スラックギター入門に最適と考えられる
《ハワイアン・スラックキー・ギター》について、何かをご存じの方々も多いとは思うんだけど。でもまず、ちょっとだけ関係あるような(ないような?)お話から。
谷川ニコによる学園コメディまんが「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」(☆)、喪165(単行本の17巻に収録)。そのヒロインたちは高校3年生で、受験勉強にジワジワ〜と追われ気味。
そして1学期の最終日、勉強するにしても夏らしさがありたいと、彼女らは学校にほど近いビーチサイドに出動。その海ぎわの休憩所みたいなところで、それぞれ自習を開始。
で、その場のふんいきの、《夏らしさ》をマシマシにしようとして。あれこれの試行錯誤の結果、スマホから動画サイトのハワイアンミュージックをタレ流すという演出に、彼女らは及ぶのだった。
ここで考えてみると、シーサイド的なふんいきを盛り上げる《夏の音楽》ってのも、むかしからいろいろとあるもので。うちらのポップの文脈だと、ベンチャーズやビーチボーイズあたりから……。
そしてニッポン地域の話だと、サザンオールスターズやTUBEなど、ほとんど夏にしか出番がないような音楽の、需要は絶えていないっぽい。
だが、そのいっぽうの生産のほうは、どうなのか。自分もけっこうTUBEとかキライじゃないけど、ああいう《夏》にテーマを全振りしたバンドって、近ごろも出てきているのかどうか。
いや。そういう《夏の音楽》の話をダラダラと書いていたら、あわや本一冊くらいの長さになってしまいそうなので──。
ともかくもさっきのお話で、少女たちがハワイアンという選択に落ち着いた、そこに自分はヘンに強く共感しているんだよね。ニュウゥ〜ワァ〜ン(スチールギターのグリッサンド)。
ということでっ、テンションをズズイと落としてまいりましょう〜! そのハワイアンミュージックの一分野の、《スラックキー・ギター》について。
これは特殊なチューニングによるギターの演奏で、ようは全般にテンションを下げめ。
ゆえに、弾けば〈ビロリィ〜ン〉みたいなユルい音が出る。スラックキーの“slack”とはズバリその、ユルい、ダルい、という英語なんだ。
それがたいていはソロで演奏されるけれど、唄モノや合奏で使われることも。だがどう鳴らしても、その響きのユルみダルみは変わらないので、そこは大いに安心してオッケー。
もとはといえば19世紀にスペイン人らがハワイにギターを持ち込み、追ってハワイの人らがかってに編み出した奏法だとされる。それが一時はすたれていたが、しかし1960年代から復興、といったストーリーがあるっぽい(☆)。
そしてそのスラックキー・ギターの名演の宝庫が、Bandcamp上の《ダンシングキャット・レコーズ》(☆)。
そこに出てる量がとにかく膨大で、オレとかの一般ピーポーの一生分のスラックが、そこにまんまと集積されていると言える。
そしてその中に、スラックギターの達人としてとくに有名な、ケオラ・ビーマー、サニー・チリングワース、レドワード・カーパナ、オジー・コタニ、等々々がラインナップされて。
というわけでぞんぶんにスラックキーの、ユル〜みダル〜みを娯しめるので、まじまんじワンダフルぅ〜。受験を控えたJC&JKの皆さんにも、これを教えてあげたい気持ちでいっぱいなんだ〜。
トリプル・プラチナ達成のウィンさん大銘作っ
ところで。もうひとつビックリなのは、このダンシングキャット・レーベルのオーナーが、かの《ジョージ・ウィンストン》だということ。
《ニューエイジ系ピアノ》というジャンルの創設者にして永遠のナンバーワン、あのG.ウィンストン、その人である。1980年代初頭、「オータム」や「ディセンバー」らの名作で、ゴールドディスクやプラチナに輝いた……。
いや。自分のいままでの認識だと、この人のバックグラウンドには、まずヒッピー運動みたいなものがあって。そこからの流れで、《ニューエイジ》と言われるような音楽をヤッてらっしゃるのか、と思ってたんだ。
それがいつの間にか、ハワイアン・スラックキー・ギターの守護者にも、なってあそばしたとはっ!? ものすごくヘンな話でもないけれど、しかしやや意外だと、とまどっているのはオレなんだよね。
と、そんなことからウィンストンさんの評価もまた、自分の中で再上昇だが。
が、ともかくいま、ニホンとかトーキョーあたりが、すっごく暑いので……。
もうね、〈ビロリィ〜ン〉とねェ、スラックギターのユル〜みダル〜みとかを愉しんで、どうにかこの時節を乗り切りたいっスねぇ……。