カナダのオンタリオ州在住を主張するヴェイパーウェイヴ・クリエイター、《キッドマニア》。確認される限り、2018年から活動中(☆)。
この人が現在どうなのかというと、何かイキオイありげだし、かつそのアチチュードに共感できるようなところもある。それでちょっと、ご紹介に及んでみたいんだよね。
では、このキッドマニアさんについて、自分の知ったところを手短に列挙してみると。
まずこの人は、ヴェイパーウェイヴのクリエイターである。自分の作品らにそのタグを打っているし、またそれらの一部を、BOGUS(☆)やサンセットグリッド(☆)ら、有力なヴェイパーレーベルからリリースしているので確か。
そして──あるいは、しかし──。
そしてキッド氏は、知られる“すべて”のヴェイパー的な手法や技法らを駆使することができる。《エコジャム》っぽいサンプル操作全般、《シグナル》の流用、野外録音、サウンドコラージュ、ドローン、等々々。
初期の作には、《スラッシュウェイヴ》もあった。やってないのは、シンセのピコピコ系と、ディスコ調くらいか。
単に手クダが豊富なだけでなく、何をやってもカッコがついている、緊密でユルさを感じさせない。作品の量がすごく多いのに、すごい。
そうではあるんだが、しかしキッドさんの作品らには、ちょっとオレが思うようなヴェイパーっぽさが欠けている。あまりにもシリアスで、ネタっぽさやわざとらしい安易さ、つまり悪ふざけ感がないからだろうか?
キッドさんの一連の作品らに共通しているモチーフは、テロと戦争、世界各地に横行する不正と暴力、そしてその帰結である死と悲惨、くらいに言えそう。
とくに目立っている題材は、ガイアナ人民寺院の集団自殺、ルワンダ虐殺、イラク戦争、といったもの。これでは態度が、シリアス以外になりようがない、だろうけれど。
それこれでキッドさんの音楽は、ヴェイパーであるより、インダスやダークアンビエントに聞こえるところがある。
だがしかし、そんなには《ノイズ》っぽくないし、またアンビエントとしては機能しない。かつ手法らのこともあわせ、やはり全体としてはヴェイパーウェイヴだと言える。
彼の作品らのほとんどについて、英語のトークがものすごく多い。コラージュめいたもの、キッド氏自身が語っているらしいもの、とにかく大量。そしてそれらの意味がロクに分からないので、たぶん作品ら自体の意味を、自分はそんなに分かっていない系。
先行した《ハードヴェイパー》と、キッドさん。その間に、志向やアチチュードの共通性が感じられるような気もする。
しかしキッドさんの音楽は、ハードヴェイパーではない。なぜなら、ガバーハウス(ハードコアテクノ)のスタイルの流用をしていないから。「ダンス音楽風にはしない」、という彼のルールがありそう。
ちなみに一連のアルバムの、カバーデザインもキッドさん本人による。そのほとんどが赤と黒のコントラストを活かしたもので、バーバラ・クルーガーばりのセンス(?)。まあ、《ここ》も同じなんだけど!
──と、まあ、そんなようなことで。
意味のある創作であり、総じてかなり質が高いとは思うんだけど、しかし、聞くことの愉しみに乏しい。そういう判断に自分はなってしまう、キッドさんの作品群について。
かつ、これは自分の私見だが。
ヴェイパーウェイヴなんてェ音楽(もどき)は、とりあえずバカっぽいことをやって人を愉しませ、しかしよく聞いたら「あっ?」という何かの気づきへと誘導されたりしなくもない、そんくらいの行き方がいいんじゃないかな〜? とも。
なお、以下はついでの話。このキッドマニアと協力関係にあるヴェイパー者たちがいて、それは、《DOCTOR ELLIS》(☆)と《CREME RINSE すすぎとリピート》(☆)。
洩れ出ている情報らによると、彼らはオンタリオ近辺でひとつの《シーン》を作っているらしい。で、そのエリス&リンスさんらのサウンドも、試しに聞いてみたが。
それが何と、このご両人のスタイルやコンセプトはキッドさんに激似、もしくはほとんど変わらない。ただ違うのは、キッドさんほどの緊密さやテンションの高さが、ない。
そしてそれゆえ逆に、ご本尊の音よりも相対的に聞きやすい、ユルくて愉しみがある(!)、という印象を、オレは受けたりもしたんだよね。と、そういう聞き手もいなくはない、ていどの話だが……。