ポ  サ  研

─ Post-Truth Sound Lab, Vaporwave / Désir Duplication Répétition ─

Les joyaux de la princesse: Aux volontaires croix de sang (2007) - プリンセス・チャレンジ、開始っ❣

《Les joyaux de la princesse》、レ・ジュワイヨ・ド・ラ・プランセス。フランス語だとすれば、〈姫さまの宝飾品たち〉と訳せるでしょう()。

そしてこのことばは、フランス人であるエリック・コノファルさん、彼独りによる音楽バンドの名前です。
……あるいは、でした
そのリリース歴は1989年に始まり、そして、2007年をもってとだえています。

このテクストの表題に出ているアルバム、“Aux volontaires croix de sang”が、2007年・発、彼の最新の公式リリースです。
その仏語タイトルの意味は、〈赤十字のボランティアたちへ〉……の感じ。全15曲・約61分を収録のもよう。

さて、以下では短く《ジュワイヨ》と、このバンドを呼びましょう。その属するジャンルは、たぶんダークアンビエントです。
……たぶん、というか、どう言いましょうか……。ダークアンビエントっぽい響きが、いちおう支配的であると、言えそうな気はするのですが。

それを仮に、中心としても──。
ジュワイヨのサウンドは、それの左側にハーシュ・ノイズ(!)や戦場めいた爆音ら、また右側には古いフランスの軍歌/シャンソン/演説などのさまざまな歴史的録音ら、といった要素たちを含んでいます。

それらあわせての印象の強さは、とても否定などできませんが。だがいったい、これはどういう音楽なのか?
半分くらいは私の想像でまとめれば、こういうことでしょうか。

ジュワイヨの音楽活動の根本には、ひとつのコンセプトがあります。
それはフランスの1940〜44年、ナチス・ドイツによる占領(レイプ)を悼み、惜しみつづけることです。

Les joyaux de la princesse: Live in Bruxelles (?) - YouTube - YouTube

それをコアとして、しめやかな葬儀や葬送の音楽であるような部分が、私たちにはダークアンビエントにも聞こえます。このパートらは主に、パイプオルガンやストリングス等による、スタティックな曲として鳴らされます。
なおかつ、それの以前の華やかなフランス文化、それをじゅうりんしたナチスの暴虐──。そういうものらを、引用したり描写したりしているパートらが、またあるのです。

どうしてエリックさんが、こういうことを考えついた──おそらくむしろその妄執にとりつかれた──のか、見当もつきません。
かつ、バンド名との関連も分かりません。姫さまなんてものがフランスにいた時代とは、とくに関係がないようですが?

いや……。で、さて。ここで話を、やや広げてしまいまして。
いまは過去である2010年あたり、その前後──。私はもっぱら、音楽は《アンビエント》の系統を漁っていました。

そして漁りつづける中で、いいものはよかったとして。
がしかしそうとは言いきれず、〈これは、何か、おかしいっ!?〉……と感じさせてくれたバンドらいくつかが、いま逆に印象的です。

そのような、(ダーク)アンビエントの周縁部で語られ、そしてアプリシエートされていた、実に奇妙なバンドたち。
そんな彼らの代表格を、三つ四つほど挙げておくと……。

Muslimgauze -
Oneohtrix Point Never -
The Caretaker - Leyland Kirby -

……そして、われらがジュワイヨというわけです。

これらの中で、イギリスのブリン・ジョーンズさんによるムスリムガウズ》は、1997年にジュワイヨとのスプリット盤をリリースしています。
国籍などは違いますが、妄執めいたコンセプトにとりつかれたダーク系同士、何か通じあうものがあったのでしょうか。

そして《ワンオートリックス》《ケアテイカー》は、現在では〈プロト・ヴェイパー〉とも見なされながら、私たちのヴェイパーウェイヴのシーンにおいても絶大なる尊敬を集めています。それは、よくご存じのことでしょう。
われらのジュワイヨにしたところが、その実にひどくローファイなパートらを聞けば、これまた〈プロト・ヴェイパー〉でないとは言えまい、との感じはあります。

いまにして(後づけで)思えば、こういうアンビエント周辺の奇妙な音らの洗礼を受けていたことが、私においてのヴェイパー受容の準備だったのだろうか、とも。

そして、つい数年前までは偉大だが地味だった感じの、ザ・ケアテイカー……(そのまたの名が、レイランド・カービィさん)。
そのいったい何が、かん違いされたのでしょうか? 2020年あたり、TikTokerらの中で〈ケアテイカー・チャレンジ〉という荒行の奇行が少しばかり流行して、彼の名声がうっかり高まってしまったそうです()。

この〈チャレンジ〉は、ケアさんの傑作であり超大作である、“Everywhere at the end of time”(2016)──アルバム全体の再生時間が6時間オーバー(!)──これを、がんばって聞きとおすというもの。
この試みが、もし成功したさいにはチャレンジャーの人格、そのステージが高みに上がるとか……。いやその逆に、破たんし崩壊してしまうとか……。そのようなことが、言われていたとか、いないとか……。

という話を聞いて私は、ちょっと考えたのですが。

方向性や内容らは異なりますが、いずれも実に奇妙なコンセプトにとりつかれている、ケアさんとジュワイヨ。ローファイさにあわせ、〈レトロさがきわまったサンプルらの多用〉──という共通点も、またあり。
そうしてケアさんがそのように評判を呼ぶのであれば、こちらのジュワイヨにもいわゆる〈ワンチャン〉が……今後ぜったいにない、とも限らなくないですか?

──では、です。

ちょうど、ジュワイヨのブートレグ盤である一大総集編(CDにして6枚組)で、その再生時間が5時間30分(!)というものが、つべに転がっています。
〈プリンセス・チャレンジ〉とでも銘うって、これに対するチャレンジが、これからちょっと流行ったりはしませんか?

……まあ、しないでしょうね! しかし、希望は棄てません。

Les joyaux de la princesse: Aux morts de la guerre (2003) - YouTube
Les joyaux de la princesse: Aux morts de la guerre (2003) - YouTube
これがうわさの5時間オーバー総集編ブート

で、あ、そういえば。たったいま〈ブート盤〉ということばが出たので、ふと思い出しましたが。
ジュワイヨによる作品たちのリリース形態は、実に独特なものだったようです。

──彼のアルバムやEPたちは、ビニール盤であれCDであれ、その“すべて”が、ごく少数プレスの超・限定盤。それぞれ作りが凝っていて、ポストカード等の添付物らも、あわせて多数で多様。
と、マイナー系レア盤の収集マニアたちの好き心を、くすぐってやまないものだったようなのです。

さらに、再発のさいにもあれこれ、構成を変えてくるので。よって、同じとも言えず違うとも言えないようなものたちが、実にささやかにはんらんしているもよう。

そんなふうに、“すべて”がレアすぎるので、よくないですけどブート盤などが、ついつい出てしまっているのでしょうか。

ですが、いっぽう。ジュワイヨについて、公式のストリーミングというものは、ぜんぜんないようです。たぶん、ありません何も。
あったほうが、それはいいようにも思えます。ジュワイヨに並んだアンビエント周辺の、変わり種たち──さきに名らを挙げたご三者──いずれも、Bandcamp等に出ているわけで。

しかし。今後の名声の高まりやビジネスの隆盛などを、エリックさんご本人が望んでいるのかどうか、それは分かりません。
粘りづよい創作の継続によって、妄執のすべてをジュワイヨとして吐きだしつくし……。そして現在は、ただのエリックさんしか、存在しないのかも知れません。

[шrαρ-υρ in ԑngłiꙅℏ]
Les joyaux de la princesse is an extremely unique French dark ambient band. Its member is one Eric Konofal.
Its history of activity began in 1989, and has been interrupted since 2007.

Joyaux's music cannot really be described as dark ambient.
Such a sound dominates, however... On the one hand, there is harsh noise, and on the other hand, there are elements of old military songs, chansons, and historical recordings.

What is this all about? Perhaps it is something like this?

At the root of Joyaux's musical activities, there is a concept.
It is to continue to mourn and regret the occupation (rape) of France by Nazi Germany in 1940-44.

With that as its core, the music of a sombre funeral sounds can be heard by us as dark ambient.
The music is also a reflection of the glamorous French culture that preceded it, and of the Nazi tyranny that raped it. There are also parts that quote and describe these things.

I have no idea how Eric came up with this, or perhaps he was rather obsessed with it.
But I continue to be fascinated by the strength of his obsession and his will to continue mourning.