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谷川ニコ等『私がモテ(…)お前らが悪い! ミステリー小説アンソロジー』 - なぞから/またナゾ

私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!〜ミステリー小説アンソロジー』(2021)、これを拝読しました。
今21世紀の初頭を飾っている傑作マンガ、私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!──通称『わたモテ』の、公式の二次創作めいた短編小説集です。

本書に収録されているものは、小説五編とイラスト六点(カバー画含む)。本の厚みは、約308ページ。

ということで以下、各小説&《あとがき》の、かんたんな感想文です。
そしてこれらもいちおうミステリーですから、いわゆる〈ネタバレ〉はきょくりょく、さけるつもりです。

では、はりきってどうぞ!

1. 谷川ニコ「朝の目撃者/昼休みの探偵」

そもそもどこの誰さまが、《ミステリー》というお題を出したのでしょう……? ということを考えさせる、原作者ご自身がずいぶん苦しんでひねり出した風の、そのような小説です。
タイトルから察せられるように、二本立てですけれど。その後半のお話が、とくにひどくって!
〈ドスケベ偵クロキ〉を名のるあのヒロインが、〈日常に潜むエロを推理〉などと称し、《田村ゆり》さんを助手として、《根本陽菜》さんのはいているパンツ──その色柄などを推理……。いや推理でもなく強引に、尋問するだけのお話なのですが。
──ミステリー、とは?

ですけれど──。
ですけれど、この本のすべてを読了したあとでは、思うんですよね。このくらいのどうでもよさ&たわいなさが、むしろ『わたモテ』らしくていいのではあるまいか、と。

2. 市川憂人「絵文字 vs. 絵文字Mk-II」

夏休み中の学園にて、白昼の怪事件が勃発……!
まずは、学園祭映画のロケハンを意図してプールに潜入していた黒木智子さん──われらの《もこっち》の制服が、更衣室からいずこかへ消失してしまいます。
そのいっぽう、ストイックなマンガ家志望少年として私に好評の《初芝くん》が、校舎裏の花壇ふきんで、失神状態で発見されます。

そしてこれらの事件の解明に挑むのが(主に)、作中で《絵文字》と呼ばれる少女らふたり、一号&二号です。
なぜかといって初芝くんが、気を失う寸前にダイイングメッセージかのように、〈エモジ……〉とつぶやいた、という情報があるからです。それで彼女らが被疑者なので、その嫌疑を晴らさねばっ!

で、ちょっと言わせていただくと。初芝くんをおそった(らしき)犯人の消失のなぞ、そもそもふたつの事件の関連性──そのあたりは実に、ふに落ちました。
ただいっぽう、死んでいませんがダイイングメッセージのほうの、なぞ要素。そちらの真相解明が、少々強引かなあ……的な?

3. 岡崎琢磨「踵〔かかと〕の下の空白」

もこっちの親友で現在は異なる高校に通う、《成瀬優》さん。彼女の語りによる、そちらの学園の物語です。
かつての優さんやもこっちらとやや似た感じで、クラスメイトらの中に溶けこめていない女の子。その彼女が孤立気味になっている原因である過去の事件の真相を、優さんが解きあかそうとします。

私の感じだと、この作品が、もっとも《小説》としてしっかりしています。よく書けているのかな、と思います。
ですがけっこう重ためなお話で、あまりパーッとした読後感にはなりません。

4. 坂上秋成「モテないし合コンに行く」

陽菜さんの誘いでもこっち一同が、花の東京の青山くんだりまで出かけ、人生初の合コンに参戦です!
そのすべり出しは──すごく意外にも──上々だったのですが。なぜかその場で奇妙なトラブルらが多発、惜しくもこの会はどういう成果もなく、早々にお開きに……っ!

さてこのお話、前半のギャグ的パートのいきおいが最高なんですよね。イェイッ
さいきん本編には描かれないような、プリティもこっちの燃えさかる性欲の大暴走が、実に小気味よい! 淫にして乱!! ウワオゥ!

……ただし。後半で明らかとなる、事件の真相と〈犯人は誰〉というところが、まったくふに落ちません。
トリックがおかしいみたいなことがあってもあまり気にしないんですが、これは心理的におかしいというのか、キャラクター的に不自然というのか……。

……ただし。もしもこの合コンが成功しすぎ、まんいち性交にまでもこっちがおよんだりしたら、原作マンガとの整合性が失われてしまいます。
そういうことを避けようという、《見えざる神の手》みたいなものが作用しましたか?

5. 円居挽「モテないし一人になる」

わたモテの主舞台のひとつである、千葉県の《幕張》──。そのあたりのネットカフェを舞台に、ニコ先生の諸作品の登場人物たちが、チン妙なる事件に巻き込まれます。

その中から、ここまでに名が出ていない人物らを列挙しておくと。
まずわたモテから、仮称《サボリーマン》とファンらから呼ばれている人物と、あとひとり。その誰かの回想内で呼び出されている人々は、もっとたくさんです。
また『クズとメガネと文学少女(偽)』からは、そのヒロインの《織川衣栞》(おーり)さん。
そして海浜秀学院のシロイハル』からは、《棗くん&叶くん》。
さらに『ライト姉妹』から、その姉妹の姉のほうである《水樹希美》さん。

という、盛りだくさんな力作なのですが──チラッと言いますが叙述のトリックなども盛り込んで──しかしこれがいいのか悪いのか、実は私には分かりません。
フラットに読んでいれば事件の真相は、すでに序盤でおのずと分かる気がするのです。ゆえに、そのあとが無用に長いようにも思えるんですよね。

とはいえその中で、シロイハルからの少年たちふたりがあまりにも変態なので、彼らのおしゃべりパートは面白い、というか……。こいつらマジでやべーな、という印象の強さは、実にあります。

それと、あとひとつ。語り手である誰かが、よその高校の男子の風貌を、《奈良重雄》そのものだ、と形容するくだりがあるのですが……(p.229)。
いや。まさかとも思ったんですが、 これがおそらく木多康昭先生ェの『幕張』に出ている、ド変態の奈良くんのことなんですよね!
……ああ、それはまあ、その《幕張》のご当地のお話ではありますけど。しかし木多『幕張』って1990年代のマンガなので──とくに名作でもないし──、いまの高校生たちは知らないでしょう!

6. 《あとがき》 by 谷川ニコ

これがまた、実にひどくも赤裸々な〈ぶっちゃけ〉を敢行しているテクストとして、すでに有名です。一部では。
まずは、〈小説自体をぜんぜん書きたくないのに、ましてやミステリーなんて無理すぎ!〉……というボヤキ。
続いては、『シロイハル』打ち切り事件の真相告白。担当編集の人がニコ先生の特有のテイストをまったく受けいれてくれなかったそうで、ゆえにそれこれの、〈受ける仕事〉はすべきでないな──と、痛感なさったとか。
そして小説のペンがぜんぜん進まないのでニコ先生ェは、〈逃避行動〉としてアダルトゲームらのプレイをがんばり、執筆中であるべき時間を消費して三本をもクリア。かつ、そのご愛用の〈エロゲー〉たちを特徴づける、〈淫魔/寝取られ/制服/孕ませ/爆乳〉……といったキーワードらを、むだにはっきりと記述されています。とは、どういった露悪でしょう。

いやはや……。仮にこのわたモテ小説アンソロジーにまたの続編があったとしても、ニコ先生ご本人は、イラストのみの参加になってしまうのでしょうか?

ではさいごにそのイラストのことを言うと、カバーにあわせて各編に一点ずつ、これらは美しい。ファンなら見ておきたいですね。

……とまあ。これはこういうものとして受けとりますが。われらのニコ先生におかれては、本編『わたモテ』のほうを掲載延期とかないように──先日の2022年6月末にも延期があったばかりで──すみませんが、ぜひつとめていただきたいです!