ポ  サ  研

─ Post-Truth Sound Lab, Vaporwave / Désir Duplication Répétition ─

CREME RINSE すすぎとリピート: BACKROOMS (2020) - ビューロクラシーの煉獄から?

《CREME RINSE すすぎとリピート》さんは、カナダを拠点に活動しているヴェイパーウェイヴのアーティストです()。
私が尊敬している《キッド・マニア》さんと同じグループに属し、連帯し協力しあっているようです()。

そして“BACKROOMS”は、クリーム・リンスさんの2020年のアルバム。全9曲・約29分を収録しています。
これは何か、不気味なふんいきと薄っぺらな陽気さとの交錯をコラージュ的に盛り上げている、ヴェイパーの音響ポエム的な作品とも言えそう。

……ところで。サウンド内に英語のナレーションの要素が多いのは、クリームさんとキッドさん、おふたりに共通の特徴です。そしてそれらの内容が、私にはあまり聞きとれません。
ゆえに、何か彼らの作品らの真価を見定めてきれていない気がしますけれど。まあそれはそれで……!

さて。今作のタイトル『バックルームス』ということばから──そしてそのアルバムアートから──、《何か》を気づいた方もおられるでしょうけれど。
今アルバムは、この2022年あたりから広く知られるネット怪談(Creepypasta)である、《ザ・バックルームス》を題材としたものです()。

ネット怪談《ザ・バックルームス》の発祥は、2019年5月、英語の匿名フォーラムである4chanにて──、ということが明らかのようです。
もとはといえば、黄色い壁に囲まれた空間の写真だけしかなかったところに、ストーリーの尾ひれがついて、どんどん肥大化していったもよう。

こうしたものも、また《美学 Aesthetics》……21世紀のネット美学の一部分であるでしょう()。

そしていまなお、多くの人々がそこへ要素らを加え続けているので、こういうものだと断言はしにくいのですが……。
ともあれ、関係するほとんどの人々が認めているお話の前提は、次のようです。

注意を怠り、間違った場所で現実を切り抜けると、The Backroomsに行き着きます。
ここでは、古い湿ったカーペットの臭い、単黄色の狂気、蛍光灯の無限のバックグラウンドノイズに他なりません。
最大の騒ぎで、約6億平方マイルのランダムにセグメント化された空の部屋が閉じ込められます。
近くで何かがさまよっているのを聞いたら、神はあなたを救ってくださいます。地獄があなたの言うことを聞いたのは確かだからです。
Backrooms Wiki - Fandom(

黄色い壁に囲まれた部屋たちの無限のつらなり、その中へ閉じ込められ。しかもそこには、モンスターの類が徘徊していて、不幸なものを襲うようなのです! しかも、こちらの世界にそこから生還した人は絶無のようだとか……。

Backrooms Wiki - Fandom
この一片のイメージから、《ザ・バック
ルームス》のすべてが始まりました

……ああ、しかし。そんなところへ迷い込んでしまうほどの〈不注意〉とは、いったいどういうものなのでしょう?
具体的にはそれが分かりませんけれど、しかしこういうお話にリアリティを感じている人が、全世界に多いようなのです。

ちょっと私の解釈を言うと、こういうことでしょうか。

私たちの悪夢である黄色い部屋たちは、〈オフィスのフロア〉とも呼ばれることがあるようです。
とすれば……《資本主義リアリズム》の破綻の方向のひとつであるビューロクラシーの大迷宮──まずはビッグな成功へのプロセスから脱落した《私たち》が墜ちていく出口のない煉獄──、それの無意識の象徴的イメージなのでしょうか?

などとも感じたりしますが、あまりそれは強く主張せず。
そしてそれからの、バックルームス発展の時系列を、追ってみますと……。

まず2020年、インディ系スタジオの《Pie on a Plate》が、このバックルームスをビデオゲーム化。それは、なかなかの高い評価を得ているようです()。

さらに。つい先日の2022年1月、ケイン・パースンズさんによる短編ネット映画──“The Backrooms (Found Footage)”YouTubeで公開され、それが爆発的なバズりを記録しました。
これがあってこそ私なども、このバックルームス物語を知りました。
いま調べてみるとこの動画は、約1.9千万回ビュー・約116万のライク・約5.5万のコメントらを獲得という、実にとほうもない成功を果たしています。

追ってケインさんのプロダクションは、シリーズの続編的な短編ムービーらを継続的に発表しつつあり、それまた多くの視聴者を得ているようです()。

かつ、これら一連は1990年代の記録映像という設定です。それでことさらにVHSビデオめいた画像の荒れや、それらを映すCRT(ブラウン管)などを強調しています。
そういった点らがまた、私たちヴェイパー等の《美学》に通じ、興味が深いです。

伝えによるとケイン・パースンズさんは、現在まだ16歳の少年であるそうです。そんな21世紀生まれの未成年者が、どうしてVHS的なものにひかれたりするのでしょう……?
いや実は、こちらサイドのヴェイパーの世界──レトロなテイストなどと言えばまだしもだが、むしろ異様なまでの過去アイテムらへの執着が目だつ──にも、そのくらいの若い世代の台頭があるのです。いずれ詳報できるでしょう。

このケインさんの成功は、集合的物語群である《ザ・バックルームス》の、新たなチャプター開幕のきっかけになるのかも知れません。
たとえばそれが、フルスケールの映画化にでも発展していくような。

ですが、まあ……。そこへまで行く過程で通俗化されて、何かヒーローめいた人物がモンスターらを勇ましく退治しつつ、恐怖のバックルームスから栄光の脱出に大成功、ついでにそこへ居合わせたヒロインのハートをもゲット──、みたいな凡俗なお話になってしまいそうな心配もありますが!

そんなお話にしてしまった場合には単なる、テセウスによるクレタ島の迷宮クエスト神話の焼き直しです。
あれにしてもまた、同じく、私たちの《無意識》に何かを訴えかけているお話ではありますが……。
ですけれど現在のバックルームスは、《資本主義リアリズム》世界の現在をバックグラウンドにしたお話として、違う質のものを訴えていると思うんですよね。言ってしまえば、どうしようもなさ、を。

──とまでを見てから、クリーム・リンスさんのアルバム“BACKROOMS”、その話題へと立ちかえれば。

これが2020年に出ていることは、〈早いな!〉と、私を感心させています。《ネット美学》に関連するようなことへの喰いつきは早い、さすがは私たちのヴェイパーウェイヴ勢である──、と。

そして楽曲らのタイトルを見ていけば、それがバックルームスの伝承たちを、なかなか忠実に取りあげていることも分かります。
すなわち、蛍光灯らがハムノイズを放ちながら冷たく光り、この迷宮にはいくつかの《レベル》らが存在し、そしてモンスターである《スマイラー》が不幸なものを襲う、などなど。

ですけれどいっぽう、このアルバムが、惜しくもあまり大きな評判にはなっていないようだ、というさびしみもあります。
まあ少なくとも、ケイン・パースンズさんの歴史的な大成功を横目に見てしまったあとにおいては、そういう感じがなくありません。

いや──実は、私においても、今アルバムの第一印象は、さほどよくありませんでした(!)。多様なソースらのコラージュである、そのつぎはぎの飛躍が目だつかも……などと、感じたりしていました。
また、どういうわけか、₳88₳「踊る女王」、それに8eatlesの何かみたいな曲らがちらちらと聞こえていますが、〈なぜだろうな?〉と。

しかし、この駄文をひねり出すために約5〜6回も通しで聞いているうち、〈これは、いいんじゃないだろうか?〉と、感じが変わってきました。
ありもしないところにふと文脈が発生してしまう、それだけのクオリティとポテンシャルが存在したのでしょう。

[шrαρ-υρ in ԑngłiꙅℏ]
CREME RINSE すすぎとリピート is a vaporwave artist based in Canada.
He belong to the same group as KID MANIA, whom I respect. And they seem to collaborate with each other in solidarity.

By the way, one of their common characteristics is that there are many elements of English narration in their sound. And I can't understand those speeches very well.
Because of this problem, I may not be able to judge the true value of their works. This is a review under those conditions.

And "BACKROOMS" is a 2020 album by CREME RINSE. It contains 9 songs, about 29 minutes in total.
This is something of a Vaporwave sonic poem-like work, a collage of eerie moods and shallow joviality.

And this is a work based on "The Backrooms", an Internet ghost story, or Creepypasta. Looking at the titles of the tracks, you can see that they follow the stories being told to a certain extent: the fluorescent lights glow cold with a hum, there are several "levels" in this endless labyrinth, and the monster "Smiler" attacks the unfortunate ones, and so on.

This was published in 2020, and now, in 2022, we are looking at the great success of a short internet film by Kane Parsons - "The Backrooms (Found Footage)".
Will it make the legend of The Backrooms an even bigger story? I hope it will bring this album back into the limelight.