エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

DISCHARGED 発電所: ヤンデレ・ラブ (2022) - 支配する、〈コンプライアンス〉

在グァテマラのヴェイパーウェイヴ系アーティストである、《Rift09》さん。昨2021年から、ご活動中のようです()。

その彼のここまでの代表作めいたアルバム『リミナルスペース』(2021)を、すでに当ブログでご紹介しています()。あれは、とてもよかったですね!

そしてそのリフトさんの変名のひとつが、《D I S C H A R G E D 発電所。この名義からは、〈いかにも的なヴェイパー〉とは少しフィールの異なった、奇妙なエレクトロニック音楽が発表されているもよう。

そしてご紹介するヤンデレ・ラブ』は、その何とか発電所の最新作。2022年3月リリース、全8曲・約17分を収めたEPサイズのアルバムです。

そしてこの作品のテーマはそのまま、あからさまにヤンデレということ()。

収録曲のタイトルらを拾ってみると──すべてニホン語です──まず、「君のことが好き」、「ダーリン!」などと、おめでたく始まって……。それがすぐもう暗転し、「裏切り者」、「酷すぎる」、などと化し……。
そしてラストは意味深長な、「私だけなの」、と終わります。

という流れに沿って、音楽面もまた──。

さて、これはどういうエレクトロ音楽なのか、という説明に困るのですが。とりあえずシンセっぽい音が鳴っていて、ミニマルでありかつ、別にむずかしい曲調ではないのですが……。またびみょうには、ヴェイパーホップ的だとも言えますが……。
そのそれらが、ちょっといにしえのギャルゲーのテーマ曲めいた、薄ら明るいトーンから始まって……。
しかし述べましたように、すぐ暗転。そして、《不安》や《怒り》らの表現であろうか、と思えるトーンらへ……!

そして、特筆してみたいことは──。こういうやばめのテーマでありながら、今アルバムには、脅かし的なサウンドがぜんぜんないんですよね。
音量面でも音域面でも、レンジの狭さ(=耳へのやさしさ)が印象的です。それを私は、いいことだと感じています。

💔 🔪 😰

そしてそういう流れのきわまったところが、ラスト曲「私だけなの」。これは1分8秒のごく短い、IDM風なトラックですが──。ああ、いやそんな、わずか1分間の《IDM》なんて、本来あるものではないですが──。
変調されて切り刻まれた叫び声などを含有するこのトラックが、何か恐ろしい事態の発生を示唆しているか、という気はするのですけれど。しかし、そんなにまで強迫的なサウンドには、なっていない。
そこに私は、リフトさんの《美学》を感じるのです。

Rift09: トロピカル・サンセット (2022) - Bandcamp
Rift09: トロピカル・サンセット (2022) - Bandcamp
やや明るい印象の、3曲入りEPです

これは全般的に、あまり愉しい音楽とは言えなくて、かつ再生のボリュームを上げていくとさらに、内容の重さがお腹にこたえる感じ……。
ただしそれらが実に抑制された表現になっている、そのことに深く共感しています。

そうしてトータルな感想は、ああ《ヤンデレ》ってマジ怖いっスねえ……ともなるのですが。
しかし私は、《ヤンデレ》の一種の必然性、ということをも強く想うのです。

例によりまして私の悪いくせ、《ラカンの理論》めいた寝ごとを申しますと。第三の項を欠いたマンツーマンの人間らの関係は、《想像的》です。
そのあり方が、《デュエル=決闘》のようだ、とも言い換えられて。その関係が強いほど、〈殺るか/殺られるか〉という地点にまで、“発展”してしまう可能性を高めます。

ふつうの意味での悪意などが存在しなかったとしても、ときとして、〈相手の人格を呑みこむか/または逆に呑まれるか〉、というきわまった思いつめ方にまでいたる。……それが、マンツーマンの《想像的な関係》というものなのです。

だからこの場合の《想像的=イマジネール》とは、相手へのイメージが自分のイメージになっている、ということです。

ジャック・ラカンさんがしばしばご紹介されている、えーと……J・ピアジェさん、H・ワロンさん……確かそのあたりのお方による、ご観察があります。
それによると人間の幼児らは、自分が目の前のAくんをペシッと叩いておいて、〈Aちゃんがボクをぶったー!! うわーん!〉と逆に、泣き訴えたりすることがあるそうです。

これが、《想像的な関係》のあり方です。思いあたることはないでしょうか?

──で、さてです。そういうことにはならなくするための、ありうるような《第三の項》とは、いったい何でしょう?
倫理、道徳、習俗……。ときとしては、制度的な《科学》。はたまた、《象徴的なもの》大文字の他者……。

などなど、呼ばれ方も実質もさまざまですが、それは何らかの、社会的であるものでしょう。

そしてそういうものたちを、いちばんフラットな言い方へと還元してしまえば──。
人間たちのとり結ぶ、どういう関係においても、そこにはコンプライアンスの遵守〔じゅんしゅ〕が求められる、ともなるでしょう。

とはまた、実につまらない……しかしこの現在の、“正論”です。
そしてそういう表面的でつまらないお定まりの“正論”たちが、しかし、適用されるしかない。そんな文明社会のどん詰まりに、私たちは生きているようです。

スラヴォイ・ジジェクさんが、『2011 ─ 危うく夢見た一年』(原著・2012年)に、確かこんなことを書いておられました。

〈男女とかの関係についてポリ・コレやコンプラをギャーギャー言いたてまくるなら、いっそ性交の事前に契約書でも、とり交わす決まりにしたらいい。これぞカント的でありかつマゾッホ=サド的な、大解決であるぅ〜っ!?〉

──それこれで。《ヤンデレ》の中には、どう見ても、人間らについてのひとつの真実がある。いやですが、人の原初的あり方へと、突きぬけたものがある。ゆえに、ある種、それは私たちの心に響きます。
──かといって。私の親愛なるあなた方におかれては、対人の接し方において常に、〈コンプライアンス〉へのご留意をひとまずのところ、おすすめしたいのです……!


D I S C H A R G E D 発電所: ヤンデレ・ラブ (2022) - Yandere Love, or Compliance Rules!

[sum-up in ԑngłiꙅԧ]
Rift09 is a Vaporwave artist from Guatemala. He has been active since last year in 2021 ().

We have already introduced "リミナルスペース / Liminal Space" (2021), which is considered to be his masterpiece so far, on this blog (). That was good!

And one of Rift09's aliases is D I S C H A R G E D 発電所 (Discharged Power Plant). Under this name, he seems to be releasing strange electronic music with a different feel from typical Vaporwave.

And the latest work from Power Plant, "ヤンデレ・ラブ / Yandere Love", was released in March 2022. And is an EP-sized album of 8 songs, about 17 minutes in total.

The theme of this album is, as it seems, overtly "Yandere".

The titles of the songs starts off congratulatorily, such as "Kimi no koto ga suki (I love you)", "Darling!". But it soon turns dark and starts with "Traitor", "It is too harsh", and so on...
And the last song is named meaningfully "I'm (your) only one".

Along with this trend, the musical aspect also progresses.

I am at a loss to explain what kind of electronic music this is... At any rate, there is a synth-ish sound, minimalistic, and not particularly difficult music to understand. And slightly can be said as Vaporhop-like...
And it starts with a bright tone, a bit like the theme of a dating game... Then it turns dark in the same way as I mentioned above, and goes to a tone that seems to be an expression of "anxiety" or "anger"...

And what I would like to mention is that, in spite of the dangerous theme of this album, there is no threatening sound at all in this.
The narrowness of the range, both in terms of volume and frequency, is impressive. So gentle to the ears, I consider that a good thing.

And this is not, in general, very enjoyable music, and the louder the playback volume, the more heaviness of the content hits us in the stomach...
However, they are really restrained in their presentation, and I deeply sympathize with that.

By the way, about our subject: Yandere Love...
What can we do to avoid its dangers?

All I can say, for now, is to pay attention to "Compliance" in all interpersonal relationships.
So sorry, but this is really a trivial and mundane "Corrective" argument!