エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

Smeared Lipstick: sophomore (2020) - 眠みの中に溶けていく快楽のエコー

《Smeared Lipstick》、ちょっとエロチックなニュアンスのある〈にじんだ口紅〉というバンド名のヴェイパーウェイヴ・クリエイター。その人は、カンサス州インデペンデンス出身あたりを主張()。
そして今2020年、2作のアルバムを、オレが信頼するレーベル《B O G U S // COLLECTIVE》からリリースしている。

ところで。ワールドワイドのヴェイパーウェイヴのファン層ってのも広大膨大すぎてアレだけど、自分がばくぜんとウォッチしてる限り、〈意外にテンションが高いようなサウンドが好まれるのかな〉、という一般的嗜好を感じるんだよね。

たとえば〈ヴェイパー系のライブキャストですよ!〉というお知らせを見て、ブラウザを開く。するとヤッてる音楽は、多少はヴェイパー臭があるにしても、ドラムンベースの激しいヤツだったり。
そこで、〈こういうのもいいけど、でも……〉と、ついつい自分なんか少し引く。だがしかし、映像の横チョのチャット欄は、好評で大いに盛り上がっている。イェイッ

前から思ってんだけど、どうせポップ音楽の世界では、テンションが高く、パワフル&エモーショナルである──、そういう作風のほうが一般的に好まれる。しかも、話題になりやすい。
逆に《アンビエント》やそれに近いような音楽たちは、よくても悪くても目立たず、話題になりにくい。テンサゲであり、パワーやエモーションらを切り棄てていくようなサウンドでは。

……と、それは一般の世間の傾向だが。しかしヴェイパーウェイヴの世界でさえ、少し似たようなところがあるのかな……ということを、近ごろ感じていなくない。

さて、お話は戻りまして、在カンサスの新鋭(らしき)ヴェイパー者、スミアード・リップスティックさんのこと。
この人による既発アルバム2作──“I”、および“sophomore”──、そのいずれもが、テンションの低さのあんまりなきわまりなんだよね。ジャンル的には、いちおうレイトナイト系と言えそう()。

2作とも傾向はほとんど変わらないので、ここでは後発の“sophomore”のほうを見ていこう。このアルバムは、全7曲・約24分を収録。そしてタイトルの〈スフォモア〉とはカレッジ等の2年生のことらしいが、たぶん〈2ndアルバム〉の言い換えだと推測。

それがどういう音楽かというと、まったくどうでもいいようなスムースジャズや一般ポップなどの素材らを、きょくたんにスローでひたすら眠たい響きに仕立て直しただけ、みたいなもの。
そして、そういう風にしていくプロセスを《ヴェイパー処理》と、自分なんかは呼んでいるワケだが()。

ただし。自分とかはヘンなサウンドを聞くと、〈どうやって作ってるの?〉ということをついつい考えがちだけど、しかしそんなことを考える“必要”はない。
けれども、いまここに現象として、ひたすらにスローで眠たい響きが、ある──。いや、“ある”って言えるほどの実在感を伴わず、それがおぼろげに、蒸気のように(!)、漂っている。

そしてその、ひたすらにスローでフラットに拡散された眠みマシマシの響きは、いったい《何》を伝えているのか。
〈作者の意図〉なんていう伝説的な存在は問題にしないので、かってに自分が受けとったものを記述しようとしてみると、それは拡散されきったヌルい《快楽》の残りカス。または、その遠すぎるメモリーらの残響。

あえて言うと《ヴェイパー処理》は、そのスローダウンによって〈ヌルさ〉を、そのEQ処理によって〈遠さ〉を、そしてリバーブ処理によって〈残響〉であることを、それぞれ実現している。
そうやって、素材となった楽曲ら、その本来のテンションの高さ、またその表現していた《享楽》への性急な希求……等々を、フラットに〈拡散〉しつくしてしまう。

そして、そういう所業とそういうサウンドを、なぜかとくべつに自分が好んでいる。

けれど、ヴェイパーウェイヴを受容している層の中でも、そんな嗜好は、さほど一般的でもないのかな──ということを感じてるワケなんだよね、近ごろ。

[sum-up in ԑngłiꙅℏ]
Vaporwave creator, named Smeared Lipstick, claims to be from Independence, Kansas. Now in 2020, he has released two albums from the reliable label B O G U S // COLLECTIVE.
His two albums, “I” and “sophomore”, all have the same tendency, with smooth jazz and general pop that don't matter, and just remade into a slow and sleepy sound. It seems.
Is it a completely diffused null pleasure or the reverberation of its too distant memories? Really pleasant.