《US Golf 95》──この、すでに広範なリスペクトをかちとっているヴェイパーウェイヴのアーティストについては、いくらか以前にもお伝えしています(★)。
そして、いまご紹介しますゴルフさんの作品が、『天気ジェネリック』四部作です。今2021年の9月中旬に4コ同発の、最新アルバムらです。
それが、ゴルフさんにはこれまでなかった感じの、《ClimateWave》──お天気系ヴェイパーウェイヴ──で、大きな愉しみを提供してくれました。4つを合計すると、39曲・約108分にもなる大作です!
で、さて。
ひとは誰しも、若いときには、〈空が晴れようと雨が降ろうと、オレはオレだぜェ!〉みたいな気持ちのいきおいが、多少はあるかと思います。
ところがうっかり年齢を重ねてしまいますと、〈お天気のことくらいしか、言うような話題がない〉ということに、やがて気づくでしょう。
ゆえにいま、お天気系ヴェイパーウェイヴの時代です。イェイッ。
そういえば。
私なんかも若いころ、うっかり近所で《善良な隣人》らと目を合わせてしまい、そして〈いいお天気ですね!〉などと声をかけられて……。
そういうとき、どう答えるものなのかと、考えこんだりとまどったりもしていましたが。まあ、そういうタイプの人間を、いまは《アスペ》とか《アドード》(ADHD)とか蔑称するものらしいですが……。
しかし現在は学問を積んだせいで──それはうそにしても──、こういうものは《パフォーマティヴな言表》なのであると、しっかり理解できています。
《パフォ(…)言表》とは、ようするに、とくに内容のないごあいさつのことです。〈言われること自体が“意味”をなす〉、というタイプのおしゃべりです。
であるので〈いいお天気ですね!〉とでも言われたら、〈そっスねー、アハハ!〉くらいに内容なきレスポンスを返しておけばいい、ということです。現今のお天気の状況について、熟考したりクリティカルに叙述したりする必要性──、それはないのです。
いや、それはあたりまえではあるのですが。しかし、それだけのことを《理解》するのに時間や経験らを要するタイプのヒト属も実在するのです。
ゆえにいま、お天気系ヴェイパーウェイヴの時代です。イェイッ。
ああ、いや。
ひとがほんとうに関心のある話題といえば、いまもむかしも、セックス&マネーに決まっています(断言)。すなわち、フロイトさん&マルクスさんです。
ところが、しかし。《文明社会》でセックス&マネーのことを、むやみと言うのは、無作法とされています。これに並行する現象として、フロ&マル氏らの名前をみだりに口にすれば、たぶんあなたはいいめに遭いません。やばい!
ゆえにいま文明の名のもと、お天気こそが語られるべきです。すなわち、お天気系ヴェイパーウェイヴの時代です。オー、イェイッ。
と、ここまでを見てから、ゴルフさんの最新の名作アルバム『天気ジェネリック』四部作に戻りますと……。
こういうタイプの安いイージーリスニングを、英語ではずばり《ウェザー・ミュージック》と呼ぶようですが。まったくもって、それらの延々と果てしなさです。
また。無意味に目だった点として『天気ジェネリック4』の4曲め、“𝕒𝕟𝕕 𝕟𝕠𝕨 𝕥𝕙𝕖 𝕎𝕖𝕒𝕥𝕙𝕖𝕣”という秀逸なタイトルをもつトラックが、聞いてみれば、あのハービー・ハンコック「カンタループ・アイランド」(1964)をむざんなキッチュにしている感じで、実によくないですが!
しかも。これら全般、わざわざ作ったものであるはずもなく、《サンプリング》ということばさえも恥じるべき、そのへんのてきとうな既成曲らのガッチリ略奪のたれ流しだとしか思えませんが……。
……しかし。心には強く激しくセックス&マネーを想い、いっぽう口ではお天気をホットに語る──。そのような善良めいた市民らである私たちに対し、最適化された音楽(もどき)であるとして、こういうものは盛んにアプリシエートされます。
そうではなくとも、目だたない処理ですが原曲らに対するローファイ化の程度が絶妙で、実に気持ちのいいサウンドになっている──と、技術論(!?)的にも、これはよく賞賛されるでしょう。
そして。いずれこうした音楽や何かしらの浄化作用によって、私たちはセックス&マネーなどのことを忘れ、かつフロイト&マルクス氏らのいまわしい名前なども、忘却の彼方に置くでしょう。
そして《パフォ(…)言表》の盛んな交換によって、このすばらしい文明社会の緊密な連帯を、いっそう強くするでしょう。
そしてきょうも、そしてあすも、お天気のことを語りつづけるでしょう。
[шrαρ-υρ in ԑngłiꙅℏ]
US Golf 95, a legendary Vaporwave artist based in Glasgow, UK. His latest albums 『天気ジェネリック』 (Weather Generic) series are ClimateWave like never before. What's more, a huge series of four works was released at once!
And the content is a wonderful Weather Music with a distinctive shallowness and cheapness. A total of 4 works, 39 songs, about 108 minutes are recorded.
And it's an inconspicuous element, but the lo-fi processing for the original songs is exquisite, and the sound is really pleasant. And it's a good idea to listen to this, and forget about unclean topics such as sex and money, and just think about the weather. And just think about the weather. And just ...