この《エコー》を名のるヴェイパーウェイヴ・クリエイター、米フロリダ州ネープルズ在住を自称。Bandcampでのリリース歴をすなおに受けとると、今2020年3月にデビュー、以後わずか1ヶ月の間に5作のアルバムをリリース(☆)。
いや別に、ただ単に多作なだけならどうってことないよね。どういう手抜きもでっち上げも、(いちおうは)許される、というか見すごしにされるヴェイパー界だしね。
がしかし自分がビックリしちゃったのは、そのわずか1ヶ月の間にどんどんよくなったエコーさんの、あまりな進歩の早さ!
まずさいしょの2作までは、「ちょぉっとイモいんでは?」というアレな印象だったんだ。が、その次の3作めに、いきなり大きな飛躍あり。そうして続いた4作め以降は、なんかすでに風格があるみたいな作りにまでなっている、とは?
すごくない? 三日じゃないけど1ヶ月、男子に会わざればカツモク、とはこのことか。いやもちろん、〈Bandcampでのリリース歴をすなおに受けとれば〉の話だが。かつ、ご本人が男子か女子かも知らないけれど!
なお作品らのスタイルもその間に変わっていて、最初期はまあ《エコジャム》風だった。それが3作め以降は、《モールソフト》と《Late Night Lo-Fi》の中間くらい。ヤってる間にエコーさんは、ご自分に最適なスタイルを見つけてしまったのか。
(たったいま出たヴェイパー用語ら、その説明は、この記事のさいごに)
という、おそらくかなり有望な新人であるっぽいエコーさん。安いたばこみたいな芸名だが──いやそれが現在では高いのでイヤだが──、これからも楽しみなんだよね。
そしていまご紹介したいのは、そのアルバム第4作と見なされる“a night in the internet cafe”(今年3月18日・発)。これはつまり、たった独りネカフェのパーティションの中で過ごす夜、その脱力倦怠のフィーリングを快適スムースに表現したレイトナイト・ローファイである、と言ってよさそう。
で、本人による作品解説にいわく、〈社会的孤立の感情を反映するために作られました〉。──というその原文が含んだ〈social isolation〉ということばに、いまは何かグッとくるものがあるんだよね。
てのは。ご存じのように2020年の春である現在、“新型肺炎”というものがワールドワイドに流行中。そしてその感染予防策として、《ソーシャルディスタンス》という珍しいことが提唱されている。
……で、ことによったら今アルバムには、そういう世相をタイムリーに風刺か何かしてみた部分があるのだろうか? いや、それはちょっと考えすぎか。
けれど、どっちにしろオレらのヴェイパーウェイヴなんて、さいしょからその《ソーシャルディスタンス》の側の音楽でありカルチャーである──でしかない──んだよね。
すなわち。“名曲”などという軽いことばでは呼びたくもないジョイ・ディヴィジョンの「アイソレーション」(1980)──、それの果てしない余韻とエコーが高く低く、いまだ《ここ》には響き続けているんだ。
つまり。いや、こんなご時世にこういう皮肉はよくないけれど、しかし。
〈もっとォ近づきィ〜、ふれ合うことのォ、すばらしさァ〜、イエイッ!〉みてェなカヨー曲にひたって生きてこられた方々とオレらとは、どこか何かの鍛え方が違うんだよね……。まあ別にぜんぜんエラくはないけどねっ!
以下、文中にちょっと出たヴェイパー用語(そのサブジャンル名)らの説明。
まずエコジャム(Eccojams)とは、ヴェイパーの原点的なスタイルであり、いにしえのポップやR&Bなどのサンプルらをグッとスローダウン、その結果として生じるデジタル臭いジャギジャギ感を娯しもう、みたいな趣向。
次にモールソフト(Mallsoft)とは、ショッピングセンターのふんいきを音楽と音響で再現しようというヴェイパー。この場ではもう、すっかりおなじみの概念だっ!
さいご、レイトナイト・ローファイ(Late Night Lo-Fi)というものは──。まあたとえばメロウなタッチのR&Bやスムースジャズあたりを眠たぁ〜い感じに加工して、かったるさ半分の深夜の歓楽のムードを作っていくヴェイパー、ではないかと?