エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

Olivia Louvel: SculptOr (2020) - クローゼットの扉を あなたは、開ける、閉める

オリヴィア・ルヴェル。フランスで生まれイギリスで活動する、エレクトロニカ、エクスペリメンタル、もしくはコンピュータ音楽の制作者。そしてサウンド&ビデオ・アーティストであり、女性ボーカリスト
もとはクラシックの声楽家を目ざしていたそうだが、何やかんやでコンピュータベースの音楽制作あたりに道を転じ、2006年のアルバム“Luna Parc Hotel”によってソロデビュー。で、ご紹介しようとしている“SculptOr”が最新アルバム。

さてこのルヴェルさんの作っているサウンドは通常のポップやクラシックのフォーマットとはかけ離れていて、ビートとベース、上モノやコード、みたいな構造に乏しい。そうではなくて、カシャ、シュッ、ドタッ、ピシッ、といった生活ノイズみたいな響きらが、スキマだらけで間けつ的にシーケンスされている、ようなところがある。
そしてヘンな感想だが、その生活ノイズめいた音らが、ふしぎと女性的なものに聞こえる。女性が鏡台の周りの多数のアイテムらを、ガサゴソと動かす音。クローゼットの戸を開閉する音。また、床やベッドの上に散らばった雑誌を取り上げ、ページらをめくり、飽きてまた放り出す音。なぜなのか、そういう風に聞こえる。

そういう印象もけっきょくは声に引っ張られているところがあるかも知れず、このルヴェルさんは、声がほんとうにいい。オレがそれを好きだ。ブリジット・フォンテーヌばりのところがある。歌詞や語りは英語だが、フランスなまりが感じられ、それがいい。
みょうに自分が凝り固めているフレンチポップのイメージがあって、それは、《貴方のことが好きだけど、でもそれが何なの?》と、思索する女性を描く。英語で歌っているにしても、この音楽にはそれに近いニュアンスがある。
ただしこのアルバム“SculptOr”は、男女的なことではなく《芸術-と-私》みたいなことがテーマであるもよう。スカルプターつまり彫刻家とは、ルヴェルさんが自分のことをそう呼んでいるもよう。

さて身もフタもなく言ってしまうと現在のルヴェルさんは、《21世紀のマイナーなローリー・アンダーソン》くらいに見られそう。むろん現在のサウンドになっているので、ただの繰り返しではぜんぜんないが、しかしポジション的に。
ではあれ歌手としてはローリーさんよりも魅力があると、オレは感じている。2015年のEP“Bats for Night”ではルヴェルさんがコール・ポーターの「夜も昼も, Night and Day」を歌っていて、とうぜんきてれつなサウンドにしているのだが、しかしそれがまたすごくいいのだった()。