エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

Hong Kong Express: Lucid To It (2021) - ボクハ、ヒトリ…イツモ、ヒトリ…

もはや皆さまもよくご存じの、《HKE/Hong Kong Express/ホンコン・エクスプレス》こと、デヴィッド・ルッソさん……()。

彼はきわめてすぐれたアーティストであり、また、ヴェイパーウェイブから生まれてきた新しいらしきジャンル──《ドリームパンク》の提唱者でもあります()。

それと。彼の主宰してきたレーベルが、こちらもおなじみのドリーム・カタログなのですが()。
何かいろいろあって、もとの幹部の除名的な騒ぎもあったりした末に、現在は《Dream Catalogue EVO》という新レーベルが興されています。今後はそちらが、彼の活動の中心になるのやも知れません()。

そして。

そして、そのドリームパンク、〈ドリ・パンとは何?〉というお話が、あまりにもつきないので──。
いや、それは私のせいばかりでもなく、ご当人のルッソさんが、常にあれこれの話題をまきすぎなのですが──。

ともあれ、現在の私が自分に課したタスク。彼のホンコン・エクスプレスとしての最新アルバムを、ご紹介します。2021年9月・発の、“Lucid To It”。全12曲・約44分を収録しています。
なおタイトル中の英語“Lucid”は、明瞭〔めいりょう〕だとか明晰〔めいせき〕だとか、そのくらいの意味でしょう。かつ、近ごろルッソさんが用いている偽名のひとつでもあります。

で、さっそくサウンドのほうを聞いてみますと、例の陰気なムードはいつもどおりですが。
しかしびっくりなことに、楽曲らのほとんどが唄ものです(!)。

また、それらの中には、ニホン語で唄われている曲がふたつあります。これはニッポンの女性アーティスト、《Eulalie/ユーラリ》さんのボーカルによるもののよう。
いやそれで、必要以上に歌詞の内容がよく分かってしまい──。〈ボクハ ヒトリ……イツモ ヒトリ……〉というその陰気さが、ストレートに伝わってきてしまいます。

ボーカルといえば。おそらくルッソさんによるらしい唄声が、ボーカルというより陰気な呪文や呪詛であるかのようですが、誰かに似ている──少なくともニュアンス的に──と、思ったら。
何とあの、スロッビング・グリッスルジェネシスさんに似てるんですよね!() これは大きなプラスのポイントです!

そして全般、通常のエレクトロ・インダス・ポップに近いような曲構成です。ダークウェイヴ的、とも言えそう。かつ、エレキギターがギャンギャン鳴っているパートなどもあり、それ自体は印象が、あまりよくないですが──。
しかしまあ、へんにテクニカルな演奏だったりはしないので、よしとしましょう。

そして全体的に、プロダクションのレベルの高さが指摘できます。やや保守的な構成だといえばそうなのですが、各楽曲らがよくできており、すきがありません。

〈だとしても、こういう個人的な音楽はどうかな……〉という感想も、まあ、ありはするのですが。かつ娯楽性が低く《表現的》であり、ユーザ側にとって使いやすい音楽ではないようですが。
ともあれ作りの水準の高さから、一般的な採点法で5点中の4は、ゆうに与えられる作品でしょう。ご一聴をおすすめします

ところでここから、問題の〈ドリ・パンとは?〉というお話に、ちょっと触れますと。

いまこの2021年11月、ルッソさんと彼の軍団の方面から、ドリ・パン系のカルチャー雑誌が創刊されました。題して、“EVOLVE Magazine”
ブラウザによる電子版の閲覧は無料ですので、ぜひ皆さまもご覧ください()。とにかくグラフィック面がカッコよくて、私はしびれました!

で、そこに掲載された、ルッソさんの〈ドリームパンク宣言〉のような記事を拝読したところが……。

いつもルッソさんが語るドリ・パン論は、音楽自体の話題には乏しいのが特徴です。それではない、アチチュード的なお話や、〈お気持ちの表明〉か何か。でなければ、私たちのヴェイパーウェイヴの悪口です。
そしてヴェイパーへの悪口が、みょうにもって廻っていたり、逆にストレートすぎたりする──〈みすぼらしくみじめなヴェイパーヲタク!!〉──、そのかげんで、彼のメンタルの状態を推しはかることが可能のように思えます。

どうなんでしょうか、私のこの、《ルッソさんマニア》に他ならぬありさま! 要らないことらを、知りすぎた気もします!

ともあれいまは、ひとつのことを指摘しましょう。
いや、自分がぜんぜん分かっていなくて、われながら呆れているのですが……。マニアとしての献身の不足が、早くも明るみに出ていますが……。

どういうことかというと。
ルッソさん提唱の《ドリームパンク》なるスローガン、その前半の〈ドリーム〉である部分は、いったいどういう意味なのでしょう?……というポイントです。

それを私はついつい、ルッソさんの盟友だった《t e l e p a t h テレパシー能力者》さんが、いつも表明していた感じの厭世観──現実がどうにもならないので夢や空想に生きます、的な──そういうニュアンスかなと、ずっと思っていたのです。
さもなくば。ルッソさんも〈シュルレアル〉ということばをしばしば使っていますので、そういう《無意識》のあらわれみたいなものとしての〈ドリーム〉なのかな、などと。

ところが。このたび見たエヴォルヴ・マガジン誌上の〈ドリ・パン宣言〉によると、そのどちらでもないようなのです。現在は、少なくとも。
それは、夢想や空想のたぐいでもなく、また、眠っているときにみるような夢でもなく……。

すなわち。〈ドリーム・カムズ・トゥルー〉というクリシェで言われるような、あるいは野球マンガの名作『Dreams』(1996-2017, by 七三太朗川三番地)に描かれてもいるような、そういう〈ドリーム〉であるようなのです。ドリ・パンのドリは。
それをむざんに言いかえてしまうと、〈改善への、意思とプラン〉という感じでしょうか?

──しかし。

口先ではそうやって大いに前向きめいたことを言われ、そして私どもヴェイパーヲタクらの持病であるニヒリズムシニシズム──そのあたりを、さかんに〈口撃〉なさいますが。
ですけれど。そのいっぽうでルッソさんによる音楽が──ドリ・パンに転じる以前は別として──、ほとんど常に深くメランコリックであり、かつ孤独とペシミズムを強く匂わせ、こんどのアルバムでもまた〈ボクハ ヒトリ……イツモ ヒトリ……〉、ああっ……! ときているのは、いったいどういうわけなのでしょうか?

──ここらで、ちょっとらんぼうなことを申すようですが。
ミュージシャン諸氏がことばで表明なさることなんか、ほぼ、どうでもいいんですよね。音楽ファンである私としては。

いろいろなことをいくらでも言えますが──私にだって少しは言えるくらいで──しかし。人の心を少しは動かせるレベルの音楽があるとしたら、そちらのほうに何か〈真実〉があるような気が、私はしています。
みすぼらしくもニヒルでシニカルなヴェイパーゴミヲタク野郎にさえも、ちょっとくらいは信じている《もの》がある、というわけです。響きの中に、そのちょっとした真実らがあるだろうと。

[шrαρ-υρ in ԑngłiꙅℏ]
You all know David Russo as an outstanding artist and a proponent of a genre Dreampunk that insists on newness.
In this article, I would like to introduce his latest album as Hong Kong Express, “Lucid To It”. This album was released in September 2021, and contains 12 songs, about 44 mins.

As soon as you listen to the music, you'll hear the same high-level sound and gloomy mood, as usual.
Surprisingly, however, most of the tracks are sung.

There are two songs that are sung in Japanese. They seem to be sung by a female Japanese artist named Eulalie.
This is why, I as a Japapnese could understand the lyrics better than I should have. The gloominess of the lyrics, “Boku wa hitori … Itsu mo hitori … (I'm alone … I'm always alone …)”, came too much straight to me.

Speaking of vocals. The voice that seems to come from Mr. Russo seems to be more of a gloomy incantation or curse than a vocal, but I thought it sounded like someone else - at least in terms of nuance.
Eventually I realized. That voice sounds like that Mr. Genesis from Throbbing Gristle! That's a big plus point!

And in general, structure of the songs is similar to normal Darkwave. It's a bit conservative, but overall, I can point out the high level of production. Each song is well crafted and has no flaws.

Although there is a feeling that “Even so, this kind of personal music is not … or … maybe”. It's also not very entertaining, and “expressive”, so it doesn't seem to be very user-friendly music.
Anyway, due to the high-level of production, I would give this work a 4 out of 5 in the general scoring system. I highly recommend you give it a listen!