ポ  サ  研

─ Post-Truth Sound Lab, Vaporwave / Désir Duplication Répétition ─

BALENTSバランス: Commercial Break (2018) - 恥の多いヴェイパー史をつづってきました。

ボクらのヴェイパーウェイヴの、いまだそう長くもない歴史のおさらい。2011年に立ち上がったものとして、13年くらいに第1次ブーム、16年くらいに第2次ブーム。その16年を最大のピークとし、以後、ムーヴメントとしてはダラ下がり傾向で現在へ。
で、ここから来たるべき第3次ヴェイパー・ブームまでのつなぎのMCとして、オレがこういう駄弁らを弄しておりますが……。

そういうブリーフなヴェイパー史の中で、第2次ブームのころには多少注目されたが、しかし2018年あたりから休眠中、というクリエイターたちが、けっこういるっぽい。いまご紹介する《BALENTS》さんも、そのひとりみたいなんだよね()。

流出している情報らを総合すると、本名をカイル・ジョイナーというアメリカの人が、2013年あたりから、《BALENTS》および《BALENTSバランス》、また《Squarecom広場SOFTWARE》)といったバンド名らで活躍していた。かつ、レーベル《Beer Wizard》のオーナーもこの人であるとか()。

で、このカイル氏が2017年夏、ビア・ウィザードの代表として発表したステートメントが、なんかすごく心に残っちゃったので、ざっと要約してご紹介()。

やあ皆さん、私はカイル・ジョイナーです。またの名をバレンツ、Squarecomソフトウェア、等々。2015年に私ひとりでこのレーベルを始めて、さいしょ1年間はすべてがうまくいっていました。
しかしそれから、同居中だったガールフレンドが私を追い出し、続いて職をも失い、ママの家に戻りましたが、お金がなく、このレーベルからの収益もイマイチで、仕事を探し、一週間300ドルでハウスシッティング(るす番)を引き受けましたが、しかしそこんちのガキが私のサイフからお金を盗んだりしやがり。
もうイヤになって大量にビールをあおり、気晴らしにクルマで近くの山に向かい、そして“草”を吸い、そして重度の飲酒運転として警官にタイホされましたが、でもそのあたりから、何も憶えていません。
というわけで現在もう大変で、受注済みアイテムらの出荷は、かなり遅くなってしまうでしょう。多くの謝罪。

──とは、このカイル氏、なかなかみごとなダメ人間でおられるもよう。いや、お互いさまだけどねっ!
また、この物語には、現代アメリカ版の太宰治人間失格ストーリーみたいな感じもある。あっちのヒーローは生活のためにポンチ絵(まんが)を描き、いっぽうのカイル氏はヴェイパーウェイヴを制作、ってわけで。

で、惜しくもこの声明をさいごに、ビア・ウィザードは活動を休止している気配。受注済みアイテムらの発送というタスクを、彼がちゃんとヤリきっていたことを祈る。

だが、別にカイル氏の人格や生活がどうこうって話ではなくて……。
そんな苦境からどうにか立ち直り(?)、彼が2018年に発表したアルバム2点、それらを鑑賞いたしたいんだよね。で、それらが彼の“最新作”となっちゃっているんだけど。

まずは、《BALENTS》名義の“nfnte”。これの1曲めがいきなり、たぶんダ二工ル・リ力ーリによる〈ダラダバダ〜〉という優美なスキャットがさくれつで、1970'sグルーヴ大成功! イェイッ
そしてこの1曲だけでも分かることだが、カイル氏の音楽はヴェイパーウェイヴとしては、かなりちゃんと“造っている”ほう。もと曲からのツギハギ編集も手が込んでいるし、さらにそこへヒップホップ風のビートまで足している。

このアルバム全体的にいいけれど、もう1コすごく印象的なのが、10曲めの“winterbound”。これはサノ卜モ三「うス卜サ又ー」(2005)──シティポップ・リバイバルの名曲の、フューチャーファンク・エディット。
卜モ三先生の声を大好きなオレは、すなおにシビレてしまう。そのネタ選び(sample curation)が最高だし、そして編集ワザもすばらしい。
ためしに唄い出しのところを聞き比べてみると、もと曲の少々眠い音が、びみょうにピッチも引き上げられつつ、シャキッと鮮烈なサウンドに改造されている。グッド!

かくて。1曲めの〈ダバダバ〉もそうだったが、出だしのわずか数小節で──、あ、これは名曲、と確信させるほどのサウンドを提示しているんだよね。あのカイルさんが。

では続いて、《BALENTSバランス》名義による“Commercial Break”を鑑賞。これはタイトルから予想されそうな通り、ニホンの1980年代のテレビCMのサンプルを使った、シグナルウェイヴ作品集()。
そしてこっちでも痛感させられるのは、ここらでカイル氏がほんとうに、“ちゃんと造る”ということを、ガンバっておられですな〜、ということ。

今作に収録されたトラックら、そのほとんどは、まず素に近いCMのサウンドを提示し、続いてそのエディットバージョンに移行──、という形式になっている。言わばクラシック音楽の、〈主題とその変奏〉みたいなスタイル。
ゆえにカイル氏が《何》をしているのかが、ひときわ理解しやすい。で、その手のかけ方と手の込みように、自分は感じ入っているんだ。ヴェイパー界では浮くくらいに、“ちゃんと造って”いるように思われる。

何しろ万事にテキトーなヴェイパー界でも、この《シグナルウェイヴ》というジャンルが、とくにヒドい魔界だし。もとネタのインパクトだけに頼りきった……悪いけど手抜きみたいに思えるトラックらが、のうのうと横行中だし。
いや、そういうのもまあ、いちがいにダメだとも言いきれず、《方法》の違いだと言えばそれはそうだし。ではあるが、ちゃんと造ればこうもなるのか、とね。

それとこのアルバムの、ネタであるCMの宣伝対象ら。ホンダ、日産、トヨタブリヂストン、そしてパイオニア・カーオーディオと、クルマ関係が大部分を占め、あとはたばこのラッキーストライクなど。オトコくさくって、いいよねっ。
そういう中で、イヤでも目立っておりますトラックは、口‡シー三ューヅックのハイパー銘盤「丁ヴァ口ン」(1982)のラスト曲が使われた11曲め。ナレーションがエンジンどうこう言ってんでクルマのCMらしいけれど、しかし商品名やメーカーなどは不明。ともあれ、もとの曲があまりにも至高、そしてエディットもナイス!

と、このように、失意のあとの2018年、そのじゅうぶんな実力を示してくれたカイルさん。そして、これっきりなんてもったいなくなくない!? ぜひぜひ、そのまたの再起をっ……!!