ヴェイパーウェイヴの関連で、もっとも親しみやすく聞きやすいサブジャンル──、それがボクらの《モールソフト》(★)。
それは、うちらが毎日のように無意識に愉しんでいるスーパーのBGMたちを、擬態し模造していく趣向だよ。そういう〈無意識のお愉しみを意識化していく〉、というところに、ヴェイパーならではの仕掛けがあるんだ。
だがその方法的な面白みの研究とは別に、その素材でありお手本である《スーパーのBGM》、これのルーツと発展史を探っていく必要もある。たとえばの探索キーワードは《Muzak》、ミューザック(★)。
そんな感じで調べていたら、Archive.orgで見つかってしまったものが、いまご紹介いたします、“Mall Music Muzak: Mall Of 1974”。1974年のショッピングモールを賑わせていたミューザックであるはず、と考えられるだろう。
ところが、じっさい聞いてみると……。
楽曲らはいかにもソレ風のライトミュージックなんだけど(全14トラック・約38分間)、しかしフに落ちないところがある。自然すぎて不自然だ、と思える。
というのは、全曲に深いリバーブとイコライザーの処理がなされており、われわれに親しい《モールソフト》のサウンド、ほとんどそのものなんだ。いくら何でも1974年に、これはないのでは?
そこでよくよく説明文を読み直すと、〈ふんいきを出すためリバーブとEQの処理を施した〉、のような話。大もとの音源は1974年のアナログLPだと言われているが、しかしあまり詳しいデータは出されていない。
サウンド処理の点について、これをポストしたご本人《CURTIS8516》氏の主張を、もう少しちゃんと聞いておこう。
私はこれらを少しリミックスして、アメリカのショッピングモールを閉鎖してその結果を撮影するDan Bellのようなさまざまな人々のおかげで人々が開発した最近のモールの魅力に合わせて決定しました。ほとんどのビデオにはバックグラウンドにモールmuzakが含まれており、EQとリバーブが適用されています。(グーグル翻訳の出力)
ダン・ベルというと1990年代のテクノ・クリエイターかと思ったが、おそらく別の人。そういう名前のユーチューバーが、廃墟化したモールを探索する動画のシリーズをうpしているらしい。
そしてそこに含まれる音楽が、モールソフト風に処理されたものなので、その響きをカーティス氏はマネしてみた。……という流れなのだろうか。
という話なのでダンさんの動画の方をもチェキしてみた、たとえばこれ(☆)。
そのライセンス欄を見てみたら、使用されている楽曲らの中に、《Nmesh》のものがある。
ヌメッシュといえば、けっこう名の通ったヴェイパー・クリエイター。が、モール系のアーティストだという印象は、あまりなかったけれども。
つまり。〈ヴェイパーウェイヴ、それは放棄されたモールに最適化された音楽〉、というオレらのスローガン(Redditのヴェイパー板の標語)……。
そこらをダンさんは意識した上で、廃墟モール動画を制作していそう。そしてその、間接的な影響を、カーティス氏はこうむってしまったのだろうか。
ともあれ。このようにモールというものが廃墟化していく必然性、商業文明のたそがれということを、意識しながらうちらのヴェイパーは、ここまで来たワケだけど。
そして2020年という、いま現在。“新型肺炎”の流行とそれにともなう外出制限やら何やらのせいで、購買意欲にフィーバーする人々によるモールの賑わい──なんてェものは、ほんとうに遠い過去の温かな想い出に、なりつつあるのかな?