ポ  サ  研

─ Post-Truth Sound Lab, Vaporwave / Désir Duplication Répétition ─

XBF3: 死 (2020) - やさしき死よ、あこがれに満ちて望まれている《愛の死》よ?

オペラの巨匠ガエターノ・ドニゼッティゆかりの地、イタリア北部ベルガモ。そこで大量のシグナルウェイヴを作り続けているわれらのヴェイパーウェイヴ職人、《XBF3》)。

さてその彼を、今2020年4月の記事で、チョコっとご紹介したんだが()。けど、そこにも書いたように今年春、ベルガモ市をはじめとする北部イタリア一帯は、きわめて深刻なCOVID-19のパンデミックに襲われて。
それで、どうかXBF3つぁんらが無事でありますようにと、オレはヴェイパーの神に祈っていたんだよね。

そうしたら。ヴェイパーの神っているのかいないのか知らないが、しかしこの7月にも新しいアルバムが出ているので、どうやらXBF3氏は生き残ってくれたらしい。メデテー

ただ……。彼の6月発のアルバムのタイトルが、ちょっとギョッとさせてくれる、「死」
かつその収録トラックらの題名も、0〜18のナンバーがついた「死.」

……であるということは、彼が見てきた(かも知れぬ)コロナ蔓延中のベルガモ市の様相と、何か関係あることなのだろうか。
またそのカバーアートの荒廃したショッピングモールは、資本主義の市場の何かの変動により、《死》にいたったものだとして。そのありさまが、いずれオレらの自画像になってしまう、ってワケなんだろうか。

そして。XBF3氏といえば、断章形式のシグナルウェイヴ()作品“だけ”を作る人だと思っていたけれど、しかしこのアルバム「死」のサウンドは、いつもとスタイルが違う。
その前半はややモールソフト的で、後半はレイトナイト・ローファイのふんいきが濃い、と言えそう。まあ、その間を行ったり来たりしてる感じ。

そして素材の曲らはすべて強めにスローダウンされ弛緩させられており、それに応じて各トラックの尺も長め。全19曲・約70分間のアルバム。
いや、〈デスメタルじゃねェんだから「死」なんてタイトルの音楽はゾッとしねェな〉──、と思いながら聞き始めたんだが。けど別に、内容が禍々しいってことはないと、いちおう思える。

そしてその弛緩しきったユルさが、みょうに気持ちいいのだった。彼のおとくいのシグナル系よりも、自分はこっちを気に入った。

そしてその終盤、17曲めの「死 . 16」は、かのクうつ卜クーワによる放射能(1975)から、“ЯаdiοꙆαnd”を極度に遅くしたバージョン。これはイヤでも印象に残るものとして、その次がまた、何らかのスムースジャズに夢のような甘みをつけたトラック。
そこでふんわりと……夢に溶けていくような感じで終わっていればよさそう、と、オレは思うんだけど。しかしじっさいにはラストのもう1曲があって、それが実はよく分からない。

ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」第2幕・第2場 - YouTube

そのラストトラック「死 . 18」のもと曲は、わりとシリアスめのジャズかフュージョンで、ピアノをフィーチャーしたもの。〈音程は変えずにテンポだけ上げる〉という処理がなされているっぽく、するとドラムスのせせこましさが、ちょっとトラップのようにも聞こえている。

これの入っている理由がよく分かんなくて、そもそも遅くした楽曲を18コも連ねたそのあげく、とつぜんラストだけ速くするとか、超イミフだしっ?
その理由はいずれ分かるものなのか、それとも問題の所在そのものが、いずれ忘れられてしまうのか。あるいは、〈夢のような甘さのうちに完〉という終わり方のキレイすぎることを、避けたかったのだろうか……。

やさしき死よ、あこがれに満ちて望まれている 愛の死よ!
お前の腕の中で、お前に浄められ、
原初の神聖さに温められて、
目覚めの苦しみから解放されるのだ!

ワーグナートリスタンとイゾルデ」第2幕・第2場,

……と、そこまでもカッコいいことは別にないんだよね、こちら側には。また、「死」ラストトラックの興ざめな感じが、イゾルデ姫に仕える忠実なメイドさん《ブランゲーネ》の発する警告に相当するもの、という感じも別にしないし。

そんなワケで、あまり割りきれたことは申せない。そもそもワーグナーじゃなくて、ここはドニゼッティからの例を出したかったところだったが。
だがしかし、ともあれXBF3氏の健在が、まずの大きな朗報。ぜひまたこういう、ユルさと甘さを強めた作品をと、ついオレは期待してしまうんだ。

[sum-up in ԑngłiꙅℏ]
XBF3, a vapor wave creator living in Bergamo, is a great expert on Signalwave.
In the spring of 2020, I was concerned about his safety when I heard that his northern part of Italy was hit by a severe COVID-19 pandemic. But with his new album released in July of this month, the XBF3 is probably surviving. I'm happy.
And his June album "死, Death" has a different style than usual. Is it somewhere between Mallsoft and Late Night Lo-Fi? All samples are slowed down, the sweet sound is pleasing to the ear.