ポ  サ  研

─ Post-Truth Sound Lab, Vaporwave / Désir Duplication Répétition ─

V.A.: NOBODY HERE, The Story Of Vaporwave (2020) - そして 反復され 続ける

フラミンゴという鳥が、なぜなのか、ヴェイパーウェイヴ or フューチャーファンクのシンボルとして、扱われます。そして《My Pet Flamingo》を名のっているのは、英ウェールズの実績あるヴェイパー系レーベルです()。

そして2020年6月にそこから出た、“NOBODY HERE: The Story Of Vaporwave”。これはオムニバスのアルバムであり、全25曲・約90分を収録します。
ラシックスタイルを中心に、レイトナイト系やフューチャーファンクなど、ヴェイパーの中でも比較的コンパクトに収まる楽曲らを、バランスよく収録していると言えるでしょう。

……で、このアルバムが、同タイトルの映画のサントラでもある、というお話なのです。
ヴェイパーウェイヴの約10年間の歴史を、証言でつづったドキュメンタリーのようなものとして、企画されたフィルムのようです()。

ただし、その映画はいまだ公開されていない感じです。違うのでしょうか、調べてみて、いかなる形でも公開されていないようなのですが……。
あるいは、これもまた、COVID-19の蔓延などのせいで、いろいろなことが遅れているのでしょうか?

けれども。ここで悪い冗談を言うと──あくまでも冗談ですが──そのようなフィルムは、完成されず公開されないほうが、より面白いような気もします(!)。
なぜなら私たちのヴェイパーウェイヴは、“vaporware”──アナウンスされるが完成されることのないソフトである《ヴェイパーウェア》──、それをもじった名称を持つからです。ですから、あれやこれやが形を成すにいたらないまま、ふわり蒸気として消えてしまっても、とくにふしぎはありません。

いや。悪い冗談はともかくとしまして……。
……そもそもこのフィルムは、クラウド・ファンディングで千名を超える有志たちから製作資金を集めているので、〈できませんでした!〉ではすまないでしょう()。ぜひ、遠くない将来の完成と公開されることを望みます。

さてなのですが。

この一連のプロジェクトのタイトルである、“NOBODY HERE”というフレーズに、いやでも私たちは聞き憶えがあるでしょう。
かんたんに〈説明〉してしまいますと、これはヴェイパーウェイヴにとっての重大な、《外傷的》であるフレーズです。

それは、もっとも広く知られた形では、“Chuck Person's Eccojams Vol. 1”(2010)──このアルバムに、暫定的なタイトル“Untitled B4”として、現れています。
そしてそのアルバムが、追って伝説として──ヴェイパーウェイヴのはえある第0号として──その決定的なプロトタイプであるプロダクトとして──、私たちを崇拝させています。

ふだん私はヴェイパーらのもと素材を、あからさまには記述しません。けれども、これについてはあまりにも周知のことなので、書くと。
この……カセットであればB面の4曲めとなる無題のトラックでは、クリス・デ・バー「レディ・イン・レッド」(1986)というソフトロックのヒット曲、そのごく一部がサンプリングされ、かつ強迫的に反復されています()。

誰もいない、ここには── 誰もいない、ここには──
誰もいない、ここには── 誰もいない、ここには──

もともとの唄で言われているのは、〈他には誰もいないのでイイコトしようぜベイビー〉、くらいなことでしょうか。
それがまあ、ごく一部だけを切り出され、かつローファイ化されエコー効果などを付加されたことにより、文意も調性もあいまいとなって……歓びとも苦悩ともつかない表情のオーガズムの継続的なニュアンスをまといながら……。

そうしてこの反復される言明は、《人間の消滅》、またはシミュラークルしかない時代の到来、そんなことを私たちに示唆しているのでしょうか。
そういう《意味》はともかくも、音楽として、きわめて強くインプレッシヴです。事情はともあれ、〈誰もいない〉です、ここには。

そして、その誰もいない世界に、私たちは送り込まれました。

なお。この“Untitled B4”とも呼ばれるトラックは、チャック・パースンさんの『エコジャムズ 第1集』よりも以前の2009年のDVDソフト、“Memory Vague”の一部として、すでに世に出ていたようです。
そちらの作者は、《Oneohtrix Point Never》というご存じの名義になっています()。
そして約30分間の音楽ビデオの、さいごの約2分がこの曲で、“NOBODY HERE”というタイトルがそこでは付与されています。

で、視てみれば、その。
人さまの曲らをかってにローファイ化&ツギハギしただけ、という《エコジャムズ》の方法も実にひどいですが()、かつまたこのビデオも、いかがなものでしょうか。

その映像の素材らは、すべてYouTubeからの拾い物だと、言われていますが。そして、それらから作られた《作品》が、また同じ場にアップロードされていることも、輪廻の因果の永劫回帰か何かでしょうか。

そして、私たちのヴェイパーウェイヴは。
この、チャックさんでありワンオートリックスでもある、ダニエル・ロパティンさん──その狂気めいた洞察を、ありえない奇妙な何かの確信を、そして他のことに還元できないその《外傷的》な印象を、あくなく反復しようとし続けています。

それが外傷的であるがゆえ、それが受け容れがたいものであるがゆえ、それはしつように、《反復》され続けるのです。
かつ。そうして《反復》のなされ続けることがまた外傷的ですが、しかしその苦痛にも近い感覚を《無意識の主体》が、大いに享楽しています。

で、ここから、音楽アルバムとしての“NOBODY HERE: The Story Of Vaporwave”、そこへと話を戻しますと……。

全25曲からなる今アルバムの、冒頭と末尾に、ロパティンさんの“NOBODY HERE”のリミックス・バージョンが収録されています。
そこらを聞いておりますと、ほんとうにいまの私たちには、還元しようのない体験と印象をただ、《反復》し続けるしかできないのだろうか、という気もしてしまいます。

とはいえそうした反復は、なされ続けなければなりません。それが、《享楽》を供給し続けていますから。

かつまた。急にフラットなことを言い出しますが、〈いいとは思うが、“それから10年”という進歩が感じられません〉という印象になりそうなのは、このアルバムがおそらく意図的に、クラシックスタイルおよび真のクラシックであるヴェイパーたちを、集めているせいでしょう。

つまりこのサントラについては、ぜひのご一聴をおすすめします。愉しめます。
そうしてドキュメンタリー映画であるほうの、“NOBODY HERE: The Story Of Vaporwave”。そのぶじの完成と成功をも願いながら、いまは筆をおくでしょう。

[sum-up in ԑngłiꙅℏ]
“NOBODY HERE: The Story Of Vaporwave” released by My Pet Flamingo label in June 2020. This is an omnibus album, which contains a total of 25 songs and about 90 minutes.
It can be said that it has a well-balanced selection of songs that fit relatively compactly among Vapors, such as Late Night Lo-Fi and future funk, with a focus on classical style.

And the story goes that this album is also the soundtrack to the movie of the same title.
It is said that it will be a film designed as a documentary about the 10-year history of Vaporwave.

However, it seems that the movie has not been released yet. When I looked it up, it didn't seem to be published in any way ...
Or is this also delayed due to the spread of COVID-19 and so on?

However. To make a bad joke here ── just a joke! ── I think it would be more interesting if such a film wasn't completed and released.
Because our Vaporwave has a name that is a play on “vaporware” ── software that is announced but never completed. Therefore, it is no wonder that this and that does not make any forms and disappears as fluffy vapor.

No, bad jokes aside! I hope the film will be completed and successful in the near future.

And the phrase “NOBODY HERE”, the title of these projects, must be familiar to us.
To put it simply, this is a serious, traumatic phrase for Vaporwave.

It appears in its most widely known form as a track with the tentative title “Untitled B4” on the album “Chuck Person's Eccojams Vol. 1” (2010).
And that album later make us worship as the legend, as the glorious No. 0 of Vaporwave, the definitive prototype product.

NOBODY HERE ── NOBODY HERE ──

Only a small part of the original song was cut out, and it was Lo-Fied and an echo effect was added, so the meaning and tonality became ambiguous ... And while wearing the continuous nuances of orgasm with an indistinguishable expression of joy or anguish ...

Does this obsessive-compulsive statement suggest to us “the disappearance of human”, or the arrival of an age in which there is only “simulacre”?
Regardless of the meaning, the music is very strong and impressive. Regardless of the circumstances, there is nobody here.

And we were sent into this world nobody here.

And we continue to repeat that traumatic impression because we cannot accept it or understand it. This music album is also considered to be one of the results of such repetition.
And it is also traumatic to continue to be repeated in this way, but the unconscious subject greatly enjoys the feeling like pain. This is entertainment, yeah.

And we enjoy that there is nobody here.

V.A.: NOBODY HERE, The Story Of Vaporwave (2020) - Bandcamp(
NOBODY HERE, The Story Of Vaporwave - nobodyherefilm.com(
Chuck Person's Eccojams Vol. 1 (2010) - archive.org(
Oneohtrix Point Never: Memory Vague, Full DVD (2009) - YouTube