エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

VA: あなたの天気ガイド/signal collection (2022) - シグナルのウェイヴ気持ちよすぎだろ!

まず、です。この記事のモチーフの、《シグナルウェイヴ》とは?
もっともざっくりな説明では、〈テレビのCMやお天気情報のような放送関係のサウンドらを流用しているヴェイパーウェイヴ、そのサブジャンル名〉、くらいにお考えください()。
一般的に英語で“signal”が、宣伝めいた放送という意味になるようです。

そして、ある日だったか、ある晩のことだったのか……。
歩行しながら路上で私は、何かむずかしいことを考えていたような、そんな気がするのです。──珍しく!

だがそこで、急にiPodが──歩行中の娯しみとして、常にヴェイパー等を鳴らしていますが──とんでもない音を出しはじめました。

その衝撃に、私は思わず、歩みを止めました。もしもっと気の弱い私だった場合には、ひざからかくんと、その場に崩れおちていたかも知れません。
そして、そのとき私の脳裡に去来していたことばが──。

〈シグナルウェイヴしか勝たん!〉

ああ、いやその。まあそういう、あまり頭が、よくない感じのものだったのです。

それでてっきり、この記事のタイトルも、そのフレーズになる予定でした。
……しかし〈もうこの言い方は、古いのかな?〉とも考えたので、〈気持ちよすぎだろ!〉という、やや新しめのミームが採用されています()。

ではありとて。この〈気持ちよすぎだろ!〉の目新しさも、すでに峠をはるかに越えてしまっています。〈ネットのバズりも、せいぜい一週間〉と、マーク・フィッシャーさんによって言われているように。

で、あとで調べてみて、そのショッキングすぎたシグナルが、何であったのかは、分かりました。かの《天気予報》さん──シグナル系ヴェイパーの覇者であると、まあ呼んでよさそうです──による大作気味のアルバム、『現在の地域条件 (Broadcast From Today)』(2021)でした。
その大きめな作品(全43曲・約52分)が、すみからすみまで超絶的にすばらしい、とまでは申しませんが。ともあれ序盤のところが実に力強いので、あとはもうラストまでスムースに、〈気持ちよすぎ!〉が持続しそうです。

……では、さあ! これによっても代表される、どうしようもない、まったくのシグナルウェイヴ。その異様にへんな力強さ、奇妙な説得力、などなどは、いったい何に起因するのでしょうか。
そこいらをいま、少し考えてもみませんか?

──すると、まず。テレビのCMサウンドによって代表される《シグナル》たちは、ある意味でもともと実によくできている、と考えられます。
とくに聞きたいと思っていないものらの耳にさえ、それをねじ込み、何かを強く印象づけるためのパワーが、なければなりません。じっさいあるのです。

しかも大企業らによるCMのサウンドであれば、そこにかけている予算や人力らが、平均的な通常ポップ音楽らとはけた違いです。もしくは、〈でした〉。

……そのまた、いっぽう。そういうゴージャスな一流企業の全国的CMらに混ぜこんで、実にみすぼらしい感じのローカルCMや、またはもう何でもよさそうな調子がいいだけの《お天気音楽》などが、並行しながら放たれています。じっさいのテレビにおいても、また、シグナル系においても。
そのあたりの押し引き、対照、バランス感覚……。それがまた、シグナル系のヴェイパーには、求められるところでしょう。

それと、あるいは重要な論点──。

私たちの誇る資本主義の社会において、まあその《プロ》によって作られたような音楽たちは、その“すべて”が、《商品》です。
ところがCMサウンドに含まれるような音楽たちは、ちょっと《商品》じゃないような気もするのです。私ども、一般の消費者から見た場合に。

たとえばきょくたんなものとしては、宣伝対象のアイテムらの名を連呼しているだけみたいな、あのCMソングたち──。それ自体が《商品》では、ないでしょう? 基本的には!
聞きたくなくても聞かされ、またそれ自体は通常は買えないものですから。

それゆえの奇妙な《特権性》というものが、このシグナルの素材らに、何かあるような気がしています。“すべて”が商品でしかない、この美しいトータルな資本主義の世界の中の、とても奇妙な空虚であり《盲点》として。

では試みに、ここで、少しむちゃなことをも述べておきますと。

ロラン・バルトさんはそのニッポン論の中で、おそれ多くも尊き《皇居》とか何とか呼ばれるスペースを、〈メガロポリス東京のド真ん中に空いた穴〉──みたいに述べられたそうです(『表徴の帝国/L'Empire des signes』1970)。
《皇居》とは、〈空虚〉である、というだじゃれが成りたつところでしょうか。

そして、いま私どもが見ている──しかもそこに在している──資本主義の大カテドラルにおいても……。それを形成する膨大で莫大な商品グッズの集積のド真ん中に、実は意外と商品ではないような“もの”が、チン座しているのでしょうか。

そしてその特権的なふしぎな“もの”の存在が、逆に、この壮大なる牙城の構造を、基礎づけているのでしょうか。

言いかえて。〈これだけは断じて商品ではない、カネで売買されうるものではない〉──と言える“もの”が、何か存在するでしょうか。この、全面的に支配している資本主義のグローバル世界の中に。
もしそれが、私たちの言う《シグナル》でしかないとしたら……っ!?

あ……。だいたい私たちのヴェイパーのサウンド素材らは、通常の意味での《名曲》か何かよりも、〈向こうの側から、かってに耳へと流しこまれる〉、のようなものらが多いのは、ご存じのことでしょう。
まあそれこそ、好きじゃなくともマドンナやマイケル(・ジャクソン)あたり各位のヒット曲らには、いやでも憶えてしまうくらいのパワーやいきおいがありました、かつて20世紀には。
で、そういうものらこそを流用しがちです、ヴェイパーは主に。

そしてそうやって、〈ヒット(を目ざす)曲〉たちが、放送や街頭やもろもろの店頭らあたりで──表面的には無料にて──たれ流されること。そのことには、そのソング自体およびアーティストという商品らの宣伝CMとして、という側面がありそうです。

だとすれば、商業音楽みたいなものらは“すべて”潜在的には《シグナル》なのでしょうか。もはや、ポップ音楽=シグナル、なのでしょうか。
だとすれば、ヴェイパーウェイヴみたいなサウンドらは“すべて”潜在的にはシグナルウェイヴなのでしょうか。

だとすれば、シグナルウェイヴのありえない異様なパワー、ヴェイパーの中のヴェイパーウェイヴみたいな強力すぎる感じにも、説明が少しはつくのでしょうか?
ゆえに、とても頭がよくはない感じですけれど、やっぱり〈シグナルウェイヴしか勝たん!〉なのでしょうか?

📡 📢 🛰️

とまあ、それはそういうことです。

ということで以下、まさかのここからメインの話題ですが……。
〈シグナルのウェイヴ気持ちよすぎ!〉ですから、このニッポンから出ているらしいシグナルウェイヴ、しかも最新2022年・発の、すぐれたコンピレーションらを2作ご紹介したいです。

まずは、《𝐖𝐄𝐀𝐓𝐇𝐄𝐑 𝐅𝐎𝐑𝐄𝐂𝐀𝐒𝐓 𝐓𝐄𝐀𝐌》を名のるお天気屋さん集団による、『あなたの天気ガイド』。'22年1月リリース、全12曲・約33分を収録します()。
フューチャーファンクのプロデューサーとしてすでにブレイクしつつある、《Q-Rabbit》さんがコーディネート()。この方の好みなのかどうなのか、やわらかくやさしいトータルの響きが、印象的です。

……いや。しょせんはシグナルですから、人を喰いまくった放埒な音楽(もどき)、ウィットを愉しむようなものではありますが。
しかしそのサブジャンルの中では、比較的ジェントルで温かみのあるトーン、だと感じられます。〈購買すべし!〉という本来のメッセージの強迫性が、歳月によって色あせたビンテージ感、そのよさが出ている風合いです。

また。このさい便乗でご紹介しますが、ここに2曲を提供している、《②月February》さん。この方のメロウなサウンドが好きなんですよね。
とくにその《Softener》名義によるアンビエントエレクトロニカのアルバム、Calm(2021)。これがとてもいいので、ぜひご一聴お願いします!

そしてお次は、《金聖》とか《mulchprize》とか名のっている人の率いる“Typhoon Records Japan”からの選集、“signal collection”。'22年3月リリース、全24曲・約16分を収録です。

このコンピレーションについては、その成立の過程を、ツイッターで眺めておりまして。〈シグナル作品、30秒以内の長さのトラックを、大募集〜っ!〉という呼びかけが、あった気がします。
ところが、できたアルバムを拝見すると……。その30秒ルールを守っているものも多いのですが、しかし中には40〜50秒の曲もあり。そしてラストのトラックにいたっては、3分間をオーバーです。

ちょっとルーズなんでしょうか!? 私もルーズだから気にしませんけど!
まあラストトラックの3分に関しては、企画のわく外の特別提供品なのかな、とも思えるのですが。

そしてこちらのシグナル大会については、各トラック30秒以内という基本的な企画性のためか、グリッチ的な、カットアップされコンデンスされたもの、という感じのトラックが多いでしょう。スピード感が愉しめます、よいです!

ところで今オムニバスから、ある1曲だけピックアップしますと。

《LaserDisc 雅子》さんは、さきにご紹介の『あなたの天気ガイド』にもまた参加されている、シグナル系ヴェイパーのホープでおわします。
この方によるトラック──ちゃんと30秒のルールが守られた──「ンダビクターセイコーポカリス」、そのインパクトが、私に対してすごかったのです。

何がすごかったかって、このトラックの冒頭です。
ほんの10秒ほど鳴っているCM音楽のメロディが、実によく知っているイージーリスニング──思うに、よき時代の映画のテーマ曲──にはまちがいないが、しかし《何》であるのかを想いだせなくて! そのことが、あまりにも気になって!

それの想いだし努力のスタートしたのが3月ですが、ついにその正体を突きとめたのは、やっと5月のことでした()。

LaserDisc 雅子: ンダビクターセイコーポカリス (2022)
https://typhoonrecordsjapan.bandcamp.com/track/laserdisc
冒頭の異様に親しみある㐅口ディは、何の曲…⁉
ずっと考えてましたが、さっき龴ン卜ヴァー二大全集を聞いていて「夕ラの〒ー龴」だと知りぬ(『風と井に去りぬ』OST 1939, Ӎ・ス夕イ𠂇ー作曲)

いやもう。これと印象の似ている楽曲らがやけに多くって、『南太平洋』のテーマか、あるいは『八十日間世界一周』か……どちらも違う、ああっ!……と、人知れず私の苦悩し煩悶している時期がありました。
そしてそのころは、『ポール・モーリア大全集』みたいなアルバムばかりを聞いていた気もします。そのなぞの楽曲との出遭い(そこね)がそこらにあるか、と期待して!

だがしかし、《なだれ落ちる弦楽/Cascading Strings》──崇敬が果てしなく偉大さをきわめているマントヴァーニさんのおかげで、私の探求は一段落しました()。そしてまた、新たなるサウンド追求の旅へ……!


VA: あなたの天気ガイド/signal collection (2022) - Wave of Signal, would feel too good!

[sum-up in ԑngłiꙅℏ]
Signalwave is a subgenre of Vaporwave, which for some reason has a strange and overwhelming strength, and can even be considered “Vaporwave within vapors”.
Here we introduce two excellent signalwave compilations from Nippon, the latest of which was released in 2022.

First, “あなたの天気ガイド / Your Weather Guide”, by a group of weatherpersons who call themselves 𝐖𝐄𝐀𝐓𝐇𝐄𝐑 𝐅𝐎𝐑𝐄𝐂𝐀𝐒𝐓 𝐓𝐄𝐀𝐌. Released January 2022, contains 12 songs and approximately 33 minutes ().
Coordinated by Q-Rabbit, who is already making a breakthrough as a producer of Futurefunk. The soft and gentle total sound is impressive, perhaps because it is his taste.
......is a Signalwave, after all, so it is a kind of music (-oid) that eats people up and enjoys wit. But within that subgenre, the tone is relatively gentle and warm.

The other is the “signal collection” a selection from Typhoon Records Japan led by someone who named Kinsei or mulchprize. It was released in March 2022, and contains 24 tracks of about 16 minutes in total ().

I have been watching the process of this compilation on Twitter. I think there was a call for “Signalwave works, tracks of 30 seconds or less in length!”
Perhaps because of this 30-second regulation, many of the tracks were glitchy, cut-up, and condensed. The sense of speed is enjoyable!