エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

デラックスライフ/溶けた壁/ヴェクトロイド - 《肉屋ビート》の誕生へ…

モドキです。えっとはいっ、ちょっとお久しぶりしちゃいましたね!

まあ、それはそうとです。2024年7月上旬、この近ごろのヴェイパーウェイヴ界で、やや目だっております話題は……。

このブツを、おそらくご存じでしょう。この場でも何度か話題にしております、ヴェイパーノイズ/シグナルウェイヴの超名作、〈新しいデラックスライフ: ▣世界から解放され▣(2012)〉。

それの初めての公式カセット発売が、ひとつのセンセーションなのです()。

細かいことを言いそえると、このたびの《Geometric Lullaby》レーベルからのリリースは、シリーズ続編である〈新・新しいデラックスライフ: SPEED DIALER !(2022)〉をも収録した、お得バージョン。
そしてそのデラックスライフの実体が、主には《INTERNET CLUB》として知られるロビン・バーネットさん──この方が、ジャンル名“Vaporwave”の命名者であることも確かなもよう──であろうとは、よく知られたことかと()。

で、たいへんめでたいことだとは、思うんですよね! すなおにシーンの多くの方々が、これをことほいでおられ。

ですけれど……。

……近ごろ聞いた中で、きわだって私に印象的だったヴェイパーのアルバムのひとつが、〈溶けた壁: 肉屋が話す(2024)〉です。
なぜその話に流れるかというと、おそらくCMらを素材とした、しかもグリッチの激しいサウンド……という性格が、『世界から解放され』とオーバーラップするからなのです。たまたまの重なりでしょうけれど。

さて、この《溶けた壁》なるアーティストは……。どこのどういうお人なのか、完全に不明。作品らのたたずまいから、どこか英語圏の人かなあと臆測していますが。

ともあれ、この“誰か”のメインのステージネームは、《victory over death》(
そしてその数多いサイド・プロジェクトらが、《forgetting》名義&またその派生として、リリースされています()。《溶けた壁》は、後者の中のひとつ。

なお。この人もけっこう歴が長いかのように、ついさっきまで錯覚しておりましたが……。

しかしいま調べなおしたら、BandcampやRYMで見えているような活動歴は、まだほんの一年間と少しです。それで諸名義をあわせて、すでに40作以上の“アルバム”を発表しています。

そしてアルバム『肉屋が話す』は、20曲/18分を収録。
そしてすでに申しましたように、たぶん英語のCMらがもと素材で……グリッチの激しい……。“チョップド&スクリュード”と私たちが申しますが、その前者の手法を大乱用!!

いや本来の、ヒップホップ系における“チョップド”は、グリッチという意味とは少し異なるようなふしもありますが。でもまあ、いいじゃないですか!

しかも手法は暴力的なのに、なぜか聞いていればふしぎと瞑想的で、トランキルな印象。それがすごくクールだと、想ったんですよね。
嵐の中の、静けさ……デジタル情報と商業メッセージらの断片が、激しく乱れ飛ぶ中の……。

そして。そのチョップド(みじん切り)が強いので、今作のタイトルに、お肉屋さんと言われているような気がします。
そのところから私なんか、近年のヴェイパー界でもっとも勢いあるサブジャンル《バーバー・ビーツ/理髪店ビート》……あれに対抗する、《ブッチャー・ビーツ/肉屋ビート》の誕生を妄想したりもしますが!

ところで。

……さて、その現在のパワフルな波である、理髪店ビート。これのひとつの特徴は、スムースさ。逆にサウンド面で飛躍や切断の要素らが多いものは、理髪系の中に、そうはないでしょう。
あわせて、ヴェイパー内部で、ずっと堅実な支持があるスラッシュウェイヴ。理髪系とはニュアンスが大きく違いますが、これもまた、やたらに長〜い“持続”をウリにしている特徴はあります。

そして、私は。けっこう以前から、初期ヴェイパーに多発していたグリッチ、それへの再注目がありえるかな……とは考えていました。
いや例外で、シグナルウェイヴというサブジャンルでは、グリッチの多用がずっとありましたが。しかし、アクセント的な用法がほとんどで、そんなに激しい乱用の例は多くない……そこらを変えていくものが、出てきそうかもと。

では、なぜそう考えたかというと……。

メインのステージ名《Vektroid》こと、ラモーナ・ゼイヴィアさんをご存じでしょう。
ロビンさんらに並ぶヴェイパーウェイヴの創始者のひとりであり、あまりにも大きな実績と貢献のあるお人です()。

そしてその人による近作アルバム、昨2023年末の“cRASH 1”、そして'24年1月の“cRASH 2: Mac +/-”、および“777 PIG DANGER”
これらがものすごいグリッチ大会の、チョップされまくり散乱するサウンド断片らの吹きあれる嵐だった……このことから、とも考えられます。

そして。

ヴェイパー界の多くの聞き手たちは、この連作めいたグリッチのぼう大でうず高い集積を、受けとめかねていた、というか、いるような気がするんですよね!
口が悪いので有名な《OSCOB》さんなどは、これらのどれかについてツイッターで、〈さいしょの2〜3曲まで聞いて、もうやめたッ!!〉のように、言いはっておられましたが。

けどまあ、私としては。それらについて、〈大傑作でもないような気がするが〉……とても奇妙な作品らだが、何かひかれるところがあると、その受けとめ方を、ずっと考えていたんですよね。

そしていま、“777 PIG DANGER”らを聞き直してみて。それと『肉屋が話す』との間に、響きの親近性を感じています。

……いやヴェクトロイドさんのは、CMや放送のような素材の感じに乏しいので、シグナルそのものではなさそうですけど。
かつまた。“cRASH”シリーズの2作がコアすぎることに比べたら、最新作である“777 PIG”は相対的に、ほんの少しは聞きやすくエンターテイニングに……変化していることも見逃せません。

それと。誰もが感じることかと思うのですが、ヴェクトロさんによるグリッチ系連作らが巨大で長大すぎることにひき比べ、『肉屋が話す』は、コンパクトにきれいにまとまっています。コンセプトを伝えきりながら。
そのことが私をして、〈新規に登場の“お肉屋ビート”、イクかなっ!?〉と、いい気分にしたと思います。

🍖 🤖 🧱

そして、結語です。

ヴェイパーウェイヴとかいうチン妙なサウンドも、2011年くらいからずっとやっていて……けっこう長くなっていますが……。

そしてそこから出てきた作品らの中でも、ジャンルおよびサブジャンルを創始し創設してしまうようなしろものたちは、やはりとくべつです。
まあ名作であると言えるわけで、ファンであればぜひ認識しておくのがいいでしょう。さらに収集癖がおありなら、それらのフィジカルをお求めになるのもいい。

ただし。そんな過去の定義し定義された名作たちが、“すべて”ではない。

定義されるのを待つかのような、奇妙なうぞうむぞうの出つづけていることが、ヴェイパーのもっとも面白いところだと、私は考えています。
……そういうことで、今回は溶けた壁さんに注目し、ザ・肉屋ビートの誕生や興隆を妄想しましたが。そうやって先をなるべく見てイキたいですね!


溶けた壁 / Vektroid - Dreaming of the Birth and Rise of Butcher Beats!

[sum-up in ԑngłiꙅh]
溶けた壁: 肉屋が話す [Melted Wall: A Butcher Speaks] (2024)

The artist who calls themselves 溶けた壁, their identity is completely unknown.
But I will try to explain somehow. Their main stage name is victory over death. And their numerous side projects have been released under the name forgetting and its derivatives. 溶けた壁 is one of the latter.

And 『肉屋が話す』 is a Signalwave album, probably based on English commercials. And the glitch factor is so intense! We call something “chopped and screwed”, and the former technique is used with great abandon!

And despite the violence of the style, the mood is somehow meditative and tranquil. I thought it was very cool.
A calm in the storm…… where bits and pieces of digital information and commercial messages are flying wildly……

And then. The chopped element is so predominant that I think the title of this work is called A Butcher. Maybe!
From that point, I sometimes fantasize about the birth of “Butcher Beats”, a counterpart to the subgenre Barber Beats…… which has been most active in Vaporwave world in recent years!

Also.
This album reminds me of “cRASH” series of glitch-filled albums that Vektroid, as you know, has been making since the end of last year 2023.

“cRASH” 1 & 2 and followed “777 PIG DANGER”. Particulary, the first two works are really noisy and intense! I think there were many Vaporwave fans who could not accept them as music.
But now, I feel that “777 PIG” in particular is very close to 『肉屋が話す』.

Also.
The beauty of 『肉屋が話す』 is that it is compact (20 songs/18 min), yet conveys the concept completely. In contrast, Vektroid's recent glitchy albums, while showing potential, seem to be too long.

And if 『肉屋が話す』 and its follow-ups are successful, “777 PIG” may be reevaluated as the originator of Butcher Beats. I dream of such a near future!!