ポ  サ  研

─ Post-Truth Sound Lab, Vaporwave / Désir Duplication Répétition ─

蜃気楼MIRAGE: fantasy (2020) - 妄想から始めよう、ファンタジーにいたるまで

《蜃気楼MIRAGEを名のるヴェイパーウェイヴのアーティスト。Bandcampページでは東京在住の人だと称しているのですが、もちろん信じていません()。

いっぽう、Rate Your Musicの該当ページには、カナダのモントリオールの人だと書かれています()。この話もうのみにはしませんが、一説として紹介します。

この蜃気楼さんについて、分かっている限りのことは、どうやら2015年から活動中であるらしい。彼のデビューアルバムと目される『妄想 delusion』は、レイトナイト・ローファイ系ヴェイパーの名作と言えるでしょう()。
「妖怪都市」というけっさくな曲名のトラックで始まるそれは、追って現在までの蜃気楼さんの音楽を、早くも集約しています。

そこではスムースジャズらしいサンプルが、実に快くスローダウンされローファイ化されています……という、手法的にはおなじみすぎるものですが。
それにしても、ちょっとすごいと思うのは『妄想 delusion』の、きわめて大胆なベース(低音)の削り方です。その結果カスッカスで、しかもスッカスカの乾いたサウンドになっています。これがいい!

そういえば。

スムースジャズを素材とした……〉ヴェイパーウェイヴというと、私たちがもっとも強く支持している床屋系、《バーバー・ビーツ》もまた、それであると言えます()。
しかし聞き比べてみると、アプローチの違いがよく分かって、興味深い。レイトナイト系が脱力の一辺倒であるのに対し、バーバーは、享楽と絶望のはざまでビートが〈立って〉、いるように聞こえるのです。

話を戻し。おそらく蜃気楼さんのアルバムでもっともポピュラーなのは、やや近い世代のアーティストである《waterfront dining》さんとのスプリット、“Songs For Lovers”(2016)だと思います()。
スムースジャズめいたインストを得意とする蜃気楼さんに対して、R&Bのような唄ものの加工を得意とするウォータフロントさん。二人の個性がそれぞれに出ていて、じっさいにいい作品です。

さて、蜃気楼さんなんですが──。一時期は作品の発表がとぎれていたところ、2020年、3年ぶりくらいに出たアルバムが、“fantasy”です。全8曲・約15分を収録。
この人の作品系列を追って聞いていくと、『妄想 delusion』で確立されたスタイルが、びみょうに左右へと動いている感じがします。そして現在の最新作“fantasy”は、再びそれを集約しなおした、蜃気楼サウンドの再確立であるかも知れません。ナイスです。

ところで。

蜃気楼サウンドをいいと思いますけれど、何も《いま》ぜひ注目すべき作品であると、言いたいのではありません。
いや、実は。違うところで実にショッキングなサウンドに出遭ってしまったので、〈ああ! そもそもヴェイパーウェイヴってどんな音であったか!?〉ということを、ほぼ見失いかけました。
そのあたりの再確認のため、もう少しモデレートなヴェイパーを聞き直していたような関係で、この蜃気楼さんへの注目となったのです。

いずれ近く、その衝撃的で画期的なヴェイパーウェイヴ──おそらく──について、語り直さなければならないでしょう()。では!

[шrαρ-υρ in ԑngłiꙅℏ]
The vaporwave artist who calls himself 蜃気楼MIRAGE claims to be from Tokyo on his Bandcamp page. On the other hand, Rate Your Music says he is from Montreal, Canada.

As far as we can tell, he's been active since 2015. His debut album, 『妄想 delusion』, is considered to be a masterpiece of latenight lo-fi vapor.
It begins with the delightfully named track 「妖怪都市」(Specter City), already sums up 蜃気楼MIRAGE's music up to the present day.

In it, smooth jazz-like samples are slowed down and lo-fi'd in a very pleasant way. ...... is all too familiar in terms of technique.
What I find a bit amazing is the extremely bold way the bass is cut in 『妄想 delusion』. As a result, it has a dry, crunchy, tinny sound. This is good!

And 蜃気楼MIRAGE, his action was interrupted for a while. But in 2020, album called “fantasy” was released. It contains a total of 8 songs and about 15 minutes.
When I listen to this person's work series, I feel that the style established in 『妄想 delusion』 is swaying from side to side a little. And the latest work “fantasy” may be a re-establishment of the 蜃気楼MIRAGE, re-consolidating it. Nice.