エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

Rainer: Petscop Soundtrack (2019) - ノスタルジーと恐怖、そしてポリゴン数の少なさ

“Petscop”──「ペッツコップ」とは、YouTubeをプラットフォームとして作られた、一種のメディアアートの連作であるらしい()。2017年にシリーズがスタート、19年をもっていちおう完結したもよう。全24話。
どういう作品かというと、発売されなかったプレイステーション用ゲームの実況プレイ動画と見せかけて、しかしシリーズが進むうち、ゲームの背後の恐ろしい状況が想像されてくるようなものらしい。ネットで語られるホラー系説話らをクリーピーパスタ》と呼ぶそうだが、その最高傑作のひとつ、と評価されているらしい。

などと、〈らしい〉の連発で話を進めちゃっている理由は、もちろん自分が、ついさっきこれを知ったばかりだから。
知ったきっかけは、この「ペッツコップ」のサントラを紹介するBandcampのコラム()。多少にしてもヴェイパーウェイヴと関連づけるような話になっていたので、それが目に入ったのは必然的だったんだよね。

「ペッツコップ」本編のことは知らず分からないとしても、その音楽がいいということは、聞けばすぐ分かる。いわゆるチップチューンのスタイルで、さいしょはほんのりとノンキな感じ。だが、先へと進むにつれて、不安や恐怖のムードがサウンドを侵食してくる。
そしてその全体を、ワリにまる〜い音質でまとめているところがセンスあるな、とオレは思うのだった。ムードが陰のほうに転じても、過剰に刺激的な音で恐怖を押しつけてくるようなことはしない、それがいい。

たぶん恐怖のクライマックスを描いているのが、“bottom”と題されたラスト前のトラック。これは5分間以上にも及ぶドローン音楽だが、その音質は比較的ソフト。
だがしかし、いろいろ状況を想像すると、けっこう恐ろしい響きに思えてくる。その恐ろしさを支えるだけの、サウンドの奥行きが実現されているワケ。

そもそも何が恐怖なのかというと、このシリーズのばくぜんと伝えている物語は、2000年に発生した《キャンディス・ニューメーカー死亡事件》がベース──と、考えられているんだ。養母になつかないキャンディスさん(当時10歳)に対し、インチキなカウンセラーらがインチキな療法を施して、その過程で彼女は窒息死してしまったのだという()。

そしてこの「ペッツコップ」アルバムの終盤前に、問題の“counselor”というタイトルのトラックがあり。それが音楽というより、何か金属のこすれ合う〈キシ、キシッ〉という音みたいなので、実に怖い。アルバム中、もっとも耳に刺激のある響きがそこに出ている。

さてこの「ペッツコップ」シリーズの製作は、映像も音楽もすべて、トニー・ドメニコという人による。米コネチカット在住であることを匂わせている、ナゾの人。
けれどサントラの作曲者としては、《Rainer》という名前がクレジットされている。これは動画の中で語られる、(架空の)プレステ用ゲームの製作スタッフの名であるとか。

そしてBandcampのコラム筆者は、「ペッツコップ」がデヴィッド・リンチ映画やガイナックス製アニメらのように、恐ろしくもミステリアスで感動的だとして、さらにこうも言う。

ドメニコは彼自身のアンジェロバダラメンティです。多くのリンチプロジェクト、特にツインピークの作曲家です。テーマ──そして90年代後半のビデオゲームの音楽とサウンドデザインの語彙を駆使して、メロディックで伝染性のある不安定な独自のファクシミリを作成します。

(グーグル翻訳システムの出力)

で、それから続いて、われらがヴェイパーヒーロー《テレパシー能力者》らによる傑作 「超越愛」)が、何かドメニコ氏の製作に影響を与えたような話が出ているんだ。たぶん、〈ノスタルジーと恐怖の両方を喚び起こす〉、そういう立体的なサウンドのお手本として、テレさんらが絶賛されているもよう。

……と、いったようなことなんだが。しかしさっき知ったばかりのものを、ヘンにオレが総括してしまうのも失敬なので、話のまとめようもないけれど。
ともあれ、こういう新しい表現のスタイルがあり。そしてオレらのヴェイパーウェイヴが、またそこに影響を与えているみたいな、誇らしいお話だと考えられる。イェイッ

それとさいごに、“Petscop”はどう発音されるべきか──、これは英語の世界でも結論が出ていない問題である〈らしい〉。ペット・スコップだという説も見うけるんだが、ここでは暫定的に「ペッツコップ」を採用した。