エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

Fester's Quest: F a n c y F e a s t ⁽ᵇˡᵘᵉ ˡᵃᵇᵉˡ⁾ (2021) - 愛はリッチなお肉のフレイバー

《Fester's Quest》──フェスターズ・クエストを名のる人は、米フロリダ州に在住のヴェイパーウェイヴ・クリエイターであるようです()。
そのバンド名のフェスターズ・クエストとは、海外版ファミリーコンピュータ向けビデオゲームのタイトルが、借用されているものと思われます()。

さてこのフェスターさんは、2016〜18年にアクティブで、しかしこの3年ほど新しい作品がありません。
また、惜しくも。このフェスターさんによる作品たちは、いままであまり、このヴェイパー界の大きな話題になったことがないようです。

そのようなフェスターさんの──失礼ですが地味で隠れた──作品が、なぜこの場でのご紹介という運びになっているのでしょうか。
それは、私たちの信頼のレーベル《B O G U S // COLLECTIVE》が、この2021年1月、フェスターさんの2017年のアルバムを再発してくれたからです。アートワークの色をブルー系に替え、そしてボーナストラックを追加した増補版として。

さあ、その注目のアルバム、“F a n c y F e a s t”。これは、キャットフードをテーマにした作品かと思われます。
青いラベルの新エディションは、全13曲・約38分を収録。その各トラックのタイトルが、カバー写真の毛並みのよさそうなネコさんの、ラグジャリー&ごうまんな暮らしぶりを暗示しています。

そして……。私もこのほど初めて聞く機会を得たのですが、この『ファンシーフェスト』は、どういう音楽であるのかと申しますと? いや、それが実に……!

まずこの音楽は、出どころのまったく想像もつかないような、あさはかにして安っぽさをきわめた《ミューザック》らを、その素材としています()。
ややロック調のそれら原曲を、わずかにスローダウンしていそうですが、しかしその効果は、それほど過激ではありません。すさまじいのは、その先のローファイ加工です。

かなり多くの楽曲で、2kHzあたりから上の高音部が、バッサリと完全に切り棄てられています。その切れ方の鋭さからするとこれは、EQではなくローパスフィルタの処理かも知れません。
かつ、低音部の周波数もカットされていますが、そちらの削り方はまだしも穏健です(……ヴェイパー界の基準では!)。

その他にも、軽くリバーブの処理などがあり、まあとにかくサウンドのローファイさがきわまっています。音圧がきわめて低く、鼓膜に当たるような音がほとんど出ていないので、じっさいよりも音量が小さく感じられるでしょう。
これではまるで、近所の家で点けているラジオか何かの音が、壁から洩れて聞こえているようです。

ところがそのような、もうろうとしているばかりのサウンドを、きわめてスムースでコンフォータブルだと感じている私がいます。すばらしい!

なお、このアルバムについてRedditで、興味深い問答を見つけたのでご紹介します。この『ファンシーフェスト』オリジナル版が出た当時、ヴェイパーウェイヴ愛好者からの批判的な意見に、作者フェスターさんが回答しています()。

【ボロック氏】:どの曲もまるで、壊れたテレビの音声を約6メートルも離れて聞いているかのようです。実にやせ細って聞こえづらい、こんなサウンドは好ましくありません。
【フェスター氏】:不運なことに、これらすべては、壊れたテレビの音声が約6メートルも離れて録音されたものなのです。これもまた人生です

そういうことなら、受け容れなければならないようです! イエス

なお、フェスターさんのディスコグラフィは──現在までに8作くらいのアルバムが出ていますが──、別にこういうサウンド一色であるのでもなくて。
もう少しくっきりと聞こえている音楽(?)や、またチップチューンのようなものも存在します。
ですが、この『ファンシーフェスト』にもっとも傾向の近い作品は、それの前作になる“HORSE GIRL”でしょう。あわせて大いにおすすめです!

──それにしても──。

果てしないほど拡がり続けるヴェイパーの荒野、そこに埋もれたジュエルであった、このアルバム『ファンシーフェスト』。その作者の功績は、もちろん言うまでもないにしろ。
かつ、それの発掘に成功したボーガス・レーベル、そのサーチ能力と批評眼もまた、実に卓越したものだと考えざるをえません。深く尊敬です!!

[sum-up in ԑngłiꙅℏ]
Fester's Quest, a Florida-based Vaporwave artist. His album “F a n c y F e a s t” is a concept album based on the theme of cat food. It could be considered as a description of the luxurious and arrogant way of life of the cat in the cover photo.
The album was released in 2017, but didn't seem to get much attention. In January 2021, it was reissued with bonus tracks by the trusted label B O G U S // COLLECTIVE. This new edition contains a total of 13 tracks and about 38 minutes.

And it is thought that this album is a processing of “Muzak” or something, which are so cheap, absurdly and cheesy that you can't imagine the source, into a horribly hazy Lo-Fi sound.
It's like the sound of a radio or something playing in a neighborhood house leaking through a wall.
However, I find such a vague sound of this extremely pleasant, smooth and comfortable. Very nice!