これも意外とヴェイパーウェイヴに関係ある話なんだが、あのどうしようもなくシットでファッキングに最高な、アントニオ・カルロス・ジョビンの“WAVE”。
これはボサノヴァの至高の名曲であると同時に、スーパーのBGM、実質的に《モールソフト》の名曲でもありすぎている、と思うんだよね。じっさい全世界そこら中のスーパー、デパートや各店で、永遠のヘビロテ中だしね。
(モールソフトとは、スーパーやショッピングセンターらのBGMを擬態し模造していくヴェイパーウェイヴの一分野である)
“イパネマの娘”あたりもそうだが、その何かソワソワと浮かれた感じ、そして満たされそうだが満たされない快楽や欲望らの起伏。ジョビン名曲群のそういう性質が、ショッピングフロアのふんいき作りに最適なのかと想像される。
なお、ここで皆さんが(たぶん)好きそうな人物の話を振ってみと、坂本龍一がしばしば次のように述べていた。
〈A.C.ジョビンは、20世紀で5本の指に入るきわめてすぐれた作曲家。〉
──しかし、この談話を思い出すたびに思うんだが、じゃあ残りの4人は誰と誰たちなのだろうか?
ごくごくふつうに、シェーンベルクやバルトークあたりを挙げるのか。さもなくばジョビンにあわせ、ガーシュインやコール・ポーターらを言うのか。もしくは意外に、イーノさんとかデビッド・ボウイらなのか。誰か坂本さんに会うことあったら、聞いてみて欲しいんだよね。
さて実はこの記事は、《特別な贈り物》(★)に入れようとしてハミ出した話題をムリにまとめているんだが、散漫ついでにBandcampのボサノヴァ・オムニバス、“Bossa Nova”をご紹介。
いやこれ自分は通して聞いてないんだけど、しかしジョビンにジョアン・ジルベルト、ドナートにワンダレイ、ボンファ、等々と標準的(ありきたり)なセレクションなので、まあふつうに愉しめるものかと推測。アストラッドは入れられなかったみたいっスね。
ところでボッサ通の皆さんはご存じのように、このセレクションと同工異曲のオムニバスCDが、一時は毎年、日本の各レコード会社から発売されていた。アマゾンあたりで「ボサノヴァ ベスト」で検索すれば、その点数のおびただしさが分かりがち。
どれもこれも大して代わり映えしない選曲なのに、曲順を入れ換えカバーアートを変えれば毎年売れる、ハケてしまう。そういうテッパン商品だったらしい。
という、《マーケット》におけるジョビンさん&ご一同の圧倒的な強み。これにあやかってわれわれのモールソフトも遠慮なく勢力を伸ばし、死のショッピングセンターの幻想の流通を大いに推進していくべきなんだよね。
またひとつよけいなこと言うと、このオムニバスの10曲め、ジョビン&ボンファの「モーホの嘆き」は、リオのスラム街に住むド貧民たちへの同情や共感みたいな唄だが、でもそんなの関係ない。われらのボサノヴァはシャレオツなカフェーの音楽、その認識でまったく問題ないんだよね。