《∆ΣTHΣR░विज्ञान》を名のっている人は、米ニューヨーク市に在住するらしいヴェイパーウェイヴのアーティストです。2019年から活躍しているもようです(☆)。
で、この人のステージネームが、実にどうしようもない感じですが! しかし調べたところ、後半のヒンディー語は、〈サイエンス〉くらいを意味するようです。
かつ、Bandcampページのアドレスに〈ethernet mind〉とありますので、おそらく《意味》は、そういう感じなのでしょう。ともあれここでは、仮にエーテルさんと呼んでおきます。
そしてこのエーテルさん。バンド名だけでなく、そのアルバムやトラックらのタイトル表記が……また実にすさまじい。
これらを面白いと思う人がいないとも限らないので、現在までの彼のアルバム8作の、タイトルらを列挙しておきます。
ıllıllı 𝓟άภ¢𝐇Ⓐ βħ𝐨𝐎tά ıllıllı (2019)
i҉g҉n҉e҉s҉t҉h҉a҉i҉ ҉t҉h҉e҉ ҉O҉b҉s҉c҉u҉r҉e҉ (2019)
Зялёная_ ᵂᵉ ᵖˡᵒʷ ᵗʰʳᵘ ᵗʰᵉ ᶠⁱᵉˡᵈˢ & ˢᶜᵃᵗᵗᵉʳ (2019)
𝑀𝑜𝓊𝓃𝓉𝒶𝒾𝓃𝓈 𝓃𝑜𝓌 𝓌𝓇𝒾𝓉𝓉𝑒𝓃—𝑅𝒾𝓅𝓅𝓁𝒾𝓃𝑔 𝓌𝒶𝓉𝑒𝓇... (2020)
๔๏ ฬђคՇ Շђ๏ย ฬเɭՇ ὀρθοδοξία (2020)
𝕄𝕒𝕤𝕥𝕖𝕣𝕤 𝕠𝕗 𝕥𝕙𝕖 𝔸𝕟𝕔𝕚𝕖𝕟𝕥 𝕎𝕚𝕤𝕕𝕠𝕞 (2020)
𝐄𝐚𝐫𝐭𝐡🌎𝙄𝙣𝙛𝙚𝙧𝙣𝙤🔥 (2020)
ⒺⒸⒸⓄ: O̾r̾d̾e̾r̾ ̾o̾f̾ ̾t̾h̾e̾ ̾D̾o̾l̾p̾h̾i̾n̾ (2021)
……何をどうすれば、こういうわけの分からない文字らが出てくるのか、無知にして見当もつかないんですよね!
けれどまあ、文字のことなどはさておき……。
そしていまご紹介したい、“ⒺⒸⒸⓄ: O̾r̾d̾e̾r̾ ̾o̾f̾ ̾t̾h̾e̾ ̾D̾o̾l̾p̾h̾i̾n̾”。これは9月初頭に出たばかりの最新アルバム、エーテルさんとしては、今2021年の初の作品です。全9曲・約71分を収録します。
タイトル的にはどう見ても、かの伝説的なチャック・パースンさんの『エコージャムズ第1集』(2010)、あれが強く意識されたもののようですが……(★)。
そしてこのアルバムは、いま視点のシャープさを誇っているカンパニー《global pattern》、そのサブレーベルからリリースされました(☆)。そしてその、ツイッターにおける発表アナウンスに、きわめてふるったフレーズが見出されました(☆)。
highly deteriorating mashup of genres and dissociating atmospheres
非常に悪化しているジャンルのマッシュアップと解離した雰囲気
──まさしく、です!
エーテルさんによる音楽を短く形容するために、それ以上のことばが、とても私には思いつけません。
だいたい通常のヴェイパーウェイヴは、あっさりと既成の楽曲らをサンプリングして、しかもそのことを隠そうともしていない。そういうところがありますが。
いっぽうこちらのエーテルさんは、何かをサンプリングしているのかどうか、はっきりとは分かりません。しているとしても、かなり手の込んだ処理で構成していそうです。
そうして構成されたトラックらは、概して短くはありません。平均すれば、一曲が7〜8分間くらいでしょう。
そしてそれらを聞いた感じは、サイバーパンクなムードを持つ、エレクトロニックでサイケデリックな、きわめて複雑怪奇にしてこんとんとしたIDM──かつドラムンベースやグリッチ的なところもないではない──、くらいに言えますが。しかし、苦しまぎれの貧弱な形容です。
《IDM》かなあ……とも思いつつ、しかしぜんぜんダンスなんかできないし。こんな音楽をこれだと言いうることばが、現状は存在していません。
それをあえて言うならば、まさしく、〈非常に悪化しているジャンルのマッシュアップと解離した雰囲気〉なのです! グローバル・パターンの人がうまいことを言いすぎるから、強く私は敗北感を覚えています。
そして。このエーテルさんの音楽に初めてふれたら、かなり多くの大部分の人が、違和感や不快感を覚えることになりそうです。私にしても、それは、まあ。
ですけれど。その放っている妖気につられて何度も何度も聞いているうちに、〈これは……あるいは……いい音楽なのか?〉という気が、してきたんですよね。少なくとも、非凡なものであることはまちがいない。
とくにこの最新アルバム、“ⒺⒸⒸⓄ: O̾r̾d̾e̾r̾ ̾o̾f̾ ̾t̾h̾e̾ ̾D̾o̾l̾p̾h̾i̾n̾”、これのサウンドにいっそうの切れが感じられます。
これがいずれは、少なくはない聴衆にアピールする時代が来るのでしょうか? そして私たちのエーテルさんが、多少なりとも今後、その名を──分かりづらい上に発音もできないそのバンド名を──高めていったりするのでしょうか?
何も分かりませんが、たぶんヴェイパーウェイヴの影響下にあるものとして、このエーテルさんの奇妙きてれつなサウンドが出てきたことを、ひそやかに私は大きく悦んでいます。
[шrαρ-υρ in ԑngłiꙅℏ]
Vaporwave artist ∆ΣTHΣR░विज्ञान who claims to live in New York City, USA. This strange stage name probably means something like “ethernet mind”.
As far as we know, he has released eight albums from 2019 to the present. And his latest work is “ⒺⒸⒸⓄ: O̾r̾d̾e̾r̾̾o̾f̾̾t̾h̾e̾̾D̾o̾l̾p̾h̾i̾n̾”. Contains 9 songs, about 71 minutes.
This album was released on the sub-label of the company global pattern, which is now proud of its sharp perspective. And in that announcement on Twitter, a very clever phrase was found (☆).
highly deteriorating mashup of genres and dissociating atmospheres
── That's truely right!
I can't think of any more words to describe the music by ∆ΣTHΣR░विज्ञान in a short way.
In other words, it's an electronic, psychedelic, highly chaotic complicated IDM with a Cyberpunk mood, and some Drum'n'Bass and Glitch flavor. Anyway, it sounds like no other, and it's just “highly deteriorating mashup of genres and dissociating atmospheres”.
And this ∆ΣTHΣReal sound will impress a big discomfort to those who are not familiar with it. But as I listened to it inadvertently over and over again, I began to illusion that this might be surprisingly wonderful.
And I hope that the illusion will spread to many people and all over the world!