エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

身分けの前の、こと分け - ヴェイパーウェイヴのサブジャンル&関連用語たち

ヴェイパーウェイヴの関連で言われている新語やチン語ら、そのご説明です!
気になる項目を拾い読みなさるも可、また上から順にご高覧なされてもよろしいかと?

《見出し語の一覧》
[1. 基本的なヴェイパーウェイヴ用語🏛]Vaporwave, ヴェイパーウェイヴ | Chopped and Screwed, チョップド&スクリュード | Slow Down, スローダウン | Chillwave, チルウェイヴ | Eccojams, エコージャムズ | Plunderphonics, プランダーフォニックス | Muzak, ミューザック | Aesthetics, エセティクス(美学)
[2. 初期からのサブジャンル🐬]Hypnagogic Drift, ヒプナガジック・ドリフト | Utopian Virtual, ユートピアン・バーチャル | Segahaze, セガヘイズ | Mallsoft / Mallwave, モールソフト / モールウェイヴ | Late Night Lo-Fi, レイトナイト・ローファイ | Vapornoise, ヴェイパーノイズ | Signalwave / Broken Transmission, シグナルウェイヴ / ブロークン・トランスミッション | Computer Gaze, コンピュータゲイズ | Future Funk, フューチャーファンク | Vaportrap, ヴェイパートラップ | Vapormeme, ヴェイパーミーム
[3. やや新しいサブジャンル🆕]Ambient Vapor, アンビエント・ヴェイパー | Slushwave, スラッシュウェイヴ | Hardvapour, ハードヴェイパー | Dreampunk, ドリームパンク | Classic Vapor, クラシックヴェイパー | Vaporhop, ヴェイパーホップ | Barber Beats, バーバー・ビーツ | Dreamtone, ドリームトーン | Hushwave, ハッシュウェイヴ

なお以下のテクストのうち〈【】〉で囲まれた部分は引用であり、特記がなければ《Last.fmWikiの英文をグーグル翻訳したもの。執筆者の皆さまに感謝。
[初稿]:2020/04/16 / [最終更新]:2023/07/15 / [更新ヒストリー]:⤵️

1. 基本的なヴェイパーウェイヴ用語🏛

《Vaporwave, ヴェイパーウェイヴ》

【コンピューターソフトウェアを使用して、オーディオの残骸やゴミの音楽からサウンドを再構築する、インターネット上の少数のアーティストで構成されるジャンル。
〔中略〕ポピュラー音楽のサンプリングと1980年代/90年代のテレビ広告、ループ、スローダウン、ピッチ変更、およびチョップアンドスクリュー効果を多用しています。
このジャンルの名前は、ベーパーウェア(市場での発売(「煙を売る」)を意図していないコンピューター製品の軽蔑的な用語であり、蒸気の遠方への言及を表すものです。】
図の作品、Macintosh Plus“Floral Shoppe”(2011)。これがいったい“何”であるかについては、いずれ別稿にて。

《Chopped and Screwed, チョップド&スクリュード》

【チョップドアンドスクリュード(スクリュードアンドチョップド、スローアンドスローとも呼ばれる)は、1990年代初頭にヒューストンのヒップホップシーンで発展したヒップホップミュージックをリミックスする手法です。
これは、テンポを1分あたり60〜70の4分音符のビートに減速し、ビートのスキップ、レコードのスクラッチ、停止時間、および音楽の一部に影響を与えて「切り刻んだ」バージョンの オリジナル。】
この項目は、英ウィキペディアより。そういう手法が陰湿なエレクトロニック系に持ち込まれ、そしてついついヴェイパーウェイヴが誕生しちゃった気配。
図は、DJ Screw “The Legend”(2001)。2000年に他界したDJスクリュー、この技法の発明者、その遺作集。

《Slow Down, スローダウン》

音声サンプルのスピードを変えるにさいし、1990年代半ば以降のデジタルサンプラーは、“ピッチは維持してテンポだけ変える”という機能を持つ。一般ポップのリミックス作業などでは、これが重用されてきた。同様の操作が、いまではPC用の軽いソフトでも可能。
ところがヴェイパー式のスローダウンは基本的に、テンポもろともピッチを落とす。45回転のレコードを33で再生みたいな、原始的な響きを平気でタレ流す。
なぜそんな風であるかというと、そのマヌケな響きへの偏執的愛着、ユルさダルさへの希求、上記のDJスクリューらの影響、かつ全般に、こぎれいなサウンドへの抵抗、ローファイ志向、等々々。
そしてもうひとつ、近ごろ思うのは、ヴェイパーは音声らをスローダウンする/《ポップアート》は素材のイメージらを拡大使用する──それらの並行性。

《Chillwave, チルウェイヴ》

【チルウェーブ「1980年代のシンセポップとドリームポップの出会い」(Glo-Fiと呼ばれることもあります)は、アーティストがエフェクト処理、シンセサイザー、ループ、サンプリング、シンプルなメロディラインを備えた重度にフィルタリングされたボーカルを多用することで特徴付けられる音楽のジャンルです。
〈中略〉New York TimesのJon Parelesはこのように音楽を説明しました。そしてしばしば弱いリードボイス)。それは、不況時代の音楽です。低予算で踊れます。」】
チルウェイヴはヴェイパーの前身、またはきわめて関連が深いジャンルと見なされている。図は、Washed Out“Life Of Leisure”(2009)。これがチルウェイヴの代表的傑作アルバムと言われ、なるほど眠さにヴェイパー感がなくもない。

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《Eccojams, エコージャムズ》

【Eccojamsは、電子音楽テクニックの一種として始まったVaporwaveのサブジャンルです。 Oneohtrix PointのパイオニアエイリアスChuck Personを使用することはありません。通常はキッチュな値の古いポップソングを使用し、ディレイ、グリッチ、リバーブなどの手法を使用してそれらを再構築して新しい音楽を作成します。】
図は、Chuck Person's Eccojams Vol. 1(2010)、ヴェイパーの手法とセンスを決定づけた先駆的作品。
……たんにそのサウンドが、快く好ましいだけではなく。既成の古いポップ曲らをローファイ化・断片化しながら反復、さらにエコー(ディレイ)をも用いて反復を重ねる、そんなことにどういう《意味》があるのか──、それを考えさせられ続ける。

ところで筆者は、このヴェイパーの最重要キーワードEccoについて、〈“エコ”ロジーみたいなニュアンスがあるのでは?〉と、ずっと長らく考えていた。
この“Ecco”なる語は、まずビデオゲームの『エコー・ザ・ドルフィン』(1993)のイルカくんに由来し、かつ反響のエコーをも言っている。──そこまでは、確実。
しかしイルカという動物は、広く一般に、〈エコロジー使徒〉として見られてもいる。かつまたヴェイパーは、古いサウンド資源らを再利用する、アートのエコ活動でもある──ゆえに。
──ということで識者らにツイッターでご意見を求めたら、〈それはありそう〉というポジティブな反応らをいただけたことを、記しておく()。

《Plunderphonics, プランダーフォニックス

現代音楽の作曲家(もしくはメディア・アーティスト)であるジョン・オズワルドが、1985年に提唱した概念。訳すれば《略奪音楽》、もしくは盗用サウンド
そういうものとしてのヴェイパーウェイヴ、その最大の影響源は、DJスクリューらのヒップホップだといちおう考えられる。
しかしヴェイパーの発展(!?)とともに、素材らをちょっとローファイ化しただけのタレ流し/現代音楽めいたアプローチ/頼まれもしないリミックス(リエディット)──、などと、盗用&略奪の手口らは多様化している。

《Muzak, ミューザック》

“Muzak”、ムザック、ミューザックとは、あらかじめショッピングセンターやオフィス等のBGMとして作られた、安もの音楽。
もともとはミューザック社の商標であり、またエレベーター・ミュージック、あるいはパイプ・ミュージック(Pipe Music)、等々とさまざまな呼び方がある。その歴史は意外と異様に古く、1920年代には誕生していたとか()。
なお、次の記事をも参照されたし()。このイーノさん関連の記事にもチラッと出ている話だが、ミューザックとは単なる安いBGMではなく、《人を操作しようという音楽》だ。ショップの店頭では購買意欲を高め、オフィスにおいては勤労への意欲を高め……と。
だがそんなにまでは強い効果がないので、ごあいきょうで通っているばかり。そのあいきょうの部分をすくい上げているのが、われわれの“モールソフト”なのだろうか。
で、そうかと思えば音楽には、もともと人を操作しようという側面がある。行進曲は歩きを促し、軍歌の類は殺人と破壊への意欲を高め、ラヴソングの類は性交への衝動を促進し……等々々。そして逆に、そうした音楽の原罪である《操作》の側面をなくそうということが、イーノさん発案のコンセプト《アンビエント》の、きわまりなき崇高さ。
それで図は、ミューザックの社内的な1985年にダビングされたオープンリール・テープのデジタイズであるらしく、全16トラックで演奏時間が24時間超(!)というしろもの。まずはこれを聞いてみよう!

《Aesthetics, エセティクス(美学)》
Aesthetics, エセティクス, 美学

アカデミックな“美学”とは、異なる。細かく言うなら、《21世紀のインターネット美学》。
あるいは、いまの英語のネット用語として、サブカルチャー内での「これヤバくねェ? イケてない?」みたいな趣向やセンスらが、「《美学》!」と呼ばれるもよう。
そしてそういう趣向の中で大きな要素らだと見られるのが、なぜか1980年代めいたグラフィックや風俗やサウンドWindows95以前のヴィンテージPCら、スーパーファミコンメガドライブ、およびそうした20世紀末のニッポン文化のあれこれ。
……つまりヴェイパーウェイヴのテイストなのである、なぜか。

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2. 初期からのサブジャンル🐬

《Hypnagogic Drift, ヒプナガジック・ドリフト》

【蒸気波の最も初期の形態の1つである催眠ドリフトは、他のサブジャンルよりも夢のようなもので、奇妙なサンプルから奇妙な催眠雰囲気を作り出し、時々アンビエントと境界を接するドリフト形式の音楽を作成します。
最初のアルバムHologramsのリリース以来、このスタイルの進化がありましたが、骨架的はこのスタイルの最初のパイオニアです。それは間違いなく、奇妙で刺激的なイメージを使用して音楽のシュルレアリスムを強調〈後略〉。】
近ごろはそんなに言われないキーワード。なお、“Hypnagogic Pop”という似たような語もあるが、それは一般的にチルウェイヴの唄モノのこと。
図は、上の文中でも言及された、骨架的(骷)“Holograms”(2010)。傑作!

《Utopian Virtual, ユートピアン・バーチャル》

【James FerraroのFar Side Virtualはproto-vaporwaveと見なされている人もいますが、アルバムへの初期の概念に対する影響は、関連付けによって独自のサブジャンルを生み出すようになり、今ではアルバム自体がvaporwaveと見なされる必要があります。
ユートピアの仮想音楽は、一般的にムザックを使用して、近未来的なユートピアの感覚を作り出しますが、一部の作品には不吉な偽ユートピアの響きがあります。】
高尚なりくつを別にすると、現在このユートピアン・バーチャルは、主にシンセをチャラチャラと鳴らしたお調子のいいヴェイパーをそう呼ぶことが多い気味。
図は、ユートピアン系の元祖と目される、James Ferraro“Far Side Virtual”(2011)。このアルバムとその性格については、次の記事を参考にされたい()。

《Segahaze, セガヘイズ》

ビデオゲームらのサウンドやムードなどは、最初期からのヴェイパーの重要な題材。そしてなぜなのかセガ・ブランドへの固執や偏愛があり、その要素の目だつものが、セガヘイズと呼ばれていた()。
……ただし、そういう言い方があった、くらいの話。こんにちのヴェイパー・ファンが、このセガヘイズという語を目にすることは、実にごくまれかと。
だがいっぽう、ゲームっぽさの濃いヴェイパーを呼ぶサブジャンル名が、何か他に生じているわけでもなさげ。ゆえに、ここにも参考のため記載。
そして図は、気鋭の新レーベル“Mossy Frog Tapes”からの2022年、ゲーム系オムニバス。これの題材もセガ製品なので、セガヘイズ復興のきっかけになるかっ…!?

《Mallsoft / Mallwave, モールソフト / モールウェイヴ》

【モールウェーブ(Mallsoftとも呼ばれます)は、ショッピングセンターのイメージと、ショッピングモールで聞こえる匿名のソフトロックムザックのリミックスを使用して、ノスタルジアを引き出すことを目的としたVaporwave音楽のサブジャンルです。】
この項目は、Aesthetics Wikiより。ようはスーパーのBGMをことさらに聞くという態度に始まり、そして雑踏のモヤモヤとしたふんいきを付け加えていく。
図は、식료품groceries“슈퍼마켓Yes! We’re Open”(2014)。サンブリーチのレビューで最高レベルの評価に輝いた、モールソフトの歴史的傑作。

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《Late Night Lo-Fi, レイトナイト・ローファイ》

【Late Night Lo-Fiは、eccojamsと90年代のユートピア様式の蒸気波のレトロフューチュリズム(参照:ユートピア仮想および偽ユートピア)からサンプリングするという考えを取り入れていますが、それを新しい政治的な光の中で提示します。
それは、明るい光の感覚、ブルージーな感じの大都会の夜の作成に、より関心があります。この絵を描くために、80年代の音楽と滑らかなジャズを多用しています。】
図は、ロフィ騎手“深夜のニュースを待っています ボリューム3ー衛星に接続する”(2020)。別に歴史的な名作っていうわけでもないけど、自分がコレをすごく好き。このシリーズの前作らもオススメ!

《Vapornoise, ヴェイパーノイズ》

【ベーパーノイズは、極端な細断性と過度に攻撃的な生産を特徴とする、研磨性のある蒸気波です。
ベーパーノイズは、マイクロサンプリング、ディストーション、静的および極端なサウンド操作を使用して、元のサンプルを認識できないようにします。
蒸気騒音の2つの素晴らしい例は次のとおりです。
  世界から解放され by 新しいデラックスライフ
  Y. 2089 by テレビ体験】
この項目は、mMratnimiat氏のRedditへの投稿より。図は、テレビ体験“Y. 2089”(2014)。HKEさんがものすごくサエていた時期の変名作品で、半分くらいはシグナル系。そんなに激しくノイジーではない。

《Signalwave / Broken Transmission, シグナルウェイヴ / ブロークン・トランスミッション

【Signalwaveは、特にテレビ広告などからの古いメディアサンプリングに主に焦点を当てた、蒸気波の非公式な名前です〈中略〉。
これらの「壊れた送信」には、通常、サンプルが重く〔乱用され〕、時代遅れのメディアの美学と穏やかな音楽的傾向という統一的な特徴があります。
これらのリリースでは、スムーズジャズを組み込んで、vaporwaveが構築されているゴミのムザックの美学を取り入れることもできます。】
この項目は、Aesthetics Wikiより。ここらで言われる《シグナル》とは、テレビのCM、番組のテーマ曲やアナウンスなど、コンパクトでインパクトの強い音声サンプルらを指している。あまりニホンでは意識されない英語として、“sign”は街の看板らを言い、また“signal”はテレビラジオのCMらが言われる。
図は、New Dreams Ltd.“Fuji Grid TV EX”(2016)。2011年のEPである“Prism Genesis”が増補&改題された、シグナルの金字塔! どういうCMらが素材であるかは、和ウィキペに詳しい()。

《Computer Gaze, コンピュータゲイズ》

コンピュータゲイズとはもともとは、ヴェイパー最初期からの重要なアーティストである《Infinity Frequencies》が、自分の音楽スタイルに与えたネーミング、と認識している。その語がだんだん、ジャンル名として言われるように。
それがどういうスタイルかというと、まず断章形式であり、各楽曲の尺が30〜90秒くらい。そして安っぽい“ミューザック”やテレビCMのサウンド等々をしょんぼりとローファイ化して、あなたがただ独り面白くもない深夜テレビを視ているような寂しいムードを作る。
……そんなもの何が面白いのかと言われそうだが、しかし奇妙に引き込まれるところがあるんだ。図は、そのインフィニさんのアルバム、“Between two worlds”(2018)。いきなりの冒頭曲が、もう《神》でしかない!

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《Future Funk, フューチャーファンク》

【Future Funkは、Vaporwaveのデボルブ〈devolution, 衰退〉であり、French HouseとモダンなNu-Discoを組み合わせた、よりエネルギッシュな傾向にありますが、Vaporwave(およびマイナーな方法ではChillwave)のテクニックを使用しています。
音楽はサンプルベースで、リバーブエフェクトが普及しているため、前作よりもグルーヴ感が増しています。他の曲、特にシティポップミュージックの日本のボーカルやアニメのサウンドトラックがよく使用されます。】
図は、1980's NYディスコの聖地をイメージしたアルバム、SAINT PEPSI “STUDIO 54”(2013)。

《Vaportrap, ヴェイパートラップ》

【Blank Bansheeが彼のアルバムにBandcampで「vaporwave」のタグを付け〈中略〉、Vaporwaveのイメージと音楽的なテクスチャーを利用した、ハイテクトラップとヒップホップ音楽の非常にリアルで新しいスタイルがあります〈後略〉。】

《Vapormeme, ヴェイパーミーム

ネット用語としてのミーム(meme)とは、ニホンで言われる“テンプレ”くらいの意味か。そういうわけで、既成のヒナ型にちょっと何かしただけのヴェイパーが、ヴェイパーミームと呼ばれる。まあパロディみたいなもので、その最大の元ネタが、ご存じ『フローラル・ショップ』。
で、はっきり言って、くだらないものが9割9分なんだけど。がしかし、そのミームやパロディのような性格がヴェイパーの本質っぽくもあって、否定はしきれない。
図は、MACINTOSH PLUS“FLORAL SHOPPE 911: FLORAL COP”(2015)。これは意外とくだらなくなくて、Redditの関連スレでも“ハハハッ、こりゃイイ”、ていどに好評。

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3. やや新しいサブジャンル🆕

《Ambient Vapor, アンビエント・ヴェイパー》

形容詞としてのアンビエントをくっつけただけ。雑に言ったら、《2814》みたいなサウンドでありそう。図のアルバム「新しい日の誕生」(2015)が、そのお手本。
……というぼんやりした認識しかなかったが、しかしその後、少しだけ考察を進めた。俗悪ワイ雑なヴェイパー世界の素材や手法らを、ムリにでも荘厳化し《昇華》にまで導く──という無意識の意図が、このサブジャンルの根底にありそう。次の記事をご参照されたし()。

《Slushwave, スラッシュウェイヴ》

【Slushwaveは、「t e l e p a t hテレパシー能力者」のサウンドを含むVaporWaveのサブジャンルです。通常のVaporWaveよりも長い(通常は6分より長い)重く重なったトラックで、ピンポンサンプリングと大きなリバーブで不明瞭になります。】
スラッシュの“slush”とは、シャーベット状の雪、ぬかるみ、そういう何かドログチャッとしたものだそう。《やおい》の“slash”、メタルの“thrash”とは違う。
Harley Magoo氏(アーティスト名・General Translator)によれば、この語の誕生は、2014年にテレパシー能力者がSoundCloudで自作曲にそういうタグを打ったことによる、とか()。しかしなぜ「ぬかるみ」なのか、リバーブかけ過ぎのせいで太鼓の音が「ベチャッ」という響きになったりするが、そのせいなのだろうか?
ちなみにスラッシュのジャンル内では、テレパシーさん特有のぼんやりしたジャケ写、またニホン語の陰気な曲タイトル、そういうところまでをマネしていくのが、《美学》であるらしい。様式美なので、パクリとかどうとか早合点してはダメ。
図は、そのテレパシーさんによる「仮想夢プラザ」シリーズ総集編(2015)。全31曲・約16時間なので、軽ぅ〜く聞いてみてね!

《Hardvapour, ハードヴェイパー》

【Hardvapourは、90年代のテクノ、ガバー、ハードコアテクノIDM、インダストリアルに影響されたベーパーウェーブのサブジャンルです。
著名なアーティストには、Sandtimer(HKE、hardvapourおよびDreampunkレーベルDream Catalogueの所有者)、DJ VLAD(wosX、別名Flash Kostivich(およびその他多数)】
ヴェイパーウェイヴの逃避的で懐古的な性格を懐疑するにいたったHKEさんが、もっと現実社会にかかわっていくべきとして創始したサブジャンル。だが残念ながら、このところあまり活気がなくなっている。
なお、これについてのみ“vapour”と英国式のつづりである理由は、自分の邪推によれば、提唱者のHKE氏が英国の人であるため。
図はそのHKE氏による、Sandtimer “Vaporwave Is Dead”(2015)。このときはすごくカッコよかった!

《Dreampunk, ドリームパンク》

【ドリームパンクは、このますますシュールな夢の世界の現実に住む地下の人々のための夢の音楽です。】
……という説明は、ドリームカタログ社のHPより。ようはそのボスのHKEさんが、自分と仲間らの方向性を形容していることばなんだ。
現象的にはドリ・パンの全般は、たとえば陰気なチルアウト、あるいはノリの悪いIDM、くらいに聞こえている。だが、かといって逆に、そういうものがすなわちドリ・パンなのか──というと、おそらく違う。定まったスタイルがあるのではないと、HKE氏も述べていた。
では、とその出自を見ればドリ・パンは、あからさまにヴェイパーウェイヴから派生。またそれを支えているシーンも、その大部分がヴェイパーと重なりあっている。ヴェイパーという名の生ぬるい汚水をいちども浴びたことのない人が、ドリ・パンをやっている……ということが、ほぼなさげ。
だからドリ・パン文脈のチルアウトとかがあったとして、それは他ならぬ、“ポスト・ヴェイパーのチルアウト”。否定するにしろ、ヴェイパーの方法や美学らを、みっちりと参照した上での作品だと考えられる。
──そうこうとすれば、ドリ・パンの本質は、“ヴェイパーウェイヴを意識し超克しようとする運動”、くらいに言えそう。
なお図は、ドリ・パン史の第3世代くらいのアーティストであるDROIDROYの、ブルーライト (2021)。これはつまり『新しい日の誕生』の系統のアンビエント・ヴェイパーだが、ともあれすごくできがよく、また、ついに“ヴェイパー”という語による修飾を求めていない感じ。こういうものが、いずれドリ・パンの主流になっていくのだろうか……?

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《Classic Vapor, クラシックヴェイパー》

または、クラシカル・ヴェイパーとも言われる。サンブリーチさんのご説明によると、“2012年ごろのオールドスクール・ヴェイパーウェイヴ、すなわち、主にサンプルらの編集でできた略奪音楽、それへの回帰”()。
おそらく2017年あたりから言われるようになった語であると思われ、有力レーベル“B O G U S // COLLECTIVE”からの近作に、よくこのタグが入っている()。
また、こういう用語が現れたということは、もはやヴェイパーもそんなには新しくないのかな……ということに?

《Vaporhop, ヴェイパーホップ》

ヒップホップ的ニュアンスのあるヴェイパー。とくに、ビートのところにファンクのフレイヴァがある。ただし、まっとうなラップをフィーチャーしてるようなものは違う。
MF Doom”というラッパーのトラックメイキングがヴェイパーっぽいと言われ、確かにそうだが、しかし。

《Barber Beats, バーバー・ビーツ》

バーバー・ビーツ、理髪店ビート、また床屋系ヴェイパーとは、2014年あたりから現在まで高度な制作をなし続けているアーティスト《haircuts for men》、その特有のスタイルの模倣、模作(パスティーシュ)。また、この用語自体は2020年、《Macroblank》の作風を呼ぶために、英アロエシティ・レコーズのボスが考え出したもの、と知られている。
それがどういうスタイルかといえば、ジャジーでファンキーなイージーリスニングラウンジ系の既成トラックらを、ちょっとスローダウン、ちょっとローファイ化し、ちょっと長さを調整した、ほぼそれだけ。
けれどそれっぽっちの処理&選曲で、圧倒的なセンスの卓越を魅せつづけるヘアカッツ氏がいた。
そしてそのスタイルにやや近いようなヴェイパーは、以前から多少あった感じだが。しかしそれのみに集中専念し、そしてお手本をもしのぐ高レベルの制作らをなしたのが、マクロブランクだったのだ。彼のデビューが、バーバー・ビーツの始まりだと言える。
このマクロ氏を追ってまた実に多くの新人らが現れ、理髪店ビートは2021〜22年、ヴェイパーの関係でもっとも活気あるサブジャンルとなった。
なお模倣しているのはサウンドだけでなく、アルバムアートや曲タイトル等のセンスにおいても、ヘアカッツのユニークなそれらがお手本となっている。
それら全体の作り出すムードは、逸楽と陰うつが交錯している感じ、でありそう。ビジュアル面ではB&D(いわゆるSM)やゲイ・ムード、ことば面では意味不明だがウツさが伝わるニホン語などが、特徴的。
図は、サウンド的にはきわめてやさしくソフトだが帝国主義への反逆をテーマとするらしいユニークなアーティスト、《modest by default》の現在の最新アルバム、“PRAGMATISME (无可避免的)” (2023)。

《Dreamtone, ドリームトーン》

かんたんに言ってしまうとドリームトーンは、ドローン的スタイルによるアンビエント/チルアウトもどき。2020年の秋あたりから、勃興してきたムーブメントであるもよう。
これは夢の中で聞いたような音、または夢の中に人を導く催眠的な音楽、といったコンセプトがありげ。そのまたの特徴は、最短で10分〜最長で60分という各トラックの長大さ。
しかもなぜだか、端数がなくきりのいい数字に尺を設定、という傾向がきっぱりとある。サウンド的にはあまり目新しさがないが、しかしそういった構えのところに、ヴェイパー特有のシニシズムニヒリズムを感じさせる。
図は、ドリームトーン運動の拠点であるレーベル《DreamSphere》発のオムニバス、『TIDE-010 - 銀河間』 (2021)。すべての楽曲の演奏時間が10分ジャストであるなどをはじめ、“これがドリームトーンだ!”というマニフェストとして受け取り可能なもの。

《Hushwave, ハッシュウェイヴ》

ハッシュウェイヴの発祥は、地味にきわめて高く評価され続けているアーティスト《b e g o t t e n 自杀》、彼の傑作アルバム“(hushwave) - 治愈它”(2018)によることが、まず明らか()。
どういうものか説明すると、まずはもとからテンポが遅めのバラードやR&B等のサンプルらをさらに遅め、リバーブ音をまぶし、眠たい感じ……かつ、ニュアンス的に哀切なサウンドへ。それが陰気な曲タイトルやカバーアートのガイコツらとの相乗作用で、つい永眠へと誘われるような、ぶきみなチル感を演出する。
が、このヴェイパーのいやな子守唄であるハッシュウェイヴは、b e g o t t e n 自杀というアーティスト固有のスタイルであるかと、考えられなくはなかった。似たようなものが他からも続々出てこなければ、“サブジャンル”ではないわけで。
そしていまそのことをなそうとしているのが、2022年から活動中のアーティスト、《虚》)。きっちりと先行者を意識したガイコツ・スタイルも美々しく、また彼に続く新たなハッシュ系の輩出と興隆が望まれている。
……なお以上の記述は、​《虚》の人らヴェイパーの同志たちの情報提供に強く依拠しているので感謝がきわまりない()。

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なおヴェイパーウェイヴのサブジャンルいろいろについては、それを説明した感じの画像らも出廻っている。それらは、サンブリーチさんの記事にまとめられている()。

……と、このテクストの、現状はこういうところで。
今後も随時、加筆修正されていくでしょう。おそらく。

[さいきんの更新ヒストリー]
2023/07/15 - “エコージャムズ”にエコロジーとの関連を加筆/“バーバー・ビーツ”にわずかな加筆、画像とリンクを“modest by default”に差しかえ
2022/11/04 - “引用らのツギハギが主体であり、筆者の補足が従である用語集”を意図して当初は構成していたが、だんだん引用が少なくなってきたので構造を逆転、そして“ミューザック”の項目に大きな加筆
2022/11/03 - “ハッシュウェイヴ”の項目を追加、“ドリームパンク”を大きく修正、項目らを分類し並べかえ、等々々

なお、ご不明の点や疑問らがおありのさいには、ためらうことなく、何らかの方法(この記事のコメント欄、ツイッター、eメール等)で筆者にご連絡ください。あわせてご意見やアドバイスなどを、お待ちいたしちょるバイ。