エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

y o u r d i s c o v e r y: M E T R O - 3 (2021) - 光輝くルナパークへまで、地下鉄で

《y o u r d i s c o v e r y》──ヨア・ディスカヴァリーさんは、米ミシガン州に在住を主張するヴェイパーウェイヴのアーティストです。
略してここでは、《ヨア・カヴァ》さんと呼ばせていただきましょう()。

詳しくは後述しますが、彼の音楽はきわめてユニークです! 聞いた感じ、〈ヴェイパーウェイヴには違いあるまい〉とまでは思うのですが、しかし似たような作品が、他にはめったになさそうなのです。

で、さて。このヨア・カヴァさんの、Bandcampにおいてのリリース歴は、2019年の後半から。コラボレーション作を含めると現在までに、5作のアルバムを発表しています。

そしてその中の最新作が、2021年10月・発の、“M E T R O - 3”です。全9曲・約47分を収録しています。
そして今作が、ヨア・カヴァさんの独自のサウンドの、現在までのきわまりなのです。彼による“すべて”が、一聴以上の価値を持つ愉しい音楽なのですが、とくにこれが。

豪シドニー市のルナパークの夜景です
シドニー市のルナパークの夜景です

いや、まず。何しろタイトルがメトロというので、地下鉄っぽい音楽なのかと思いましたけれど、意外にぜんぜんそうではありません。
むしろきわめて華やかでにぎやかで、心の浮きたちをあおるようなサウンドなのです。

そうです。このアルバムはまるで、《ルナパーク》──人工のきらびやかな光たちに包まれ、そしてアーケードからさまざまな愉しみの音楽らが流れる──その中をそぞろ歩くような、そんな体験を与えます。
そして、その私たちの歩みにつれてパークの景観が変わるように、今アルバムの音楽もまた、流れにそって、少しずつそのトーンを変えていきます。よどみなく、華やかに、変化しつづけるのです。

あさはかきわまるデジタルシンセの、きらきらと軽はずみな響きがもう、すごいのです!

実にすばらしい、〈至福感/blissful〉ということばがよく似合う──そういう傑作の誕生に、私たちは立ちあってしまったのではないでしょうか。

その至福めいたムードについては、先行している作品らで言うと、《MindSpring Memories》さんの《スラッシュウェイヴ》の傑作たちが、やや近いでしょう()。
けれどもヨア・カヴァさんのサウンドは、〈ばくぜんと聞いている限り、まったく構成感がつかめない!〉──言わば、ルナパークのびっくりハウスのように迷宮的──そこが、きわめて独自です。

いや、まずマインドスプリングさんの音楽は、その手法面においては、わりに正統的なスラッシュだと考えられます()。つまり、サンプリングがあって、そうはひねった操作をしていないかな、という意味です。
そのいっぽうのヨア・カヴァさんのサウンドは、もっと複雑な操作や構成らをしていそうな印象。ですが、聞いた感じはきわめてスムースなんですよね! そこに私は、深く感じ入っています。

また、手の込んだ操作とカーニバル的なふんいきということで今作には、かのDDSWによる歴史的傑作“SEAWRLDハートブレーク”(2014)を、思わせるところもあります()。
とはいえ、突発的で爆発的なエモさにおいては“SEAWRLD”が、永遠の優勝ですが。しかし流れのスムースさあたりにおいては『メトロ - 3』がまさるか、とも。

ならば……。ということで、ヘッドホンなども使ってこの『メトロ - 3』を、少しその構成の《分析》を意識しながら、再びリスニングしてみましょう。

そうすると印象的なのは、《モールソフト》でしばしば鳴っているような、人混みの熱気を思わせるばくぜんとした何かの音が、一貫したアンビエンスとして、分厚く仕込まれている、ということです()。
これがまず、アルバム全体のふんいきを作っています。

そしてこの、もやもやとした歓びのふんいきの上で──。きらきらと華やかなトーンを持つ音楽的要素らが、これまた分厚いリバーブ音のもすそを引きずりながら、メドレー的につながっているのです。

そのつなぎ方のあまりなスムースさが、実に心にくいばかりです。〈今アルバムは全9曲〉とは言いましたが、別に全部で1曲と考えてもさしつかえない感じです。
かつまた。ときには音らがグリッチ的に操作されているところもあるのですが、しかしその響きは常に、やさしくやわらかで気持ちがいい。

……まいりましたね、脱帽でしょう!

だいたいの話、ここで鳴っている〈音楽的要素ら〉のソースについて、まったく私には見当がつきません。ざらにあるような《ウェザー・ミュージック》の流用とは、また違うような気がします。

その点のヒント。このヨア・カヴァさんは、《h º r ¡ z º n щ ¡ r e l e s s》という別の名義で、少し傾向の違うヴェイパーを発表しているのですが……そちらもまたいいのですが……()。
そして、ご本人のツイッター・アカウントの自己紹介によると、ヨア・カヴァでは〈オリジナル・ミュージック〉、ホライズン・ワイヤレスでは〈サンプリング中心〉、と使い分けているのだそうです()。

……というお話を信じれば、傑作『メトロ - 3』は、とくに流用や略奪されたようなソースらもなく、まるごと創作されたものなのでしょうか? 否定する材料がないならば、そのように信じておきましょうか?

そうしてさいごに、付け足しの余談です。

このアルバム『メトロ - 3』の随所にて、スクリューされたへんな声が何ごとかを語っているのですが、しかし私にはまったく内容が聞きとれません。〈英語なのかな?〉くらいしか、分かりません。

いっぽうそれが分かる人々におかれては、また全体の印象が、違うものになるのかも知れません。とはいえ、タイトルがなぞの要素になってしまっている、〈メトロ〉──地下鉄の案内みたいなことを言っているのでは、ないような気がするのですが……!

[шrαρ-υρ in ԑngłiꙅℏ]
y o u r d i s c o v e r y is a Vaporwave artist who claims to live in Michigan, USA.
And his music is extremely unique! I think it's Vaporwave, but it's unlikely that there's anything else similar.

Now. This Mr. Y-D's release history at Bandcamp is from 2019. And to date, five albums have been released, including collaborative works.

And the latest work among them is "M E T R O - 3" announced in October 2021. Contains 9 songs and about 47 minutes.
And this is the ultimate of Y-D's original sound to date. "Everything" by him is fun music that is worth more than a listen, especially this one.

No, first. The title is Metro, so I thought it was subway-like music, but surprisingly it's not at all.
Rather, it's a very gorgeous, lively, and inspiring sound.

That's right. This album gives us the experience of walking through "Luna Park" that is enclosed in artificial glittering lights and playing various fun music from the arcade.
And just as the landscape of the park changes as we walk, the music on the album will gradually change its tone along with the flow. It keeps changing brilliantly without stagnation.
The sparkling and garish sound of the frivolous digital synths, is so amazing!

Perhaps we have witnessed the birth of a truly wonderful masterpiece that suits the word "bliss".

Also, the feature of this album is that you can't grasp the construction at all if you listen to it. It's like a labyrinth, as a mad house in Luna Park.
So, let's listen to the album again with headphones, etc., while being aware of "Analysis".

Then, what is striking about it is that the sound of something that is reminiscent of the heat of the crowd, which is often heard in "Mallsoft", is thickly planted as a consistent ambience. First of all, this makes the whole album atmosphere.
And on this haze of joy ──. Musical elements with glittering and gorgeous tones are connected like a medley, dragging the hem of the thick reverb sound.

And the smoothness of the connection is really wonderful. I said the album has 9 songs in total, but it's okay to think of it as one song.
And sometimes the sounds are glitch-like, but is always gentle, soft and pleasant.

...... Hats off to Mr. Y-D! Excellent!