《フルーティガー・エアロ/Frutiger Aero》とは、今21世紀の“インターネット美学”のひとつです(★)。
──私たちには、やや耳あたらしいことばですよね?
それがどういう“美学”であるか、かんたんに言ってしまうと。
主にMSウィンドウズ・ビスタ(2006年)、およびその前後のコンピュータ・システムらがフィーチャーしていた、グラフィックスとサウンド──その明快さ、輝かしきテカリ感、くったくのないバーチャル感──へのノスタルジア。
だいたい、そのようなものでありそうです。
- Frutiger Aero - Aesthetics Wiki ─ ☆
- What is frutiger aero, the aesthetic taking over from Y2K? - Dazed ─ ☆
かつ、Winビスタ以外のプラットフォームでは……。
まず家庭用ゲーム機の任天堂〈Wii〉が、同じ2006年・発。また、アップル社のスマートホン〈iPhone〉の初代機が、その翌2007年・発。
こうしたビスタと同世代のマシーンやシステムら、そのグラフィック/サウンドらにやや近いフィールがあるので、その系統もフルーティガー・エアロに含まれうるもよう。
そして、そのフルーティガー・エアロという名称を分解し、分析してみますと。
まず〈エアロ〉の部分は、Winビスタの採用した新インターフェースである“Windows Aero”に由来します。
そして〈フルーティガー〉とは、その時代に多用されたフォントフェース“Frutiger”のことであるようです。雑に言ったらゴシック体の一種ですが、おそらく何か独特の味があるのでしょう(☆)。
そしてその命名は、2017年、“美学”研究者のソフィ・リーさんによる──と、伝えられています。けれどその当時は、それほど話題にならなかったようです。
しかし昨2022年ごろから、TikTokあたりを起点に、そういうトーンのグラフィックとサウンドを合わせた動画らが、続々とプチバズり!
そしてとうとう、私なんかの耳にも入ることばになったのです。
このフルーティガー・エアロを、以下では《フル・エア》と略記することにしまして。
ほぼヴェイパーの名曲らによるさわやかMIX
なお。フル・エアに対してちょくせつに先だっていたものが、《Y2k》美学である、とされています(☆)。
その《Y2k》の“ソース”らが世に支配的だったのは、およそ1990年代末から2004年までだったそう。
《Y2k》に続いたものと見なされうる、フル・エア。それぞれのテイストの厳密な区別は、むずかしいですけれど……。
だが私の感じ、《Y2k》美学は、サイバーパンク的な暗くドロドロした要素やムードらを、より多く含んでいそうです。
それにに対するフル・エアは、さきに述べたように〈明快さ、光沢、くったくのないバーチャル感〉を、まずの特徴としていそうなのです。
ブーリアンの演算だとか何とかシェーディングだとか、分かりませんが、オーロラの光の色のグラデーションや、水の流れの複雑なトーンなど……そうしたもようらを、軽く描写できるまでになってきたシリコンのパワー/アンチエイリアス/ディザリング/ハイレゾ感……。そうした“進歩”をむじゃきに誇り、そしてどういうためらいもなくシミュレーションに精を出す。
また。別のことばで言えば、人工の甘味料と酸味料と香料と色素らを混ぜただけの、“ジュース”──本来、ジュースとは100%果汁のことですが──それに類するさわやかさ、その追求。
──そういうところが、フル・エア美学にはありそうなんですよね!
もちろんそれが、現在の“美学”であるからには、ありし日々のそういう態度が、意識され対象化されているのでしょうけれど!
なお、また。
フル・エア美学が、例によりまして一種のノスタルジアだとすれば、それはいま現在、喪われているものであるはずでしょう。
たぶんですけれど、かつてフル・エアがおくめんもなく誇っていた、むだな立体感やギトギトした光沢や安いバーチャル感などが、はやらなくなっている──それが、現在の主流的なセンスなのでしょうか。
🪟 👨💻 🖼️
で、あー、さて。ここからが実は本題でありまして、フルーティガー・エアロのサウンド面の検討です。
そのグラフィック面は、まあ、見れば分かるようなものなのですが。しかしそのサウンド面は、規定がむずかしい。
まずは、その時代のPCのシステム音、ゲーム音楽、またその時代風なリングトーン(着メロ)などが、フル・エア的なサウンドとされるようです。
そしてその特徴は、ソフトでスムースなシンセ音、ともかくも親しみやすく明るい曲調、くらいに言えるでしょう。
Wiiの実機を私は触ったことがないのですが、そこに組みこまれたショッピングやらフォトギャラリーやらのチャンネルたちが、あったのだとか。そこでそうした、のんきな音楽やサウンドたちが、ひたすらたれ流されていたらしく。
そしてフル・エアをうたう映像+サウンドのミックス動画というものを、まあ十数本くらい、視てみますと……。
気づくのは、そこで使われている音楽たちがおおむね、そういうWiiくさいゲームらのBGMと、そしてある種のヴェイパーウェイヴだということです(!)。
そもそも私の関心は、〈フルーティガー・エアロという音楽ジャンルが、いまはあるのではないか?〉、ということだったのですが……。
しかし。あらかじめ、フル・エア美学の音楽である!──として作られたものは、あまり多くなく、そしてポピュラーにはなっていないようです。
その空げきを、現在において埋めているのが、Wii等の時代くささあるゲーム音楽ら、およびヴェイパーウェイヴであるようなのです。
ここにおいて、エステティクス・ウィキのフル・エア記事の音楽コーナーを見てみますと、〈いまだはっきりしたものは、なくて……〉というトーンが明らかに、うかがえるでしょう(☆)。
そしてその言明に続き、多少はそれらしいものであるらしいトラックたちが、何やら大量に列挙されておりますが──。
その中で、どうしても私には、ヴェイパー関係のものが目だっているように見えるんですよね!
さらにそれらの中でも超とくべつな作品は、かのジェームズ・フェラーロさんによる“Far Side Virtual”(2011)、それです(★)。
これはフル・エアの“ソース”らが、いまだどうにか息をしていた時代の作品でもあり、確かにそれらしいところはあります。
WinビスタやWiiらのシステムたちが、ただふつうに稼働していたならば、それらは実用的なそれらです。そういうものらを、“ソース”──もとの素材──と、呼んでおきます。
しかしそれらが、ほぼ廃物になった上で、キッチュとして模造され、コピペされ、反復される──。そのときに、“美学”なるものが生まれる……と、見ています。
だから、そういう見方もいいでしょう。ただし……。
ただし、そういう薄っぺらさが“逆に”、売り──という“美学”の産物らとは、また違う気がします。
むずかしいところが何もなく、むしろ表層しかない感じなのに、しかし『ファーサイド・バーチャル』は、深い……。かんたんにこうだと言いきれるものではないと、いつも聞くたびに思います。
……しかし! その『ファーサイド・バーチャル』が、“何”であるのかをかんたんに言いきろうとしたヴェイパー用語が、《ユートピアン・バーチャル》です。
私としてはサブジャンルとしてのそれを説明し、〈チャラチャラとシンセを鳴らしたお調子のいいヴェイパー〉、などと申しております(★)。
『ファーサイド・バーチャル』を追うような感じで、そういうものらが出てきてくれたのです。
そしてそのようなものとしてのユートピアン・バーチャルは、ほぼ“すべて”、〈フルーティガー・エアロの音楽である〉と、強弁もできそうです。スムースで明快きわまるシンセのトーンと、とても親しみやすい曲調を誇るので。
よって私の視たフル・エア動画らには、ユートピアン系とも呼べそうなすぐれたヴェイパーのアーティストたち──Eyeliner(☆)、glaciære/Stevia Sphere(☆)、そしてWindows96(☆)──各位によるサウンドが、含まれています。
それと私がうれしく感じたのは、これらを調べていて、Glamour Shotsさんによる“Memory Select”(2018)というユートピアン系のEPを知れたこと(☆)。
この名義ではこの一作しかないらしく、目だたない存在だったので、とてもいい発見でした!
こういうヴェイパーらはもちろん“いい”ですから、機会があったらぜひ、ぜひご一聴ください。
何しろヴェイパーの私どもは、〈ロスト・テクノロジー〉的な話には、とても敏感です。ゆえに、フルーティガー・エアロということばがなかった時代から、それ風な“美学”には注目していたのです。それを実質的に、すでに織りこんでおりました。
なお、また。
Bandcampにて、キーワード“Frutiger Aero”を検索いたしますと、すでにそういうタグが前からあることが、知られます。
そして。
そのタグを打たれた、フルーティガー・エアロ的なフィールや要素のあるらしいアルバムたち。その高くランクされているものらは、少なくともベスト・テンまでがヴェイパーウェイヴで占められているのを、私は見ました(☆)。
それもランクインしているのが、既知のアーティストらによる既知のアルバムばかりだったので、逆にびっくりです。
自分が知っているつもりだった“もの”らについて、〈違う見方がある〉と知れたのが、こころよい悦びです。
そのベストテン入りしているアーティストらは、The City Reviewer(☆)、Mom and Dad's Computer(☆)、Ghostmemory(☆)、ECCO 深い夢(☆)、そして、hyperborea32x(☆)……といった各位。
けれど各アルバムのサウンドを聞きなおすと、そんなにはフル・エア風でもないものが一部、ある気もしますが。まあ、それはごあいきょうだとして……。
中でもとくに注目なのは、メキシコの人であるというシティ・レヴュワーさんの、もっか最新のアルバム──“BLUR”(28曲・67分)。
その制作意図が〈フルーティガー・エアロである〉と、きっぱり明記されているしろものです。
ではありながら。アルバム・アート等のたたずまいがフル・エア風ではなく、また冒頭2曲くらいのサウンドも、あまりそれ風でありません。
ところがなぜか、3曲めあたりから約束どおり、フル・エアになってくるんですよね。ボリュームも大きくたっぷり愉しめます!
とまあ、それこれのわけですから。ヴェイパーウェイヴの中の要素としてのフルーティガー・エアロを、これから私たちは愉しんでいけるでしょう。
🪟 👨💻 🖼️
さて、さいごですが。このフルーティガー・エアロなる語を初めて知ったのが、いけださんのツイートによってでした(☆)。ありがとうございます!
Frutiger Aero - An Another Aesthetics, and Vaporwave
[sum-up in ԑngłiꙅh]
"Frutiger Aero", somewhat fresh as one of the Internet Aesthetics of the 21st century. For more information on this, please see the reference link first.
- Frutiger Aero - Aethetics Wiki ─ ☆
- What is frutiger aero, the aesthetic taking over from Y2K? - Dazed ─ ☆
And now I would like to say that Frutiger Aero is already a component of the Vaporwave.
First, the long-established "Utopian Virtual" subgenre predates the Frutiger Aero aesthetic. The works of major artists in this lineage are being used to create videos that enjoy the Frutiger Aero.
And on Bandcamp, there are albums tagged "Frutiger Aero". And the high-ranked albums, right down to the top ten, are Vaporwave that we're all familiar with.
After all, we at Vaporwave are very sensitive to the Lost Technology story. Hence, even before the term "Frutiger Aero" was coined, we were already paying attention to the "aesthetics" of the style. We had already practically incorporated it into our products.
Therefore, we will be able to enjoy Frutiger Aero as an element of Vaporwave from now on!