ポ  サ  研

─ Post-Truth Sound Lab, Vaporwave, Désir Duplication Répétition ─

ll nøthing ll: 豊かな隔離 (2018) - リモートでボクらは愛しあう……互いに触れることなしに。

2017年あたりから活動中のヴェイパーウェイヴ・クリエイター《ll nøthing ll》、テキサス州ヒューストン在住であるとか。名前の前後のタテの棒らは《L》の小文字だけれど、「エルエル・ナッシング・エルエル」と読ませたいのかどうかは分からない。
で、その2018年の“豊かな隔離”──、意味ありげなアルバムタイトルがまず目をひく。何しろ現在、《隔離》は熱すぎるほどホットなキーワード。

ご存じのように、いま日本と世界は、コロナウイルスのブームまっただ中。隔離・検査・閉鎖といったワードらが、ひんぴんとニュースに現れる。
街の人らもいちように感染予防のジェスチュアであるマスクを着用、つけていないほうが珍しく、そのマスクが超品薄で、それもまた騒ぎ。学校らも全国的に休校、かつ人が集まる催し全般の中止が相次いでいる。
自分なんかも「Jリーグの試合が中止でつまらんのォ」と嘆いていたが、さらに地元の図書館までもサービスの大半を取りやめたことにはビックリ。書庫や閲覧室は完全閉鎖、窓口での資料の貸し借りのみ対応、と。

これではまるで、人らがむやみに集まったり、また接近・接触したりすること自体が《悪》──。悪じゃないまでも、最大限に避けるべきリスク、くらいに言われているようで?

1970年代くらいまでの古い映画など見てみると、そういう時代の人々は、暑苦しいまでに激しくもつれあい、互いにぶつかりあって生きていたような感じ。それが近ごろは、すでにずいぶん距離をとり気味だけど、さらにこうしてそれが加速。まあコロナブームが過ぎれば、あるていどは復旧しそうにしても。

だがしかし考えてみたら、こういう状況を逆にツボだと考えている人も少なくはなさそう。もともと家から出たくない、できれば人と接近・接触をしたくない、“すべて”のことを可能な限りネット経由とかのリモートですませたい、そういう人もけっこういるかな、と。

そしてまあヴェイパーウェイヴは、どう考えてもそっち側のカルチャーだ。ヴェイパーが追想してやまぬ過去である1980年代は、「あまり近くに寄らないで」というディスタンスの時代。
まずはゲイリー・ニューマンの「ボクはキミとの接続を切る」(1979)が、そんなディケイドの到来を予言。次いでジョイ・ディヴィジョン「愛がボクたちを引き裂く」(1980)が、その実現を宣言したようなもので、以下続く。

で、現在の騒ぎの中で、コンサート等を開けず困っているミュージシャンぽい人らも多くいそうだが、しかしどっこい。うちらのヴェイパーにはライブもリサイタルもなく、クラブイベントもほとんどなし同然。つまり、あらかじめ勝っている(!?)。
かつてパンクロックはNYやロンドンのライブハウスから生まれ、またハウスミュージックはシカゴのアンダーグラウンドなクラブから生まれた。そこでの人間らのホットな接近・接触が、それらを生み出した。
そののち現在のヴェイパーウェイヴとかいうアレは──。21世紀初頭のネット環境から、人間らのつながりなく、デジタル信号らの交錯のはずみで、バグのようにわいて出たのだった。まあイメージ的に。

口ではいろいろ言いつつも、80-90年代まではリアルの空間で互いに接近・接触していた人々が、現在はガチでそれをしない、避けている。どこへ行っても携帯端末の画面しか見ていない人間、というのは80年代あたりの想像力の産物だが、しかしテクノロジーの豊かな発展が、それを現実の存在とした。
その誕生をわれわれは祝福しなければならない、のだろうか。

いっぽう振り返るとヴェイパーの誕生にあたり、アメリカ、アジア、そしてヨーロッパ等々の各地の、距離や国境や言語障壁などによる《隔離》、まずそれがあった上での情報の流通──ということが、小さくない意味をなしたのだろうか。
なぜかヴェイパーの題材には日本のものが多いわけだけど、見た目のファニーなカナ文字や漢字、よく意味の分からないファンシーなニッポン製アニメ、行ったこともないアキハバラや歌舞伎町のシティスケープ──それらが触発するファンタジーの豊かなふくらみが、ヴェイパーをこのように育ててしまったのだろうか。

すなわち《隔離》は、生産的なのだろうか。まあ少なくとも半分くらい、そのことを肯定しなければならなそう。

ところでナッシングさんのアルバム“豊かな隔離”だが、ファンクらしき元曲をグッチャグチャに加工編集した7曲め、“揚げた”。その豊かな混沌ぶりが、実に印象的。
そして彼の近作アルバム“DEATH”(2019)は、そういうジャンクっぽいテクスチュアを活かしつつ、ちょっとドラムンベースめいたフレイヴァをつけるほうに向かっているかも。全体的にレベルの上がった感があり、こちらも7曲めである“dazed”がすごくいい。

そういうことでナッシングさん、これからもぜひご発展ご活躍を。……とオレは、恐ろしく長い距離が互いを隔離している地球の向こう側、テキサス州ヒューストン方面へと向かって祈る。