュラー音楽のサンプリングと1980年代/90年代のテレビ広告、ループ、スローダウン、ピッチ変更、およびチョップアンドスクリュー効果を多用しています。
このジャンルの名前は、ベーパーウェア(市場での発売(「煙を売る」)を意図していないコンピューター製品の軽蔑的な用語であり、蒸気の遠方への言及を表すものです。】
図の作品、Macintosh Plus“Floral Shoppe”(2011)。これがいったい“何”であるかについては、いずれ別稿にて。

《Chopped and Screwed, チョップド&スクリュード》

【チョップドアンドスクリュード(スクリュードアンドチョップド、スローアンドスローとも呼ばれる)は、1990年代初頭にヒューストンのヒップホップシーンで発展したヒップホップミュージックをリミックスする手法です。
これは、テンポを1分あたり60〜70の4分音符のビートに減速し、ビートのスキップ、レコードのスクラッチ、停止時間、および音楽の一部に影響を与えて「切り刻んだ」バージョンの オリジナル。】
この項目は、英ウィキペディアより。そういう手法が陰湿なエレクトロニック系に持ち込まれ、そしてついついヴェイパーウェイヴが誕生しちゃった気配。
図は、DJ Screw “The Legend”(2001)。2000年に他界したDJスクリュー、この技法の発明者、その遺作集。

《Slow Down, スローダウン》

音声サンプルのスピードを変えるにさいし、1990年代半ば以降のデジタルサンプラーは、“ピッチは維持してテンポだけ変える”という機能を持つ。一般ポップのリミックス作業などでは、これが重用されてきた。同様の操作が、いまではPC用の軽いソフトでも可能。
ところがヴェイパー式のスローダウンは基本的に、テンポもろともピッチを落とす。45回転のレコードを33で再生みたいな、原始的な響きを平気でタレ流す。
なぜそんな風であるかというと、そのマヌケな響きへの偏執的愛着、ユルさダルさへの希求、上記のDJスクリューらの影響、かつ全般に、こぎれいなサウンドへの抵抗、ローファイ志向、等々々。
そしてもうひとつ、近ごろ思うのは、ヴェイパーは音声らをスローダウンする/《ポップアート》は素材のイメージらを拡大使用する──それらの並行性。

《Chillwave, チルウェイヴ》

【チルウェーブ「1980年代のシンセポップとドリームポップの出会い」(Glo-Fiと呼ばれることもあります)は、アーティストがエフェクト処理、シンセサイザー、ループ、サンプリング、シンプルなメロディラインを備えた重度にフィルタリングされたボーカルを多用することで特徴付けられる音楽のジャンルです。
〈中略〉New York TimesのJon Parelesはこのように音楽を説明しました。そしてしばしば弱いリードボイス)。それは、不況時代の音楽です。低予算で踊れます。」】
チルウェイヴはヴェイパーの前身、またはきわめて関連が深いジャンルと見なされている。図は、Washed Out“Life Of Leisure”(2009)。これがチルウェイヴの代表的傑作アルバムと言われ、なるほど眠さにヴェイパー感がなくもない。

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《Eccojams, エコージャムズ》

【Eccojamsは、電子音楽テクニックの一種として始まったVaporwaveのサブジャンルです。 Oneohtrix PointのパイオニアエイリアスChuck Personを使用することはありません。通常はキッチュな値の古いポップソングを使用し、ディレイ、グリッチ、リバーブなどの手法を使用してそれらを再構築して新しい音楽を作成します。】
図は、Chuck Person's Eccojams Vol. 1(2010)、ヴェイパーの手法とセンスを決定づけた先駆的作品。
……たんにそのサウンドが、快く好ましいだけではなく。既成の古いポップ曲らをローファイ化・断片化しながら反復、さらにエコー(ディレイ)をも用いて反復を重ねる、そんなことにどういう《意味》があるのか──、それを考えさせられ続ける。

ところで筆者は、このヴェイパーの最重要キーワード“Ecco”について、〈“エコ”ロジーみたいなニュアンスがあるのでは?〉と、ずっと長らく考えていた。
この“Ecco”なる語は、まずビデオゲームの『エコー・ザ・ドルフィン』(1993)のイルカくんに由来し、かつ反響のエコーをも言っている。──そこまでは、確実。
しかしイルカという動物は、広く一般に、〈エコロジーの使徒〉として見られてもいる。かつまたヴェイパーは、古いサウンド資源らを再利用する、アートのエコ活動でもある──ゆえに。
──ということで識者らにツイッターでご意見を求めたら、〈それはありそう〉というポジティブな反応らをいただけたことを、記しておく()。

《Plunderphonics, プランダーフォニックス》

現代音楽の作曲家(もしくはメディア・アーティスト)であるジョン・オズワルドが、1985年に提唱した概念。訳すれば《略奪音楽》、もしくは盗用サウンド。
そういうものとしてのヴェイパーウェイヴ、その最大の影響源は、DJスクリューらのヒップホップだといちおう考えられる。
しかしヴェイパーの発展(!?)とともに、素材らをちょっとローファイ化しただけのタレ流し/現代音楽めいたアプローチ/頼まれもしないリミックス(リエディット)──、などと、盗用&略奪の手口らは多様化している。

《Muzak, ミューザック》

“Muzak”、ムザック、ミューザックとは、あらかじめショッピングセンターやオフィス等のBGMとして作られた、安もの音楽。
もともとはミューザック社の商標であり、またエレベーター・ミュージック、あるいはパイプ・ミュージック(Pipe Music)、等々とさまざまな呼び方がある。その歴史は意外と異様に古く、1920年代には誕生していたとか()。
なお、次の記事をも参照されたし()。このイーノさん関連の記事にもチラッと出ている話だが、ミューザックとは単なる安いBGMではなく、《人を操作しようという音楽》だ。ショップの店頭では購買意欲を高め、オフィスにおいては勤労への意欲を高め……と。
だがそんなにまでは強い効果がないので、ごあいきょうで通っているばかり。そのあいきょうの部分をすくい上げているのが、われわれの“モールソフト”なのだろうか。
で、そうかと思えば音楽には、もともと人を操作しようという側面がある。行進曲は歩きを促し、軍歌の類は殺人と破壊への意欲を高め、ラヴソングの類は性交への衝動を促進し……等々々。そして逆に、そうした音楽の原罪である《操作》の側面をなくそうということが、イーノさん発案のコンセプト《アンビエント》の、きわまりなき崇高さ。
それで図は、ミューザックの社内的な1985年にダビングされたオープンリール・テープのデジタイズであるらしく、全16トラックで演奏時間が24時間超(!)というしろもの。まずはこれを聞いてみよう!

《Aesthetics, エセティクス(美学)》
Aesthetics, エセティクス, 美学

アカデミックな“美学”とは、異なる。細かく言うなら、《21世紀のインターネット美学》。
あるいは、いまの英語のネット用語として、サブカルチャー内での「これヤバくねェ? イケてない?」みたいな趣向やセンスらが、「《美学》!」と呼ばれるもよう。
そしてそういう趣向の中で大きな要素らだと見られるのが、なぜか1980年代めいたグラフィックや風俗やサウンド、Windows95以前のヴィンテージPCら、スーパーファミコンやメガドライブ、およびそうした20世紀末のニッポン文化のあれこれ。
……つまりヴェイパーウェイヴのテイストなのである、なぜか。

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2. 初期からのサブジャンル🐬

《Hypnagogic Drift, ヒプナガジック・ドリフト》

【蒸気波の最も初期の形態の1つである催眠ドリフトは、他のサブジャンルよりも夢のようなもので、奇妙なサンプルから奇妙な催眠雰囲気を作り出し、時々アンビエントと境界を接するドリフト形式の音楽を作成します。
最初のアルバムHologramsのリリース以来、このスタイルの進化がありましたが、骨架的はこのスタイルの最初のパイオニアです。それは間違いなく、奇妙で刺激的なイメージを使用して音楽のシュルレアリスムを強調〈後略〉。】
近ごろはそんなに言われないキーワード。なお、“Hypnagogic Pop”という似たような語もあるが、それは一般的にチルウェイヴの唄モノのこと。
図は、上の文中でも言及された、骨架的(骷)“Holograms”(2010)。傑作!

《Utopian Virtual, ユートピアン・バーチャル》

【James FerraroのFar Side Virtualはproto-vaporwaveと見なされている人もいますが、アルバムへの初期の概念に対する影響は、関連付けによって独自のサブジャンルを生み出すようになり、今ではアルバム自体がvaporwaveと見なされる必要があります。
ユートピアの仮想音楽は、一般的にムザックを使用して、近未来的なユートピアの感覚を作り出しますが、一部の作品には不吉な偽ユートピアの響きがあります。】
高尚なりくつを別にすると、現在このユートピアン・バーチャルは、主にシンセをチャラチャラと鳴らしたお調子のいいヴェイパーをそう呼ぶことが多い気味。
図は、ユートピアン系の元祖と目される、James Ferraro“Far Side Virtual”(2011)。このアルバムとその性格については、次の記事を参考にされたい()。

《Segahaze, セガヘイズ》

ビデオゲームらのサウンドやムードなどは、最初期からのヴェイパーの重要な題材。そしてなぜなのかセガ・ブランドへの固執や偏愛があり、その要素の目だつものが、セガヘイズと呼ばれていた()。
……ただし、そういう言い方があった、くらいの話。こんにちのヴェイパー・ファンが、このセガヘイズという語を目にすることは、実にごくまれかと。
だがいっぽう、ゲームっぽさの濃いヴェイパーを呼ぶサブジャンル名が、何か他に生じているわけでもなさげ。ゆえに、ここにも参考のため記載。
そして図は、気鋭の新レーベル“Mossy Frog Tapes”からの2022年、ゲーム系オムニバス。これの題材もセガ製品なので、セガヘイズ復興のきっかけになるかっ…!?

《Mallsoft / Mallwave, モールソフト / モールウェイヴ》

【モールウェーブ(Mallsoftとも呼ばれます)は、ショッピングセンターのイメージと、ショッピングモールで聞こえる匿名のソフトロックムザックのリミックスを使用して、ノスタルジアを引き出すことを目的としたVaporwave音楽のサブジャンルです。】
この項目は、Aesthetics Wikiより。ようはスーパーのBGMをことさらに聞くという態度に始まり、そして雑踏のモヤモヤとしたふんいきを付け加えていく。
図は、식료품groceries“슈퍼마켓Yes! We’re Open”(2014)。サンブリーチのレビューで最高レベルの評価に輝いた、モールソフトの歴史的傑作。

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《Late Night Lo-Fi, レイトナイト・ローファイ》

【Late Night Lo-Fiは、eccojamsと90年代のユートピア様式の蒸気波のレトロフューチュリズム(参照:ユートピア仮想および偽ユートピア)からサンプリングするという考えを取り入れていますが、それを新しい政治的な光の中で提示します。
それは、明るい光の感覚、ブルージーな感じの大都会の夜の作成に、より関心があります。この絵を描くために、80年代の音楽と滑らかなジャズを多用しています。】
図は、ロフィ騎手“深夜のニュースを待っています ボリューム3ー衛星に接続する”(2020)。別に歴史的な名作っていうわけでもないけど、自分がコレをすごく好き。このシリーズの前作らもオススメ!

《Vapornoise, ヴェイパーノイズ》

【ベーパーノイズは、極端な細断性と過度に攻撃的な生産を特徴とする、研磨性のある蒸気波です。
ベーパーノイズは、マイクロサンプリング、ディストーション、静的および極端なサウンド操作を使用して、元のサンプルを認識できないようにします。
蒸気騒音の2つの素晴らしい例は次のとおりです。
  世界から解放され by 新しいデラックスライフ
  Y. 2089 by テレビ体験】
この項目は、mMratnimiat氏のRedditへの投稿より。図は、テレビ体験“Y. 2089”(2014)。HKEさんがものすごくサエていた時期の変名作品で、半分くらいはシグナル系。そんなに激しくノイジーではない。

《Broken Transmission / Signalwave, ブロークン・トランスミッション / シグナルウェイヴ》

【Signalwaveは、特にテレビ広告などからの古いメディアサンプリングに主に焦点を当てた、蒸気波の非公式な名前です〈中略〉。
これらの「壊れた送信(Broken Transmission)」には、通常、サンプルが重く〔乱用され〕、時代遅れのメディアの美学と穏やかな音楽的傾向という統一的な特徴があります。
これらのリリースでは、スムーズジャズを組み込んで、vaporwaveが構築されているゴミのムザックの美学を取り入れることもできます。】
この項目は、Aesthetics Wikiより。ここらで言われる《シグナル》とは、テレビのCM、番組のテーマ曲やアナウンスなど、コンパクトでインパクトの強い音声サンプルらを指している。あまりニホンでは意識されない英語として、“sign”は街の看板らを言い、また“signal”はテレビラジオのCMらが言われる。

……という上記の説明は、ブロークン系とシグナルを、ほぼ同一視している。しかし、よくよく考えたら、CMではない何らかの放送されたサウンドを使っているブロークン系も少なくはない。例が多いのは気象情報やニュース音声らだが、その他に邦アニメの音声をカットアップしているもの、等々々。
とすれば。まず放送もの系のヴェイパーを《ブロークン・トランスミッション》と呼び、その下位に《シグナルウェイヴ》、またお天気系の《ウェザーソフト》()、といったサブ・サブ・ジャンルがある……と見ておくのが適切だろうか。

なお図は、New Dreams Ltd.“Fuji Grid TV EX”(2016)。2011年のEPである“Prism Genesis”が増補&改題された、シグナルウェイヴの金字塔! どういうCMらが素材であるかは、和ウィキペに詳しい()。

《Computer Gaze, コンピュータゲイズ》

コンピュータゲイズとはもともとは、ヴェイパー最初期からの重要なアーティストである《Infinity Frequencies》が、自分の音楽スタイルに与えたネーミング、と認識している。その語がだんだん、ジャンル名として言われるように。
それがどういうスタイルかというと、まず断章形式であり、各楽曲の尺が30〜90秒くらい。そして安っぽい“ミューザック”やテレビCMのサウンド等々をしょんぼりとローファイ化して、あなたがただ独り面白くもない深夜テレビを視ているような寂しいムードを作る。
……そんなもの何が面白いのかと言われそうだが、しかし奇妙に引き込まれるところがあるんだ。図は、そのインフィニさんのアルバム、“Between two worlds”(2018)。いきなりの冒頭曲が、もう《神》でしかない!

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《Future Funk, フューチャーファンク》

【Future Funkは、Vaporwaveのデボルブ〈devolution, 衰退〉であり、French HouseとモダンなNu-Discoを組み合わせた、よりエネルギッシュな傾向にありますが、Vaporwave(およびマイナーな方法ではChillwave)のテクニックを使用しています。
音楽はサンプルベースで、リバーブエフェクトが普及しているため、前作よりもグルーヴ感が増しています。他の曲、特にシティポップミュージックの日本のボーカルやアニメのサウンドトラックがよく使用されます。】
図は、1980's NYディスコの聖地をイメージしたアルバム、SAINT PEPSI “STUDIO 54”(2013)。

《Vaportrap, ヴェイパートラップ》

【Blank Bansheeが彼のアルバムにBandcampで「vaporwave」のタグを付け〈中略〉、Vaporwaveのイメージと音楽的なテクスチャーを利用した、ハイテクトラップとヒップホップ音楽の非常にリアルで新しいスタイルがあります〈後略〉。】

《Vapormeme, ヴェイパーミーム》

ネット用語としてのミーム(meme)とは、ニホンで言われる“テンプレ”くらいの意味か。そういうわけで、既成のヒナ型にちょっと何かしただけのヴェイパーが、ヴェイパーミームと呼ばれる。まあパロディみたいなもので、その最大の元ネタが、ご存じ『フローラル・ショップ』。
で、はっきり言って、くだらないものが9割9分なんだけど。がしかし、そのミームやパロディのような性格がヴェイパーの本質っぽくもあって、否定はしきれない。
図は、MACINTOSH PLUS“FLORAL SHOPPE 911: FLORAL COP”(2015)。これは意外とくだらなくなくて、Redditの関連スレでも“ハハハッ、こりゃイイ”、ていどに好評。

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3. やや新しいサブジャンル🆕

《Ambient Vapor, アンビエント・ヴェイパー》

形容詞としてのアンビエントをくっつけただけ。雑に言ったら、《2814》みたいなサウンドでありそう。図のアルバム「新しい日の誕生」(2015)が、そのお手本。
……というぼんやりした認識しかなかったが、しかしその後、少しだけ考察を進めた。俗悪ワイ雑なヴェイパー世界の素材や手法らを、ムリにでも荘厳化し《昇華》にまで導く──という無意識の意図が、このサブジャンルの根底にありそう。次の記事をご参照されたし()。

《Slushwave, スラッシュウェイヴ》

【Slushwaveは、「t e l e p a t hテレパシー能力者」のサウンドを含むVaporWaveのサブジャンルです。通常のVaporWaveよりも長い(通常は6分より長い)重く重なったトラックで、ピンポンサンプリングと大きなリバーブで不明瞭になります。】
スラッシュの“slush”とは、シャーベット状の雪、ぬかるみ、そういう何かドログチャッとしたものだそう。《やおい》の“slash”、メタルの“thrash”とは違う。
Harley Magoo氏(アーティスト名・General Translator)によれば、この語の誕生は、2014年にテレパシー能力者がSoundCloudで自作曲にそういうタグを打ったことによる、とか()。しかしなぜ「ぬかるみ」なのか、リバーブかけ過ぎのせいで太鼓の音が「ベチャッ」という響きになったりするが、そのせいなのだろうか?
ちなみにスラッシュのジャンル内では、テレパシーさん特有のぼんやりしたジャケ写、またニホン語の陰気な曲タイトル、そういうところまでをマネしていくのが、《美学》であるらしい。様式美なので、パクリとかどうとか早合点してはダメ。
図は、そのテレパシーさんによる「仮想夢プラザ」シリーズ総集編(2015)。全31曲・約16時間なので、軽ぅ〜く聞いてみてね!

《Hardvapour, ハードヴェイパー》

【Hardvapourは、90年代のテクノ、ガバー、ハードコアテクノ、IDM、インダストリアルに影響されたベーパーウェーブのサブジャンルです。
著名なアーティストには、Sandtimer(HKE、hardvapourおよびDreampunkレーベルDream Catalogueの所有者)、DJ VLAD(wosX、別名Flash Kostivich(およびその他多数)】
ヴェイパーウェイヴの逃避的で懐古的な性格を懐疑するにいたったHKEさんが、もっと現実社会にかかわっていくべきとして創始したサブジャンル。だが残念ながら、このところあまり活気がなくなっている。
なお、これについてのみ“vapour”と英国式のつづりである理由は、自分の邪推によれば、提唱者のHKE氏が英国の人であるため。
図はそのHKE氏による、Sandtimer “Vaporwave Is Dead”(2015)。このときはすごくカッコよかった!

《Dreampunk, ドリームパンク》

【ドリームパンクは、このますますシュールな夢の世界の現実に住む地下の人々のための夢の音楽です。】
……という説明は、ドリームカタログ社のHPより。ようはそのボスのHKEさんが、自分と仲間らの方向性を形容していることばなんだ。
現象的にはドリ・パンの全般は、たとえば陰気なチルアウト、あるいはノリの悪いIDM、くらいに聞こえている。だが、かといって逆に、そういうものがすなわちドリ・パンなのか──というと、おそらく違う。定まったスタイルがあるのではないと、HKE氏も述べていた。
では、とその出自を見ればドリ・パンは、あからさまにヴェイパーウェイヴから派生。またそれを支えているシーンも、その大部分がヴェイパーと重なりあっている。ヴェイパーという名の生ぬるい汚水をいちども浴びたことのない人が、ドリ・パンをやっている……ということが、ほぼなさげ。
だからドリ・パン文脈のチルアウトとかがあったとして、それは他ならぬ、“ポスト・ヴェイパーのチルアウト”。否定するにしろ、ヴェイパーの方法や美学らを、みっちりと参照した上での作品だと考えられる。
──そうこうとすれば、ドリ・パンの本質は、“ヴェイパーウェイヴを意識し超克しようとする運動”、くらいに言えそう。
なお図は、ドリ・パン史の第3世代くらいのアーティストであるDROIDROYの、『ブルーライト』 (2021)。これはつまり『新しい日の誕生』の系統のアンビエント・ヴェイパーだが、ともあれすごくできがよく、また、ついに“ヴェイパー”という語による修飾を求めていない感じ。こういうものが、いずれドリ・パンの主流になっていくのだろうか……?

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《Classic Vapor, クラシックヴェイパー》

または、クラシカル・ヴェイパーとも言われる。サンブリーチさんのご説明によると、“2012年ごろのオールドスクール・ヴェイパーウェイヴ、すなわち、主にサンプルらの編集でできた略奪音楽、それへの回帰”()。
おそらく2017年あたりから言われるようになった語であると思われ、有力レーベル“B O G U S // COLLECTIVE”からの近作に、よくこのタグが入っている()。
また、こういう用語が現れたということは、もはやヴェイパーもそんなには新しくないのかな……ということに?

《Vaporhop, ヴェイパーホップ》

ヒップホップ的ニュアンスのあるヴェイパー。とくに、ビートのところにファンクのフレイヴァがある。ただし、まっとうなラップをフィーチャーしてるようなものは違う。
“MF Doom”というラッパーのトラックメイキングがヴェイパーっぽいと言われ、確かにそうだが、しかし。

《Barber Beats, バーバー・ビーツ》

バーバー・ビーツ、理髪店ビート、また床屋系ヴェイパーとは、2014年あたりから現在まで高度な制作をなし続けているアーティスト《haircuts for men》、その特有のスタイルの模倣、模作(パスティーシュ)。また、この用語自体は2020年、《Macroblank》の作風を呼ぶために、英アロエシティ・レコーズのボスが考え出したもの、と知られている。
それがどういうスタイルかといえば、ジャジーでファンキーなイージーリスニングやラウンジ系の既成トラックらを、ちょっとスローダウン、ちょっとローファイ化し、ちょっと長さを調整した、ほぼそれだけ。
けれどそれっぽっちの処理&選曲で、圧倒的なセンスの卓越を魅せつづけるヘアカッツ氏がいた。
そしてそのスタイルにやや近いようなヴェイパーは、以前から多少あった感じだが。しかしそれのみに集中専念し、そしてお手本をもしのぐ高レベルの制作らをなしたのが、マクロブランクだったのだ。彼のデビューが、バーバー・ビーツの始まりだと言える。
このマクロ氏を追ってまた実に多くの新人らが現れ、理髪店ビートは2021〜22年、ヴェイパーの関係でもっとも活気あるサブジャンルとなった。
なお模倣しているのはサウンドだけでなく、アルバムアートや曲タイトル等のセンスにおいても、ヘアカッツのユニークなそれらがお手本となっている。
それら全体の作り出すムードは、逸楽と陰うつが交錯している感じ、でありそう。ビジュアル面ではB&D(いわゆるSM)やゲイ・ムード、ことば面では意味不明だがウツさが伝わるニホン語などが、特徴的。
図は、サウンド的にはきわめてやさしくソフトだが帝国主義への反逆をテーマとするらしいユニークなアーティスト、《modest by default》の現在の最新アルバム、“PRAGMATISME (无可避免的)” (2023)。

《Dreamtone, ドリームトーン》

かんたんに言ってしまうとドリームトーンは、ドローン的スタイルによるアンビエント/チルアウトもどき。2020年の秋あたりから、勃興してきたムーブメントであるもよう。
これは夢の中で聞いたような音、または夢の中に人を導く催眠的な音楽、といったコンセプトがありげ。そのまたの特徴は、最短で10分〜最長で60分という各トラックの長大さ。
しかもなぜだか、端数がなくきりのいい数字に尺を設定、という傾向がきっぱりとある。サウンド的にはあまり目新しさがないが、しかしそういった構えのところに、ヴェイパー特有のシニシズムやニヒリズムを感じさせる。
図は、ドリームトーン運動の拠点であるレーベル《DreamSphere》発のオムニバス、『TIDE-010 - 銀河間』 (2021)。すべての楽曲の演奏時間が10分ジャストであるなどをはじめ、“これがドリームトーンだ!”というマニフェストとして受け取り可能なもの。

《Hushwave, ハッシュウェイヴ》

ハッシュウェイヴの発祥は、地味にきわめて高く評価され続けているアーティスト《b e g o t t e n 自杀》、彼の傑作アルバム“(hushwave) - 治愈它”(2018)によることが、まず明らか()。
どういうものか説明すると、まずはもとからテンポが遅めのバラードやR&B等のサンプルらをさらに遅め、リバーブ音をまぶし、眠たい感じ……かつ、ニュアンス的に哀切なサウンドへ。それが陰気な曲タイトルやカバーアートのガイコツらとの相乗作用で、つい永眠へと誘われるような、ぶきみなチル感を演出する。
が、このヴェイパーのいやな子守唄であるハッシュウェイヴは、b e g o t t e n 自杀というアーティスト固有のスタイルであるかと、考えられなくはなかった。似たようなものが他からも続々出てこなければ、“サブジャンル”ではないわけで。
そしていまそのことをなそうとしているのが、2022年から活動中のアーティスト、《虚》)。きっちりと先行者を意識したガイコツ・スタイルも美々しく、また彼に続く新たなハッシュ系の輩出と興隆が望まれている。
……なお以上の記述は、​《虚》の人らヴェイパーの同志たちの情報提供に強く依拠しているので感謝がきわまりない()。

《Weathersoft, ウェザーソフト》

ウェザーソフト/ウェザーウェイヴ(Weatherwave)/クライメイトウェイヴ(Climatewave)などと呼ばれるサウンドは、テレビやラジオの気象情報を主な素材とするヴェイパーウェイヴだと考えられる。
その上位のカテゴリーから、ご説明すれば。まずはヴェイパーというジャンルの中で、放送されたような音声を大フィーチャーしている作品らを、《ブロークン・トランスミッション》と呼ぶ()。
そしてその下位のカテゴリーとして、宣伝CM広告らをメインの素材とするものが、《シグナルウェイヴ》。そのいっぽう、気象情報&関連のお天気音楽をメインに扱っているものが、《ウェザーソフト》。この両者は、ブロークン系のサブ・ジャンルであると申せましょう。

……さてですが。ほんの数日前まで、ブロークンとシグナルは同じものと見ていいのでは……くらいに雑に、考えておりました。
だがしかし。よくよく考えたら、シグナルウェイヴのシグナルとは、おおむねCMのことです。だとすれば、CMが少なくお天気がメインの作品らまでを、シグナルと呼ぶのは、やや不適切でしょう。
そこに考えがいたったので。ちょうど存在していたウェザーソフトという呼称を私の中で格上げし、関係するカテゴリーを構成しなおし、そして皆さまにご紹介しています。

……とはいえ。CM&気象情報のご両者は、ブロークン系のメインの両輪。言うなれば、飛車&角。この両者がないまぜに構成されたアルバムが実にすごく多いことを、おそらくご存じでしょう。何せ、シグナル系の覇王でありCMの鬼とも呼ばれるアーティストが、《天気予報》を名のっているのですから。
であるので、シグナルとウェザーをそんなに峻別もできないし、する必要もなさげ。ただウェザーソフトという言い方があることを、まずお知らせします。
そして図のアルバムは、フラミンゴ舞い飛ぶ楽園から気象情報を発信しつづけているフロリダ・レインズ(Florida Rains)さんの作品()。

《Dungeon Synth, ダンジョン・シンセ》

ダンジョン・シンセ……そんなものの歴史や本質などをうかつに語ろうとすれば、沼・沼・沼ァ……ッ! であるので、ここでは現象的な見方に徹し、そして私たちに関係ありそうな限りのご説明を。
それの現在のありようは、多数の音楽のジャンルやスタイルなどを横断した、一種のテーマ性であり、まあ“美学”だとも考えられる。どういうテーマやモチーフかと言うと、それは──。
それはファンタジー的で中世ヨーロッパめいた架空世界の、グロテスク殺伐オカルト陰虐、そして神秘な超越の美……等々々。それらをまるっと象徴させて、“ダンジョン”の語が言われているのかなあと。
そしてそのテーマやモチーフが、多様な音楽スタイルで表現されている。硬い順から言えば、ブラックメタル/インダストリアル/模造の中世風音楽/ダークアンビエント/ダークウェイヴ……。いっぽうの少し柔らかいほうでは、チップチューン(もしくはゲーム音楽もどき)、そしてわれらがヴェイパーウェイヴ。
ちなみに。メタルだとか中世風フォークだとか、エレクトロニック要素がわずかであるものも、お構いなくダンジョン・“シンセ”と呼ばれているようだ。英語の原義で、合成している……と考えたら、まあおかしくはない。

いやしかし、そもそもなぜこの21世紀に中世風世界の追求なのか……ファンタジー系RPGなどの影響だろうか? いまはそれが大きいようだが、しかし起源(1990年ごろ)においてはそうでもなかった感じで、ここはなぞが深い()。

さてだが、このダンジョン・シンセという領域()。その主流めいた側から見たら、そこにヴェイパー系の存在感なんて、ほとんどないようなもの(……!!)。
ところが。ヴェイパーウェイヴの側から見ると、だいたい2023年からの近ごろ、ダンジョン系に向かう人がけっこういるなァ……という印象がある。ゆえに、このヴェイパー関係の用語集にも記載をいたしている。
そして図は、ヴェイパー系のレーベル《THE EXPANDING EARTH》からの2024年・秋、ダンジョン・シンセのコンピレーション。それはやっぱり主にエレクトロニックな手法で、私どもの身内たちが、紅き流血にまみれ黒の闇に沈む中世への幻想をそれぞれにつづっているのであった……!

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なおヴェイパーウェイヴのサブジャンルいろいろについては、それを説明した感じの画像らも出廻っている。それらは、サンブリーチさんの記事にまとめられている()。

……と、このテクストの、現状はこういうところで。
今後も随時、加筆修正されていくでしょう。おそらく。

[さいきんの更新ヒストリー]
2023/07/15 - “エコージャムズ”にエコロジーとの関連を加筆/“バーバー・ビーツ”にわずかな加筆
2022/11/04 - 〈引用らのツギハギが主体であり、筆者の補足が従である用語集〉を意図して当初は構成していたが、だんだん引用の要素が少なくなってきたので構造を逆転、そして“ミューザック”の項目に大きな加筆
2022/11/03 - “ハッシュウェイヴ”の項目を追加、“ドリームパンク”を大きく修正、項目らを分類し並べかえ、等々々
2024/08/19 - “ウェザーソフト”の項目を追加、連動して“ブロークン・トランスミッション/シグナルウェイヴ”の項目を修正
2024/10/13 - “ダンジョン・シンセ”の項目を追加

なお、ご不明の点や疑問らがおありのさいには、ためらうことなく、何らかの方法(この記事のコメント欄、ツイッター、eメール等)で筆者にご連絡ください。あわせてご意見やアドバイスなどを、お待ちいたし申す〜。

アバドン: Perfect Fake (2022), うそつき (2023) - あなたのグリッチな微笑みに

《アバドン》さんは、フランスの人だと伝えられるヴェイパーウェイヴ・アーティスト。2021年からの活動が、観測されています()。

なお、このステージネームはアルファベットで書くと、“Abaddon”。『ヨハネによる黙示録』にて語られる、破滅と奈落の天使のことであるもよう。

さて。このアバドンさんによる作品たちは、何とかウェイヴといったヴェイパー内部の既存サブジャンルには、収まっていません。
言われております形容らの中では、グリッチ・ポップ(Glitch Pop)が、もっとも的確かと思われますが。

そのサウンドで、まずもっとも特徴的なのは、K-Popの要素や関連美学の導入でしょう。あわせて、ニッポンめいた要素も多少。
そして20世紀末へのノスタルジアではなくて、21世紀の〈いま〉の素材やムードらを大量多量にMIXし、凶悪粗暴にグリッチさせ緩急をつけて、こころよくもはかり知れない混とんを作っています!
そしてまとめ方は大いに異なりますが、〈ナウ〉的な意味でハイパーポップに接しているところもあるでしょう。まれにですが《トラップ》的なビートが鳴っているのは、めったになされないことです。

……それはブラウン管のテレビを眺めていたよき時代の物語、ではなくて。このSNS全盛時代の青少年らがまじまじと凝視しているスマートフォンのLCDスクリーン上で交錯する、セクシーな人々やきらびやかな“商品”たちへの欲望──申すまでもなく、“すべて”が商品であるこの世界──そして裏おもてに隣接するアビスの闇があります。

その代表作であるとご本人も言うアルバム、『うそつき』。そのラスト曲の末尾に、何かの鳥の美しいさえずりが聞こえますが……これは、“何”でしょうか。
享楽を求め、羨望に悶えて狂った私たちの、苦悩の一夜の終わりを告げている……それは知らせの声なのでしょうか。

そして誕生した新しい日、新たな救いや朗報はあるのでしょうか?

……そして、朗報です。現在までのアバドンさんの最高の達成と見られる二大アルバム、『Perfect Fake』(2022)と『うそつき』(2023)が、この2024年6月、めでたくヴィニール盤発売への運びとなりました。
とくに後者は、私の思った2023年ヴェイパーのNo.1傑作アルバムです!! これを機会にぜひアバドンさんの、驚くべきサウンドにふれる人の多くなることを!

😚 ❤️ 🤥

……それらを想うのですが、しかし。
ああその、とても小さな声で、とても小さな難が感じられることを告発いたしますと……。

このたびの《Geometric Lullaby》レーベルからのアバドン作・二点のリリースは、ともにアルバムアートを新たに起こしています。そこまでの力の入りよう、と解釈されるでしょう。

ですが私個人の好みは、ともにオリジナルのアートのほうが……と。いや、ことによったらもとのグラフィックに何か権利上の問題とか、そうかも知れませんが!


Gathering Darkness: アバドン (Abaddon)'s Distinct Fusion!

[sum-up in ԑngłiꙅh]
アバドン: Perfect Fake (2022), うそつき (2023) - Your Sublime Glitchy Smile…

アバドン (Abaddon), a Vaporwave artist reportedly from France, seems active since 2021.

And アバドン's works do not somehow fit into the existing subgenres of Vaporwave. Glitch Pop may be the most apt description.

The most distinctive feature of its sound, it is the introduction of K-Pop elements and related aesthetics. There are also a few Nippon-esque elements.
Composed of "now" materials and senses that are parallel to hyperpop.

And instead of nostalgia for late 20th century, it mixes in large quantities the elements and moods of this 21st century, glitching them viciously and roughly, creating a chaos that is both delightful and immeasurable!

……It is not a story of the good old days when people watched CRT TV.  The stories of this age of SNS, that young people stare at smartphones, on their LCD screens, intermingling, the desire for the sexy people and glittering luxful "commodities" ─ we are living in the REAL world in which "everything" is a commodity, you know ─ and then there is the darkness of the Abyss adjacent to the back of the screens!

And... In June 2024, announced that, two of アバドン's greatest accomplishments to date, “Perfect Fake” (2022) and “うそつき [Liar]” (2023), will be released on vinyl.
The latter, in particular, is the No. 1 Vaporwave masterpiece album of 2023 IMO! I hope that this will be an opportunity for many people to experience the amazing sound of アバドン!

デラックスライフ/溶けた壁/ヴェクトロイド - 《肉屋ビート》の誕生へ…

モドキです。えっとはいっ、ちょっとお久しぶりしちゃいましたね!

まあ、それはそうとです。2024年7月上旬、この近ごろのヴェイパーウェイヴ界で、やや目だっております話題は……。

このブツを、おそらくご存じでしょう。この場でも何度か話題にしております、ヴェイパーノイズ/シグナルウェイヴの超名作、〈新しいデラックスライフ: ▣世界から解放され▣(2012)〉。

それの初めての公式カセット発売が、ひとつのセンセーションなのです()。

細かいことを言いそえると、このたびの《Geometric Lullaby》レーベルからのリリースは、シリーズ続編である〈新・新しいデラックスライフ: SPEED DIALER !(2022)〉をも収録した、お得バージョン。
そしてそのデラックスライフの実体が、主には《INTERNET CLUB》として知られるロビン・バーネットさん──この方が、ジャンル名“Vaporwave”の命名者であることも確かなもよう──であろうとは、よく知られたことかと()。

で、たいへんめでたいことだとは、思うんですよね! すなおにシーンの多くの方々が、これをことほいでおられ。

ですけれど……。

……近ごろ聞いた中で、きわだって私に印象的だったヴェイパーのアルバムのひとつが、〈溶けた壁: 肉屋が話す(2024)〉です。
なぜその話に流れるかというと、おそらくCMらを素材とした、しかもグリッチの激しいサウンド……という性格が、『世界から解放され』とオーバーラップするからなのです。たまたまの重なりでしょうけれど。

さて、この《溶けた壁》なるアーティストは……。どこのどういうお人なのか、完全に不明。作品らのたたずまいから、どこか英語圏の人かなあと臆測していますが。

ともあれ、この“誰か”のメインのステージネームは、《victory over death》(
そしてその数多いサイド・プロジェクトらが、《forgetting》名義&またその派生として、リリースされています()。《溶けた壁》は、後者の中のひとつ。

なお。この人もけっこう歴が長いかのように、ついさっきまで錯覚しておりましたが……。

しかしいま調べなおしたら、BandcampやRYMで見えているような活動歴は、まだほんの一年間と少しです。それで諸名義をあわせて、すでに40作以上の“アルバム”を発表しています。

そしてアルバム『肉屋が話す』は、20曲/18分を収録。
そしてすでに申しましたように、たぶん英語のCMらがもと素材で……グリッチの激しい……。“チョップド&スクリュード”と私たちが申しますが、その前者の手法を大乱用!!

いや本来の、ヒップホップ系における“チョップド”は、グリッチという意味とは少し異なるようなふしもありますが。でもまあ、いいじゃないですか!

しかも手法は暴力的なのに、なぜか聞いていればふしぎと瞑想的で、トランキルな印象。それがすごくクールだと、想ったんですよね。
嵐の中の、静けさ……デジタル情報と商業メッセージらの断片が、激しく乱れ飛ぶ中の……。

そして。そのチョップド(みじん切り)が強いので、今作のタイトルに、お肉屋さんと言われているような気がします。
そのところから私なんか、近年のヴェイパー界でもっとも勢いあるサブジャンル《バーバー・ビーツ/理髪店ビート》……あれに対抗する、《ブッチャー・ビーツ/肉屋ビート》の誕生を妄想したりもしますが!

ところで。

……さて、その現在のパワフルな波である、理髪店ビート。これのひとつの特徴は、スムースさ。逆にサウンド面で飛躍や切断の要素らが多いものは、理髪系の中に、そうはないでしょう。
あわせて、ヴェイパー内部で、ずっと堅実な支持があるスラッシュウェイヴ。理髪系とはニュアンスが大きく違いますが、これもまた、やたらに長〜い“持続”をウリにしている特徴はあります。

そして、私は。けっこう以前から、初期ヴェイパーに多発していたグリッチ、それへの再注目がありえるかな……とは考えていました。
いや例外で、シグナルウェイヴというサブジャンルでは、グリッチの多用がずっとありましたが。しかし、アクセント的な用法がほとんどで、そんなに激しい乱用の例は多くない……そこらを変えていくものが、出てきそうかもと。

では、なぜそう考えたかというと……。

メインのステージ名《Vektroid》こと、ラモーナ・ゼイヴィアさんをご存じでしょう。
ロビンさんらに並ぶヴェイパーウェイヴの創始者のひとりであり、あまりにも大きな実績と貢献のあるお人です()。

そしてその人による近作アルバム、昨2023年末の“cRASH 1”、そして'24年1月の“cRASH 2: Mac +/-”、および“777 PIG DANGER”
これらがものすごいグリッチ大会の、チョップされまくり散乱するサウンド断片らの吹きあれる嵐だった……このことから、とも考えられます。

そして。

ヴェイパー界の多くの聞き手たちは、この連作めいたグリッチのぼう大でうず高い集積を、受けとめかねていた、というか、いるような気がするんですよね!
口が悪いので有名な《OSCOB》さんなどは、これらのどれかについてツイッターで、〈さいしょの2〜3曲まで聞いて、もうやめたッ!!〉のように、言いはっておられましたが。

けどまあ、私としては。それらについて、〈大傑作でもないような気がするが〉……とても奇妙な作品らだが、何かひかれるところがあると、その受けとめ方を、ずっと考えていたんですよね。

そしていま、“777 PIG DANGER”らを聞き直してみて。それと『肉屋が話す』との間に、響きの親近性を感じています。

……いやヴェクトロイドさんのは、CMや放送のような素材の感じに乏しいので、シグナルそのものではなさそうですけど。
かつまた。“cRASH”シリーズの2作がコアすぎることに比べたら、最新作である“777 PIG”は相対的に、ほんの少しは聞きやすくエンターテイニングに……変化していることも見逃せません。

それと。誰もが感じることかと思うのですが、ヴェクトロさんによるグリッチ系連作らが巨大で長大すぎることにひき比べ、『肉屋が話す』は、コンパクトにきれいにまとまっています。コンセプトを伝えきりながら。
そのことが私をして、〈新規に登場の“お肉屋ビート”、イクかなっ!?〉と、いい気分にしたと思います。

🍖 🤖 🧱

そして、結語です。

ヴェイパーウェイヴとかいうチン妙なサウンドも、2011年くらいからずっとやっていて……けっこう長くなっていますが……。

そしてそこから出てきた作品らの中でも、ジャンルおよびサブジャンルを創始し創設してしまうようなしろものたちは、やはりとくべつです。
まあ名作であると言えるわけで、ファンであればぜひ認識しておくのがいいでしょう。さらに収集癖がおありなら、それらのフィジカルをお求めになるのもいい。

ただし。そんな過去の定義し定義された名作たちが、“すべて”ではない。

定義されるのを待つかのような、奇妙なうぞうむぞうの出つづけていることが、ヴェイパーのもっとも面白いところだと、私は考えています。
……そういうことで、今回は溶けた壁さんに注目し、ザ・肉屋ビートの誕生や興隆を妄想しましたが。そうやって先をなるべく見てイキたいですね!


溶けた壁 / Vektroid - Dreaming of the Birth and Rise of Butcher Beats!

[sum-up in ԑngłiꙅh]
溶けた壁: 肉屋が話す [Melted Wall: A Butcher Speaks] (2024)

The artist who calls themselves 溶けた壁, their identity is completely unknown.
But I will try to explain somehow. Their main stage name is victory over death. And their numerous side projects have been released under the name forgetting and its derivatives. 溶けた壁 is one of the latter.

And 『肉屋が話す』 is a Signalwave album, probably based on English commercials. And the glitch factor is so intense! We call something “chopped and screwed”, and the former technique is used with great abandon!

And despite the violence of the style, the mood is somehow meditative and tranquil. I thought it was very cool.
A calm in the storm…… where bits and pieces of digital information and commercial messages are flying wildly……

And then. The chopped element is so predominant that I think the title of this work is called A Butcher. Maybe!
From that point, I sometimes fantasize about the birth of “Butcher Beats”, a counterpart to the subgenre Barber Beats…… which has been most active in Vaporwave world in recent years!

Also.
This album reminds me of “cRASH” series of glitch-filled albums that Vektroid, as you know, has been making since the end of last year 2023.

“cRASH” 1 & 2 and followed “777 PIG DANGER”. Particulary, the first two works are really noisy and intense! I think there were many Vaporwave fans who could not accept them as music.
But now, I feel that “777 PIG” in particular is very close to 『肉屋が話す』.

Also.
The beauty of 『肉屋が話す』 is that it is compact (20 songs/18 min), yet conveys the concept completely. In contrast, Vektroid's recent glitchy albums, while showing potential, seem to be too long.

And if 『肉屋が話す』 and its follow-ups are successful, “777 PIG” may be reevaluated as the originator of Butcher Beats. I dream of such a near future!!

ブートレギング(海賊版) -と- アプロプリエーション(流用)のアート

G・ブラック「果物皿とグラス」(1912)
G・ブラック「果物皿とグラス」(1912), パピエ・コレの第1号

まずは。ヴェイパーウェイヴがそれである、《アプロプリエーション(流用)のアート》について──。

P・ピカソさんとG・ブラックさんたちが、《パピエ・コレ》──のちの《コラージュ》の先駆──なる技法を開発したのが、1910年代の初頭であるそうです。もう、約110年ほどのむかしですね!

そのあたりから始まった、《アプロプリエーション(流用)のアート》。それはその以後、M・デュシャンさんらのダダ/シュルレアリスム、そしてA・ウォーホルさんらのポップアート、はたまた1980年代の《シミュレーショニズム》みたいなムーブメントら……。

……等々々へと受けつがれ、そしておそらくは、〈発展〉し……。

そして、いまも。主流的かどうかは存じませんが、現代アートの重要きわまる要素でありつづけでしょう。その、流用であり盗用であるような技法ら──が。

そしてヴェイパーウェイヴは、いま主に音楽の領域で、おおむね等価なことをしているのです。ほう、大したものですね!
──といったことをもう3〜4年ほど前から主張していますが、しかし反論されたことがないので、この認識は正しいです。

そのように、アートめいた諸活動における《アプロプリエーション》の正統性/正当性は、完ぺきに論証されています。
言いかえたならば、私どもヴェイパーの徒のスローガン──〈サンプリングは神/著作権はジョーク〉と、いうことです。まあ後者について、ジョークと言うには笑えないし、つまらないにしても。

ですが、ところで。

お脳の作りが雑な方々におかれては、その〈サンプリング=アプロプリエーション〉ということと、またぜんぜん違う〈海賊版/ブートレグ〉の製造販売ということを、あまり区別して認識なされていない……かも、知れません。
そのことが、やや危惧されます。

🥾 👣 🦵

そして。申すまでもなくヴェイパーウェイヴは、崇高なるアート/音楽のムーブメントに他ならぬもの。──それが意外とまれでもなく、チン妙でストレンジな劣化サウンドのバカみたいなたれ流しかのように、聞こえたりもするにしろ──。

ああ、まあ。ですから基本的にはそれは、ブートレギングに関わるものではありません。
……ではありながら……!?

いや。ヴェイパー界のゴシップ記者で、私はないですが。高尚なる《アート》のことのみをしか、語りたくはないのですが。
でも何か、ここで黙っているのも現実逃避的に、“すぎる”ような気がしますので、なるべく手短に。

およそ半年ほど前から、《仮想アルゴリズム》というレーベルの動向が、ちょっと目につくようになっています。彼らのウェブサイトによると、昨・2022年なかばから、ご活動なさっているようです()。

この方々は──。2009年のプロト・ヴェイパー時代から2015年あたりまでのヴェイパー名作のレアものたちを、デジタルとカセットで再び普及させようとしているようです。かつ、〈非営利のプロジェクトである〉と、みずからを規定なされています。

とは、いい感じのところもあるのですが。
しかし、問題があるかも知れないのは……。
その再リリースらが“すべて”、無許諾である──と、これもみずから宣言しているところのものです。

いやそれが。さいきんまで私もあまり、よく分かっておらず。
それでやや不用意に、レアな名作らのデジタルがずらりチン列された彼らのBandcampページを、三日前くらいにツイッター(現・X)で、宣伝してしまったんですよね!(

だがその時点では、言うほどの〈問題〉が、起こっている感じがありませんでした。

たとえば。《D・ロパティン》/《テレパシー能力者》/《セイント・ペプシ》……といった各位らのいにしえの名作などを彼らは、無許諾にてカセット複製して頒布なさっていたようですが──非営利を標榜していることをいちおう真に受け、〈販売〉ではなく頒布と見ておきますが──。

しかし、とくに〈問題〉だと指摘する声が、挙がっていなかった感じです。
であれば。こんなことは、気にしなければ、気にならないことなのかな……などと、私は解釈しておりました。

ですけれど、ついに〈問題〉となったのは──。
かの《ラグジャリー・エリート/luxury elite》さんが、ツイッターにて10月19日、この仮想アルゴリズム・レーベルの振るまいに、ご不満を洩らされたことからであります()。

なぜかしばらくの間、私をブロックしているTwitterアカウントが、“With Love”のブートを〔カセットとして〕リリースしている。
私はそれを許可しなかった。それだけだ。
私自身も“With Love”を再発したいが、残念ながらそれは実現しないと思う。

正直なところ、あまり事情がよく分かりませんが、しかし。

近く仮想アルゴから再リリースされる予定の“with love”──ラグジャリーさんによる、2013年のラヴリーなアルバム!──そのカセットが、無許諾のブートレグであることだけは、実に確かのようです。
なお、この仮想アルゴからの“with love”カセットは、いま現在(10月21日)、〈予約を受け付け中!〉くらいのステータスにある……かと思ったら、書いているさいちゅうになぜか、製品ページが消えています。

それで。
そういうことならよろしくない、その頒布だか発売だかが、中止されるべき!──というご意見が、〈シーン〉では支配的ではあるのですが。

だがいっぽう。
〈許諾のあるでもないサンプリングをメインの要素としているヴェイパーウェイヴで、許諾なきコピー作製が批判とかされるなんて、ちゃんちゃらおかしいぜ!〉──として、仮想アルゴを支持するむきが、意外と少なくもないような……。これがちょっと、私を驚かせました。

いかが考えるべきでしょうか?

……まずです。仮想アル・レーベルの活動が、ヴェイパーの〈シーン〉の要望の一端に応えてきたものであることを、認めなければならないでしょう。

すなわち。
私なんかは、フィジカルをとりわけ欲しくないタイプのファンですが。しかし、いい作品であればフィジカルを入手したい……と、考えるタイプのファンが、少なくはなく、おられのようです。
ですけれど。5年くらいより前の名作ヴェイパー・アルバムらのフィジカルは、きわめて入手困難! 中古マーケットに出たとしても、バカみたく高価であることがほとんどでしょう()。

そこらから生じる要望や渇望に、仮想アル・レーベルは応えて、そして一定の好評を得てきたと考えられます。

そこへこんどの、“with love”ですが──。作者のラグさんご自身が、そのカセット再発の見込みが“ない”──と、述べておられましょう?
〈買うならば、正規の販売物を!〉という主張が正しかったとしても、その正規品が“ない”──との状況を見はからって、仮想アルの活動がある気配なのです。

そして。彼らによる複製カセットの価格は一律10ドルであるようなので、たぶん大儲けには、なるべくもなく。それでどうにか、〈非営利〉と言われたらそうなのかな……という面目が維持されている感じ……?

というわけで、ブート製作者にも一分から三分ほどの理が──なくない感じもあるのですが。

……けどまあ私は、こう思うんですよね。

そもそもの話、どうしてラグさんのツイッターがブロックされていたのか──。そのあたりの事情から、よく分かりませんけれど。
ともあれ、この狭い〈シーン〉の中のことですから。もしも苦情みたいな働きかけがあったなら、まず話しあったらよくないでしょうか?

──そして。スロッビング・グリッスルによる歴史的・大名曲であるところの“Persuasion”のゆかいなビートをBGMにでもして()、仮想アルさんらのほうから〈説得〉をしてみれば?

そして。背後の事情を知らないですし、せんさくとかしませんが。どうしてもラグさんからの許可が下りないようであったら、その分は止めたらいいような、そんな気がしています。
それは10月20日、ツイッターでも私が述べましたように()。

──という意見は、〈善悪/正邪〉とかの判断を述べているのでは、ありません。そのてのことは、ほぼ何も存じあげません。
──だがしかし、この小さくも愉しい〈シーン〉の平和と持続可能性。それらを見こして、そう考えるのです。


Bootlegging - and - The Art of Appropriation

[sum-up in ԑngłiꙅh]
On the sale of the cassette of luxury elite's album "with love", a Vaporwave masterpiece from 2013, by the 仮想アルゴリズム (Virtual Algorithm) label. About how it not only does not have any permission, but seems to go against artist's will.
And these are the ongoing "cases" of October 2023. This article discusses them.

"If that's the case, it's not good, and the release of the cassette should be stopped!" - This seems to be the dominant opinion on the "scene".

On the other hand, however, there is another opinion.
"It's ridiculous that unauthorized copying is criticized in Vaporwave, where the main element is unauthorized sampling!" - There are not a few people who support Virtual Algorithm like saying that.
This surprised me a little.

What should we think about it?

First of all… It must be admitted that the activities of the Vir-Al label have been partly in response to the demands of Vaporwave's "scene".

In other words.
I am the type of fan who does not particularly want physicals. But it seems that there are not a few fans who would like to get a physical copy of good works…
However, it is extremely difficult to obtain physical copies of the masterpiece Vaporwave albums that are older than about 5 years or so! Even if they appear on the second-hand market, they are almost always very expensive.

Vir-Al has responded to the demands and cravings arising from these circumstances, and has received a certain amount of positive feedback.

And now, "with love"… The artist, luxury elite, has stated that "love to reissue With Love myself, but unfortunately I don't think that will ever happen" (), right?
"If you buy, buy the one legitimately sold!" Even if this claim is correct, there are indications that Vir-Al's activities are based on the fact that there are NO legitimated copies.

So, there is some justification for the boot makers.

…But well, here's what I think. As I mentioned on Twitter ().

It is within this small "scene". If there is a complaint, why do not talk about it first?

And. Why don't try to "persuade" one with the background music of "Persuasion" by Throbbing Gristle, a historical and famous song of the former century?

And. If Vir-Al still can't get permission from the artist, I feel that they had better to stop that part of the project.

I am not making any judgments about "right or wrong". I know almost nothing about that kind of thing.
However, the peace and sustainability of this small but pleasant Vaporwave scene - in anticipation of them, I think so.