エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

P U D E R P O L L I: リハビリの美しい日々 (2018) - 目ざめがないかも知れない眠りに向けて

ドレスデンの人であるというヴェイパーウェイヴ・クリエイター、《P U D E R P O L L I》。2016年に初アルバムをリリース、以後とくに18〜19年の制作の多量ぶりが目立っている()。
かつ、多少名の知れたレーベルからのリリースも少なくないので、それなりに注目されているクリエイターではありそう。

なお、このプーダーポリ(?)さんの名前は、《PUDERPOLLI》とすき間ナシに表記されることもあり、どちらが正規なのかは不明。
調べたら、Discogs的には間を空けるほうをメインと見ている感じなので、何となくそれに従っておくよ()。

そして、このプーダーポリというバンド名の意味──そもそも何語なのか、それもまったく分からない。どこかヨーロッパの地名かと思っていたが、そうでもないっぽい。

さてこのプーダーさん、その本名はゼバスティアン・シュテリック。もともと《Scherbe》という名前で、2010年くらいからIDMっぽいトラックを作っていた人のよう()。
そちらもちょっとだけ聞いてみたが、IDMってそんなに分からないにしても、かなりヘンなものという印象。たぶん、ヴェイパーのほうが向いてる!

そしてプーダーポリとしてのスタイルは、2018年くらいには固まっている感じ。その方法や感触はスラッシュウェイヴにやや近く()、何か既成の楽曲をスローダウンしてループさせ、そして音質をヌルく、かつ眠たぁ〜くしている。
ニホン語の唄もけっこう素材になっていて、その点もスラッシュ風だ。しかし楽曲らの仕上がりが、せいぜい80秒〜3分強と短いのが、正統派のスラッシュと異なるところ。

また、ちょっと技術的な点を見ると、プーダーさんがその楽曲を甘ぁ〜く仕上げているリバーブ処理には、〈濃いけど短め〉という特徴があるみたいだ。
いっぽう、2015年あたりのテレパシー能力者さんの、古典的で典型的なスラッシュウェイヴでは、〈濃くて長ぁ〜い〉リバーブ処理がドロ〜リとカマされていたもので。そのあたりも、ちょっと違うなと。

なお、プーダーさん本人が考えた自作らのジャンルは、《Vaporsleep》。確かに眠たさがきわまっていて、大いにナットクさせられる。その眠さがいい──と、自分は思っているし。

とまあ、方法としてはそんな感じだけど。

いっぽう印象としてはプーダーさんの音楽は、ほとんどのことを諦めきってしまったあとの空虚な明るさ、何かそういうムードをかもし出しているのでは。
恐ろしいことを言うと、そこにターミナルケアのための音楽〉みたいなラベルを貼ることも不可能ではない風な。

みょうに人々がアナタやオレに“やさしい”と思ったら、余命わずかと知れていたせいだった──。まるでそんな風の、うつろなやさしみと、やんわりウツな気分とのグラデーションが描かれる。2018年のアルバム『リハビリの美しい日々』に、いちばんそういうふんいきが濃い。これは傑作だと思う。

そしてもっかの最新アルバム『効率的な休息のための家』(2020)にしても、基調トーンはそれに近い。「リハビリ」ほどのメロディの甘みはなくて、やや渋いサウンドだけど。
その〈効率的な休息〉とやらが、うっかり永遠の休息にならないための用心の必要性。そんなものを感じさせられながら、いつしか意識が音楽の中に溶けていく──イキそうな気が、してしまうのだった。

赤い薔薇の花ことばは、「美」「情熱」そして「愛」…

【補足】 上の文中で、プーダーポリの作風と一般のスラッシュウェイヴ、それらの違いをちょっと強調しちゃったが……。
しかしあれこれ聞き込んでいったら、彼の2019年のアルバム「あなたは違う」「無限の中であなたと」、この2作は典型的なスラッシュなんだよね。曲らが長くて。
けど、それらを自分は、そんなにいいとは感じない。プーダーさん特有の断章形式のほうが、ユニークでいいと思うんだよね。

[sum-up in ԑngłiꙅℏ]
Vaporwave creator P U D E R P O L L I, reportedly from Dresden, Germany, has a style that's somewhat similar to Slushwave, where he slows down and loops some pre-existing material and then makes it sound slippery and sleepy.
The only difference between them and Slush is that the performance time is relatively short, 80 seconds to 3 minutes at the most. And the way of reverb processing is different. Mr. PUDER's reverb is dense but short. I think Slush has dense and long reverb.

And it's my impression that Mr. PUDER's music gives off a mood of vacant brightness after having given up almost everything.
To put it bluntly, it's not impossible to label it as “music for terminal care”.

If people are being nice to you and me, it's because we don't have much time left to live... The album 『リハビリの美しい日々』 (Beautiful Days of Rehabilitation) from 2018 is the most full of such sentiment. This is a masterpiece.