エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

丹念に発酵「このヒーラー、めんどくさい」 - ついにオレらが輝けるこの世界

一般的なファンタジーRPGのパーティにぜひとも必要な、回復係──。ジョブ名としては、僧侶、ビショップ、神官、クレリック、プリーステス、白魔道士、といったお方々。
言い方はいろいろあるけれど、なんかイイよね。ぜひともいちど、念入りにいやしていただきたいっスよねえ……。

ではありながら、いまご紹介するまんが作品「このヒーラー、めんどくさい」、これはまったくもって人をいやさない《自称ヒーラー》を描いている異世界コメディなのだった。うゎ、せつねえ〜っ。

──その第1話、駆け出し冒険者のアルヴィンが魔物とのバトルで苦戦中、神官みたいな姿の少女がフと現れる。そして、助けはいかが、みたいなことを言う。
そこでアルヴィンはイヤも応もなく、「じゃ、すぐ回復してくれ」。するとこのカーラという少女、「人にものを頼むなら、まず土下座では?」などと、尋常でない反応を。
「そもそも、私に対する尊敬や賛美の表明が足りないのでは? いやしの女神であり、また天使でもあるこの私に対し」

が、そんなようなことを言うからって、しかし下手に出たならちゃんとイイことをしてくれるのだろうか。いやいや、実はそういう感じがあまりしない。
その治癒魔法か何かの実力は、いまだ未知数……というか大きな疑問符がつく。そういうことよりカーラちゃんの得意ワザは、「そもそもあなたに実力がないのでダメージを負ったんでしょう?」などとアルヴィンを、インギン無礼に正論まじりでコキ下ろし愚弄してさしあげること(!)。

……と、そんなことをずっと描いているこのまんが。そのドタバタとめんどくささ、それらの表面下に、何かオレらの心にツンと刺さるものがある、そんな気がしてしまうんだ。
あるいは、こうか──。意識と無意識でわれわれが、《いやし》と《いやし手》らに対し、幻想でしかない大きな期待を抱きすぎている、そして今作はそこらをキツくエグってきている、みたいなことか。

そういうたぐいの《ご都合》への過大な期待といえば、「異世界何とか」というジャンルの全般が、それにまみれているようにも思える。いや、とにかくも《ファンタジー》であるとすれば、その内容が幻想だらけでも責められまい、とはいえ。

そういえばウケたのは、今作を掲載している《コミックウォーカー》サイトの「異世界何とか」特設コーナー、そのキャッチフレーズが振るってたんだ。

〈君が輝ける世界がここにある!! 異世界コミック大集結〉

なにっ。つまり来世か異世界に期待しくされ、オマエラがこの世で輝くことはあきらめれ、というご提案なの? せつねえ〜ッ!!

で、そちらの側の、チートパワーの勇者が異世界でムヤミに無双するご都合的なお話らに対抗し……。オレらが見ている「このヒーラー、めんどくさい」は、ちょっと違うことを(ひそやかに)語りかけている。《ご都合》に期待するより自分をまず高めよ、さもなくば身の丈に合ったことに専念せよ、くらいな。

いや、そんなふうに言い換えてしまったら、何かお説教みたいでブスイだよね。口がクソ悪くて役には立たないが、しかし美少女ではあるみたいなカーラちゃん&へっぽこアルヴィン、この迷コンビが、これからどういう《冒険》を見せてくれちゃうのか、そこらに期待!