ヴェイパ? ──さて、いま現在の全世界の話題・問題・課題といえば、“新型肺炎”もしくはCOVID-19、だと思うんだけど。
そしてこの災厄へのリアクションと見られる作品らが、ヴェイパーウェイヴの世界からも、ポツポツと出てきている。もともとある意味ジャーナリスティックな音楽ジャンルなので──たとえばパンクロックらと同様に──、これはとうぜんあるべき。
で、どういうところからご紹介しようかな、と考えてたんだよね。
と、そこへ。自分にとっては最初で最大のヴェイパーヒーローである《haircuts for men》、このお方が「コロナ・ミックス 2020」というものを公開してくださいましたんで、これにはもう喰いつくことしかできない。
約45分間のミックスが、AB面相当で2曲入りの徳用アルバム。このリリースにつき、ありがたくもかしこくも、ヘアカッツ氏は、かくおおせである。
〈家にいるオマエラの慰安のため、お気に入りの過去曲らと未公開のお宝トラックらを、ザザッとミックスしてやったぜェ。愉しめ!〉
はいっ。
……とだけ言ってオレが愉しんで記事が終わっても何ンなんで、ちょっとこの英雄、ヘアカッツ・フォー・メンについておさらいを。
本名が《Andre Maximillion》、ホノルル在住と伝えられる、2012年から活動中のヴェイパーウェイヴ・クリエイター(☆)。作風はヴェイパーホップ。
既報のように、この人の活動歴には、2018年11月に大きなつまづきがあった(★)。それで一時は、そのほとんどの作品らがBandcampから消失。しかし現在は、Archive.orgあたりにもコッソリとアレし、ほぼ“すべて”が復活しているはず(☆)。
自分にとってのファースト・ヴェイパーとなったヘア氏の「パステル勾配」(2015)、想うだけでも心がほんのり温まる名作、それなんかもBandcampには現在ないんだが。しかし、ちょっとそっちに、ね。
さてこのヘア氏の作品系列について、何がよいのかをあらためて考えると、まずテンポがよい。楽曲に対して最適なテンポの設定、この重要きわまるポイントで常に大成功しているんだ、イエイッ。
それがどういうテンポなのかは、たとえば、このたびのコロナミックスを聞いてもお分かりのはず。
というヘアカッツ式のテンポ魔術、それが確立されたのは、だいたい2015年からのこと。2014年の作品までは、そこかしこが安定していなかった。
しかもヘアカッツさんは──そっと小声で言うんだが──、ほとんどの場合、〈他者の作品らに対して最適なテンポを再設定している〉のだ。
《whosampled.com》というサイトで音楽海賊たちの所業蛮行らがバクロされており、われらのヘア氏もリストアップされているんだが。それが、いや、もう実に……(☆)。
……いやもう実に正しく、他者の作品らのテンポと構成と音質面らが推敲され添削され、そして、ラウンジ感覚のコンフォータブルなヴェイパーホップへと、みごとな再生へ!
これをヘアカッツ氏の《魔術》と、自分は呼んでいる。
ただしこのすばらしい魔術、それを邪悪な黒魔術だと見る人もいるっぽい。だからこそ、2018年の受難劇、つまりは《魔女狩り》みたいなイベントが生じてしまった。
再生(ルネサンス)という光さす営みに、なぜなのか魔女狩りのような闇がつきまとう。これは人類史の常か何かで、〈悔しいだろうが仕方がない〉ことなのか?
いやまあワシらのヴェイパーウェイヴが、じっさいに邪悪でヒワイな《陰》のものであることも否定はでけんけどなブヘヘヘヘ。とはいえ人が死ぬほどの悪でもなさそうなので、なるべく放置をキメといて、とオレは願ってやまないんだよね。