ポ  サ  研

─ Post-Truth Sound Lab, Vaporwave et compagnie, Désir Duplication Répétition ─

XBF3: 1982, -[-_-]-, TV (2019-20) - トランス(trans)からトランス(trance, 没我状態)へ、イケますか

悪役お嬢さまがヴェイパーウェイヴにドハマリして情報ジャンクの底辺テロメアにご降臨してるんですけど。
だがそれもそうとして当家では、まいどおなじみシグナルウェイヴの宣伝コーナーでございます。スゴーイ!

XBF3: 1982 (2020) - Bandcamp
XBF3: 1982 (2020) - Bandcamp
ヴェイパーなのでベープのCMを、という正しさ

さて、もはや皆さまご存じのシグナル系、その別名を、《Broken Transmissions, ブロークン・トランスミッションズ》と言う。むしろこちらのほうが、ゆいしょ正しき呼称であるような気味も。
この場合のトランスミッションは、たぶん「伝達」くらいの意味。というか、一方的な情報の送信。つまり、テレビのCM等がそれ。
それをヴェイパーはブチ壊れたブロークンで再送信するので、もはや「情報の伝達」などという機能は果たされない。代わりにそれは、美学的吟味(笑)の対象になるっぽい感じ。

そして、その苦々しくもあさはかで陶酔的な《(笑)》が、われわれの《Signalwave》なんだよね。言うなれば「トランス(trans)からトランス(trance, 没我状態)へ」、そこまでイケれば大成功だが──。

で、なぜこのブロークンという別名をご紹介したかというと、別にウンチクのごひろうではない。Bandcampでシグナル系を漁ろうっていうとき、タグキーワードが“Broken Transmissions”じゃないと、出てこないものがあるから。
そしてその手段による探求で浮上しちゃったブツが、いまご紹介する《XBF3》によるあれこれなんだ。

このXBF3さんはイタリアのベルガモ在住を自称、2018年あたりから活躍中。その作品らのほとんどはシグナル系めいたものかと思われ、そして既発のアルバム数が、すでに60コをオーバー(!)。
傾向としては1分間に満たないような短い楽曲が多く、よって曲数のわりにはアルバムも短い。にしても60コなんてアレなんで、とりま最新の4〜5作に耳を貸してみたんだ。

まずは“1982”(2020)だが、カバーアート上の「電気蚊取的夏」というフレーズから調べると、写真の中でうつぶしている人は甲原の《卜シちゃん》と考えられる。1985年、《ベープ▽ッ卜》のCMより。
1982と85年では多少のズレがある風だが、どちらにしろ大むかしには違いなく、もうどうでもいい感じ。そして平均で約1分間のトラックが、20コ入りのアルバム。

そして内容はどんなかというとモロに、いにしえニホンのテレビから採取された、ジャンクスカムな音声らの詰め合わせ。まず、もちろんCM、それも聞いたことのないローカルもの多数。または通販番組のアナウンス、番組の宣伝やテーマソング、等々々。
そんなサンプルらを、ほぼそのままタレ流しているのもあれば、けっこう編集しているものもある。後述するが、ツギハギ編集の構成に、一種の目立ったスタイルがある。

で、言っちゃ悪いが、そういうクソカス的な素材らが、あまり《音楽》にまで昇華されている感じが、そう多くはない。正直、「ああ……」って感じの時間帯が少なくない。
《もはや売ってもいない商品らのCM》という実におポンチな形で、商業文明のくだらなさがしらじらと、《廃墟》とも呼べぬ単なる廃屋として、うす汚くさらけ出されている。そのウソのなさ、そこは認められるんだが。

そのいっぽう、XBF3さんの作品には素材がニホン製じゃないものも少なくなく、2019年のアルバム“-[-_-]-”はそれ。欧州のテレビの音声だと思うんだが、何語なのか自分には分からない。
そしてそっちのほうが、珍しさから聞き入ってしまうところがある。どうせ愚にもつかぬシグナルなんだろうな、とは思うんだけど。海外の方にはニホンのテレビの音声が、こんな感じに聞こえているんだろうか。

話を戻し、XBF3さん独特の楽曲構成について──。つまり課題は、もとが15秒ぽっちのCM等から、いかにして約1分のトラックを作るか。

このとき、もとのシグナルが「A-B-C-D」という4パートでできているとして、XBF3さんは、まず「A-B」か「A-B-C」をひたすらに反復して時間を稼ぎ(!?)、そしてさいごにDまでのパートを流して、終わり。そういう構成が、けっこう目立っているんだ。
たとえば“1982”アルバムの12曲め“E-12”は、まず、〈ダンゴ屋の娘にほれ込み通いつめる鬼平の〉、というアナウンスを、たぶん7〜8回ばかり反復。そうしてさいごに、〈……鬼平の息子、辰蔵。「鬼平犯科帳」次回は……〉ウンヌンと、ラストまで予告を流して終わり。

これにイラッとしないではなく、なァにがダンゴ屋の娘だ、どうせダンゴっ鼻に違ェねェ……と、関係ないところに風評被害が発生しがち。いっぽう、その後のトラック“E-18”では、「ザ・ハングマン II」(1982)の番宣をロクに編集もせずタレ流しており、同じことばかりしてるってワケでもないけどさ。

そしてその、いま名づけた鬼平システム》が、いまいましいピークをきわめているのが、2020年のアルバム“TV”の14曲め。これは珍しく、5分オーバーの長いトラックなのだが……。

その曲の冒頭、〈ドゥドゥン、ッカーッ!〉と楽器が鳴る。あまりはっきりとは言わないが、むかしのTV特撮の超名作「ウル卜ラ▽ソ」オープニングのアレ。
だがしかし、続くべきフレーズが鳴らない、聞こえない……。そしてかなり長く思える無音(+針プチ音)のあと、再びさっきのドゥドゥン、カーが聞こえてくる。
このじわじわとした息づまる反復は、やがてフレーズの再生の幅を長くしていく。知っている方はご存じの、〈ドゥドゥン、ッカーッ! キュイ〜ドコドン……〉、という異様にして久遠の憧憬心をかきたてるあのサウンド、そのフルサイズ再生が近づいてくる。

そうしてついには、おなじみのテーマソングが始まるんだが。……しかしわれわれはそこで、「やっとココまで来たね!」と、悦んでいい場合なのか? しかも始まった感じのテーマ曲は、途中をハショってちょっぱやで終わってしまう。
ったくイヤハヤというか実に腹立たしいが、これもまいどの《鬼平システム》の応用にしても、しかしここまでされたら、その構成の非凡さを認めざるをえないのか。腹立たしさは残るがっ!

ああ、それにしてもシグナルウェイヴ、苦々しくも醜悪であさはかで陶酔的な……。その愚劣さのきわまりの彼方の法悦を求めて、われわれの探求は果てしなく続くのだろうか。

赤い薔薇の花ことばは、「美」「情熱」そして「愛」…

──以下、本文からハミ出したお話など。

XBF3さんの地元であるらしい、ベルガモ市。そこからの連想で「音楽祭」ということばが脳裡に浮かんだが、調べたら《ベルガモ音楽祭》はオペラの大会。その街は、あの偉大なオペラ作曲家ガエターノ・ドニゼッティの生誕&終焉の地なのだ。
それはいいけどいま現在、イタリア北部では“新型肺炎”の蔓延がひどく、ベルガモもその例外ではない、と伝達されている。どうかドニの街を、病魔がすみやかに立ち去りますように! XBF3さんもぜひご息災で!

それともうひとつ。広大なるネット上でもほとんど評判が聞こえてこないXBF3について、《ABRAcaDABRA》掲載のレビューを参考にいたしましたです()。深く感謝〜!