エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

Hallmark '87: Landmarks // FORGOTTEN (2017) - ビバ!ラスベガス, 砂漠に屹立する《ファルス》

《Hallmark '87》は、ペンシルバニア在住というヴェイパーウェイヴ・クリエイター()。2017年から活動中のよう。

《DMT Tapes》のような有力レーベル()からのリリースを含め、現在までに5コのアルバムを発表している、このホールマークさん。その作風がある時期から、くっきり変化してるのが興味深い、と思ったんだよね。

まずは初期、2017年リリースのアルバムら3点。これらはおおむね、モールソフトの枠に入るような音楽だと言える()。
その中でも初の作品らしき“Conservation Pieces”には、〈ダン・ベル氏によるYouTube動画、“Dead Mall Series”にインスパイアされた作品〉、との注記つき。その廃墟モール動画シリーズは別の記事でも軽くご紹介したが()、このかいわいでの影響力には大きなものが、けっこうあるっぽい()。

で、それらを追った近作アルバム2コが、ホールマークさんの現在の作風となるんだろうが。これらはほとんど、ダークアンビエントみたいなサウンドだと、自分には思えるんだ。

すなわち2018年の“A T R I U M”から、19年“A C A D E M Y”へと、サウンドのクラさと抽象度が、どんどん増強中。彼の活動初期、力バー・がールズ「シЭう・三ー」(1987)をサンプリングして悦んでいた(?)、あのホールマーク氏はどこへ行ったのだろう。

ただし、デッドテックに囲まれたディストピア的世界を叙景、みたいなホールさんの方向性は何も変わっていない、とも言えるんだよね。
その初期のモール系の時代から、おきらくなムードはそんなに描いていなかった。イージーな素材らを用いても、しかしどこかに不安を漂わせるサウンド、もしくは演出があった。

──それで。

ホールマーク'87さんのまた別の特徴として、自作アルバムらの解説文として、ちょっと散文詩みたいなバックグラウンド・ストーリーを寄せがちだ。読んでみると、まあだいたい7割バラードで3割バロウズ、みたいな断章らである。

……いっつまでたっても準拠の対象は、バラード(J.G.)でありバロウズ(W.S.)であり。ほんっと、オレらもぜんぜっ変わりゃ〜しねェな〜。
とはいえ? 《ニューウェイヴSF》だとか《ポップ文学》だとかいった語らがギャグにもならん死語として死に絶えても、しかしバラード/バロウズらのまとった特異なオーラは、いまだそんなには薄れていない気味。やっぱご本尊らはスゴい、ってことか〜。

ま、それはともかく。
いまの感じでオレがいちばん好きっぽいホールマーク'87作品、“Landmarks // FORGOTTEN”。これがラスベガスをモチーフとしたアルバムであるということは、その自作解説文に目を通すまで、ぜんぜん気がつかなかったことなんだ。
絶え間なくスクラップ&ビルドが繰り返される変化の街、そして《背徳の街》、ベガス。そこを訪れた旅行者が、いまは廃墟と化したランドマーク的建物を発見、思わずVHSビデオカメラで記録──といったストーリーが、今作の背後に設定されているのだった。

だが別にそんなことを知らなくても、じっとり陰気なモールソフト作品として、ふつうに愉しめそうな作品ではある。まず前半は有名ポップソングらの流用が目立ち、そして後半に向かって荒廃のふんいきが濃くなっていく、という構成が巧み。

そしてその陰気さと荒廃の気配が、近作へとかけて、ズズイとエスカレートしつつあるホールマークさんなのだった。
いやもう。デッドテックのディストピアなんて、いまや、本来なら言うのも恥ずかしい紋切り型なんだろうけど。でも目の前にあるんだから、ちょっとは仕方がないっぽい。古いのは確かだが、でもバラード/バロウズらがいまだにスゴい、みたいなもので(!?)。

んで、ホールマーク'87最新作の“A C A D E M Y”のリリースから、すでに1年が経過。そろそろお次が出てきそうな気がしていて、そのさらなる暗さをかってに予想し、すでにジメッとした気分を味わっている──。それが、いまだ明けない2020年の梅雨の中の自分だった。

【補足】 ゲンミツに言うとホールマークさんの既発アルバムは5.5コのようで、《Sunset Inc.》とスプリットの“Restaurant by the Basin”(2018)という作品がある()。
ただしこれ、〈中華風チルアウト〉という共通テーマの企画もので、あまり自分は好きじゃない、と感じたんだよね。スマン。

[sum-up in ԑngłiꙅℏ]
Hallmark '87, Pennsylvania's Vaporwave creator, seems to be active since 2017.
His work in the early days was a Mallsoft with a strong sense of anxiety for some reason. And in recent works, the darkness is rising as if they were dark ambient.
Also interesting is his own commentary that he puts on the albums. They are like prose poems, with a proper mix of J.G.Ballard and W.S.Burroughs.
It's been a year since the release of the latest Hallmark '87 "A C A D E M Y". I anticipate that the new album will be released soon, and how dark the music is, and I'm already enjoying the muddy feeling with the expectation of fun.