ポ  サ  研

─ Post-Truth Sound Lab, Vaporwave / Désir Duplication Répétition ─

VA: 🕊️ [Anti-War Album for Ukraine] (2022) - 戦争をやめてください!

白い鳩の絵文字《🕊️》──これがタイトルとして付された音楽アルバムは、もっか戦禍の中にあるウクライナの平和を願うコンピレーションです。
2022年3月上旬にリリース、全75曲・約6時間を収録した巨大なものです。

その内容はといえば、ヴェイパーウェイヴ/ドリームパンクを中心とし、他にシンセウェイヴやインダストリアルやラップらを含みます。

また特筆できるのは、今アルバムが、およそ8つのレーベルから同時にリリースされていることです。

これはおそらく、このヴェイパー/ドリ・パン界の多くの力を可能な限り結集し、ほぼ総意としてこれを提示する、という姿勢の表明の一環なのでしょう。それらリリース元の一覧は、《NO PROBLEMA》の作品ページの最下段に出ています()。
そして、いずれのレーベルにわたった収益も、すべてウクライナへの人道支援の組織に寄付される──とのことです。

と、今アルバムの概要はそういうことです。以下は私から、少し。

戦争を、してもいいというりくつは、初めからどこにもないとしても。
それにしても現在なされているロシアとウクライナとの戦争は、アンダーグラウンドなポップ音楽に強い関心を持つ私に対し、その有害さをきわめて強く印象づけています。

まずロシアにしてもウクライナにしても、その種類の音楽の重要な産地であるということは、おそらく皆さんもご存じでしょう。
──そして。いま現に戦火に襲われているウクライナの側だけでなく、ロシアの側の《私たち》にさえも戦争の被害がおよんでいます。

というのは。いま現在、戦争をしかけた側であるロシアに対し、西側諸国とそちらに属する機構らが、さまざまな制裁措置を打ち出しています。〈送金の停止〉も、その一環です。
そしてPayPalがロシアとの取り引きを停止したことにより、ロシアのアーティストらは、Bandcamp等々からの正当な収入を受けとることができず、またあるようなお金を使うこともできない……。そのような嘆きの声が挙がっています。

さらにまた。この状況にあって、ロシアとその他諸国とが、インターネットにおいても遮断され分断されつつあるようです。すでに中国がそうなっているように、情報における鉄のカーテン》の復活でしょうか。
そして、この流れが止まらなければ、いずれロシアのアーティストらは──その国民すべてといっしょに──鉄のカーテンの内側に閉じ込められたカナリアとなってしまうのでしょうか。

“すべて”の人を傷つけているだけのこの戦争が、一刻も早く終わってくれることを──少なくともまずその交戦の停止を──強く願ってやみません!

そうしてさいごに、音楽アルバムのお話ですから、そのことを少しだけ。
こういう趣旨のアルバムですから、いいとか悪いとかいう論評も、どうなのか……とは思うのですけれど。

それにしても。この全75曲・約6時間の中で、もっとも私に印象的だったのは──《Empressインターナショナル》さんによる第49曲、約6分間のトラック、“ніколи не здавайся”です()。

このエンプレスさんについては、この場で以前にも少しご紹介しています()。
そしてこの曲のタイトルは、ロシア語で〈ネバー・ギブアップ〉くらいの意味であるようです。

そして何でもないスラッシュウェイヴのようでもありますが()、しかし素材のよさはもちろん、処理がやたらにいいんですよね! 何をしているのか、はっきりは分かりませんけれど、ざらに誰にでもできるようなスラッシュ化ではありません。

と、そうした奥ゆきあるサウンドをもって、この選集の中では少し浮いているくらいの軽さや心地のよさが、ムードとして提示されています。私はこれがいいと思います。

それともうひとつだけ特筆しておきますと、第73曲の、《binary deconstructed》さん()。
このバイ・デコさんに対して私は、ヴェイパーにおける“ピアノの詩人”という敬称を、人知れず捧げています。その、ピアノ要素を含んでいるトラックたちが、いつも特にすばらしい、心にしみ入るのです。

そしてこの詩人によるトラック、“disorientamento spaziale”──タイトルは、イタリア語で〈空間識失調〉くらいの意味のよう──約8分間、お得意のピアノかと思ったら、鳴っているのはハープである感じです、いまよく聞いたら。

しかし、ヴェイパーの霧の濃さの中に遠くから聞こえてくる響きは、ピアノもハープもそんなに変わりがなくて……(?)。立ち込める憂愁の詩的なもやが、方向感覚をこころよく失調させ──そして、平和への想いを伝えているのでしょうか。

ということでこの記事を終えたかったのですが、ほんとうにあとひとつだけ。

この巨大な選集の大づめラストのトラックは、ずばり“Last Word”と題された、6分半の……憂いのこもったチルっぽいヴェイパー(もしくはドリ・パン)です()。
そのサウンドの前景には分かりやすいメロディが鳴っていますが、しかし奥のほうが何かへんでよく分からず、それが音楽に深い興味を与えています。

これの作者が、《Kvtvlv》さんなのですが──。

失礼ですけど、この方についてさっきまで、〈フューチャーファンクっぽいことをしておられだけど、何か中途はんぱ……?〉くらいの印象だったんですよね。
それがここで、とてもいいトラックを提示してくれたことを私は喜んでいます!

[шrαρ-υρ in ԑngłiꙅℏ]
The music album titled "🕊️" ─ a emoji of a white dove ─ is a compilation for Peace in Ukraine, which is in the midst of a war.
Released in early March 2022, it is huge, with 75 songs and about 6 hours of music.

It is mainly Vaporwave/Dreampunk, but also includes synthwave, industrial and rap.

It is worth noting that the album is being released simultaneously on roughly 8 different labels.
Perhaps this is part of a collective effort to bring together as many forces in the Vaporwave/Dreampunk scene as possible and present it as a near consensus.
A list of these releases can be found at the bottom of the NO PROBLEMA page.
And it was said, all proceeds from any of the labels will be donated to humanitarian aid organizations for Ukraine.

Then, let me introduce some tracks from this huge selection that have left the strongest impression on my mind. The 3 songs.

The first is "ніколи не здавайся," the 49th track by Empressインターナショナル (Empress International), which lasts about 6 minutes.
The title of this song seems to mean "Never give up" in Russian.

It sounds like mediocre Slushwave a little, however NO, not only is the material good, but the processing is superb good! I'm not exactly sure what is done, but it's not the kind of slush-ing that just anyone can do.

And with such a deep sound, the mood is presented with a lightness and comfort that floats a little in this selection. I think this is good.

Second, the 73rd piece by binary deconstructed.
I have unofficially given the honorary title of "Poet of the Piano" to him. His tracks that contain the piano elements are always especially wonderful and so impressive.

And his track here, "disorientamento spaziale" ─ the title seems to mean "spatial disorientation" in Italian ─ is about 8 minutes of his signature piano I once thought, but it maybe a harp, now that I listen more closely.

However, in the foggy depths of the Vapor, the distant echoes of the piano and harp are not so different… (?)  The poetic haze of melancholy that hangs in the air makes us lose our sense of direction pleasantly ─ and perhaps conveys a feeling of peace.

And the third, the final track in this massive selection is a 6 and-a-half-minute, melancholic chill Vaporwave (or Dreampunk), just titled "Last Word".
The foreground of the sound is a clear melody, but the back parts are somehow obscure and strange, which adds deep interest to the music.

This was made by Kvtvlv. To tell the truth, excuse me, I ever haven't so outstanding impression of this artist.
And now, I am so pleased that he presented a very nice track here!