《特別な贈り物》を名のるユニットは2017-18年に活動、モールソフト系のアルバム4コを残したヴェイパー・クリエイター。で、それきり消えてしまったもよう。
消えたといっても、どうせ別名義のプロジェクトにシフトしただけなのでは、とは考えられるが、しかしその消息を追いきれない。なおDiscogsのアーティスト紹介欄には、《本名:Special Gift》というジョークみたいな説明が出てるだけ……ただの直訳!
まあ、〈ただの直訳〉はヴェイパーの基本だからそれはいいとして、かつ作者のこともさておき。
申したとおり、特別な贈り物の作品らはすべてがモールソフト、すなわちスーパーのBGMみたいなヴェイパーウェイヴ。各アルバムのカバーアートらもまた、すべてモールの一隅の情景らしきもの。各リリース元は、すべて《Museum of Skin》レーベル(☆)。
そしてそのだいたいの音楽性をことばにすると、1950-60年代風のイージーリスニング、ジャズやボサノヴァ、またはもう少し新しい軽めのフュージョンあたりが素材。それらの音質をいい感じにナマらせて、ショッピングフロアの遠くの天井スピーカーから、オボロに聞こえてくるような感じに調整。
──いやそれが実のところ、あまり大した操作をしている感じがなく、ほとんど原曲のままかと思える例がまれでなくて、ついついドキッとしてしまう。不必要にハッキリとは言わないが、ひじょうにポピュラーな楽曲らも平気で使っているので、これは大丈夫なの、と。
だがそんなよけいな心配を通りすぎてしまうと、ほどよくモコったこのサウンドが、あまりにも快適で仕方がない。ラウンジーなヴィブラフォンのティンコロリンという響きが、もう、実にキモチいい。
無人となって久しい放棄されたショッピングフロアで、そこにはいない人々の欲望を、こうしたヘンに軽妙な音楽だけが永遠にかきたて続けている。
ところで特別な贈り物の“LP2”の終盤に、このバンド的には異色なトラックがとうとつに出現。タイトルを“Hangin' Out (At The Mall)”といい、そのまんまの歌詞を高らかに歌い上げているエレクトロタッチのR&Bチューン。
土曜の午後から、モールで遊ぼうぜぇ〜
TVゲームとかあって愉しいぜぇ〜 もうクギづけだぜぇ〜
……タイトルでググるとすぐ分かるように、こんなおかしい曲が1980年代初頭に実在していたのだった(☆)。それがほどよいスローダウン等々の標準的なヴェイパー手法によってダメージ加工され、そしてここに陳列されている。
じっさいそのもともとの脳天気なモール讃歌が、さいしょに世に出てから、すでに40年近くが経過。その歳月の刻印、もろもろろの経年変化を、ヴェイパー処理が無慈悲に代行しているのだろうか。それのみならず、さまざまなものたちが、いいあんばいに風化して、いまわれわれはその荒廃の豊穣なるショッピングスケープを満喫しているのだろうか。