エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

ECCO UNLIMITED: LIQUID NITROGEN (2012) - オレたちは《神話》を造る

ECCO UNLIMITED》は、ヴェイパーウェイヴ草創期からの重要クリエイターである《Internet Club》、本名ロビン・バーネット氏の別名義()。
このエコ・アンリミテッドというバンド名では、2コのアルバムが発表されている。そして“LIQUID NITROGEN”は、その2作のうちのひとつ。

そしてこれは、同じ作者の『▣世界から解放され▣』に並ぶ()、ヴェイパーノイズの代表的傑作なのではと、自分は思う()。

という風に説明くさいことを述べてみたけど、ようは自分が好きなんだよね。このアルバム『液体窒素』を。
そんなワケで、これをまたフとiPodに詰めて路上で聞いてたところ、〈ぅゎぁ、やっぱヤバくね? ブチ上がるし!〉という感想になったんで、これを記事にしたい。

と思ったら、前にも何か書いていたので()、それをチョコっと直して再掲──。

まあ、とにかくすごいノイズ。遠い感じはするけれど単純にリバーブをかけてるとかじゃない、またアナログ風でもない、何かふしぎな劣化プロセスを経た、ゴベェー、グワァー、ブィーン、のようなノイズの大渦。
そしてそれらにあわせ、ドローンみたいな響きが重なり、混じり合い、しかもその全体がときどきデジタル的にブツ切れる。

このアルバムは約15分の曲が2コ入りだが、たぶんC30テープの裏表に収まることが意識された構成。
そのA面では8分音符が3つ単位で反復されるベース音が、B面ではチップチューン風の「テレレレレ…」という装飾的な音列が、それぞれ耳に残る。また、A面はリズミカルで躍動的、B面は何か瞑想的、というふんいきの対照が意識されている感じもある。

で、この“LIQUID NITROGEN”は、きわめてきびしいノイズのかたまりでありながら、しかしなぜか全体の響きがひじょうに音楽的であり、しかも《ポップ》なのだった。
何か根本のところにふしぎな明るさとキレた感覚があり、インダスのノイズとはまったく違う。ヴェイパーでなければ、この音楽はできない。

また、〈ノイズだがふしぎにポップ〉というタスクの達成度ではスロッビング・グリッスルの偉業らにさえおよぶものがありそう。しかし、こっちのエコ・アンリミテッドはいっそうドライな態度で放り出されたしろもので、まさに21世紀の新しいサウンドになっている。

INTERNET CLUB: EXPLORE 2 (2020) - Bandcamp
INTERNET CLUB: EXPLORE 2 (2020) - Bandcamp
↑インタネさんの最新作、M7がヘンでいい!

──再掲、終わり。うん、2年も前の自分が、けっこういいことを述べていた。

それにしても、この『液体窒素』は……っ?

以前のレビューにも書いたんだが、このアルバムには、ロボットが戦争するビデオゲームのサントラ(の、なれの果て)みたいなふんいきがある。
そしてその戦争とは、『マハーバーラタ』や『エッダ』あたりが伝えているような、この現にある世界の秩序のもとになった神話的闘争なのだろうか──、という気がフと、してこなくもないのさ。

そしてその《世界の秩序》とは、オレらが何げにネットを見たり、ヴェイパーとかを聞いたり、そしてSNSとかに何かをカキコしたりしてるような──。そんな日常秩序の始源に、そんな激烈な神話的闘争が、あったような気がせんでもない。

今日、子供たちの環境にあふれている情報の量は驚異的なものである。(……)今日、一人一人の子供がデータ処理を迫られているその量は、いかなる人間の標準からいっても大きすぎるのである。
ではどうするか。子供たちは近道を見つける。子供たちは現実というものを構造的につかむことにおいて神話的〔ミシック〕となる。データを分類する代わりに、神話をつくるのである

マーシャル・マクルーハン他『マクルーハン理論』(p.140, 2003, 平凡社

これはオレらのマクルーさんが、ジャック・エラール著『プロパガンダ』という書の内容として、ご紹介されていた一節。原著の刊行は1960年。
しかしいま調べたところ、名ざされた著者エラール氏にしろその著書にしろ、ぜんっぜん消息や詳細らが不明なんだ。

古代ギリシア等の喪われた著作物で、〈他の著作への引用により、断片のみ伝わる〉というものが、かなり多くあるようだが。それが意外と古代だけじゃなく、20世紀にもっ!?
そうしてこのエラール『プロパガンダ』自体がいまは、神話的テクストと想定される以外にない。

もしも《神話》がなかったら、膨大なデータらが乱れ飛んでは埋もれ朽ちていく場であるこの世界に、《意味》を見出すことができない。だからオレらは日々のタスクとして、あれこれの《神話》を再構成しつづけている。

[sum-up in ԑngłiꙅℏ]
ECCO UNLIMITED is another name for Robin Burnett, the real name of Internet Club, an important creator from the early days of Vaporwave. Two albums have been released under the name Eco Unlimited.
And “LIQUID NITROGEN” is one of the two works. I think it is a representative masterpiece of Vapornoise, alongside the same artist's 『▣世界から解放され▣』 (Freed from the World).

… Well, anyway, great noise! It feels distant, but it's not just a reverb, it's not analog, it's a big whirlpool of noise like goggoggoggo, gwaaarrr, zzboom, which has undergone some strange deterioration process. And along with them, the sounds like drones overlap and mix, and the whole is sometimes digitally cut off.

This album contains two songs of about 15 minutes, and it is supposed to fit on the both sides of the C-30 tape. On the A-side, a bass note with three notes repeated, and on the B-side, a chiptune-like decorative sound sequence remains in the ear. There is also a feeling that the contrast is rhythmic and dynamic on the A-side, and something meditative on the B-side.

So, this “LIQUID NITROGEN” is a very harsh noise mass, but for some reason the whole sound is very musical, and it sounds “POP”.

There is a mysterious brightness and a sharp feeling at the root, which is completely different from industrial noise. Only Vaporwave can make this music.
Also, the achievement of the task “Noise but strangely POP” seems to reach even the feats of Throbbing Gristle. However, this Eco Unlimited has been thrown out with a drier attitude, and it is exactly the new sound of the 21st century. There is no doubt about its greatness.