エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

Ebi Soda: Ugh (2020) - エッチなボントロが勝ち誇る、そしてニャンニャンへ──

《エビ・ソーダというバンド名だが、そのエビが海老のことなのかどうか、現状では明らかでない()。英ブライトンを拠点に活動する、コンテンポラリー・ジャズの5人組だよ。
2019年に彼らはEP、“Ebi Soda”でデビュー。追って同年に1stアルバム、そして今2020年、2ndの“Ugh”を発表。こういうマイナーなシーンの中では、かなり話題になってるほうだと思うんだけど。

そのエビちゃんズのサウンドの、どこが注目かというと。現代的なエレクトロニクスに対する《ジャズ》本来の自由っぽさ、有機性──、その融合のレベルが、きわめて高い。
ひじょうにコントロールされた構築的で立体的なサウンドと、即興演奏の衝動性。それらがみごとに、両立しているんだよね。

これをマイルス・デイビス(「キリマンジャロの娘」〜「アガルタ」時代)以来の快挙、とまで言ったら、少々ホメすぎだろうけど。しかしエレクトロニクスの水準が上がっているわけなので、あの当時にはデキなかった斬新なサウンドになっている、とも言えそう。

とくに印象的なのは、トロンボーンのソロとそれを包み込んでいくバッキングの拡がり。いや実は、“ソロと伴奏”ってェなシンプルな構成ではなくて、そこが有機的だと人の子らに伝えたい。がしかし、こういう用語しかボキャブラリーに、ない

いまうちらが見ているエビ・ソーダの2nd、『うぐぅ』。その第1曲の「エッチ」で、ボントロがテーマっぽいメロディを奏している背後、いろんな人らがオブリガート的にヘンな音を鳴らしている。反復に従ってそれらが、ダブ的処理によって積み重なり、どんどん複雑なサウンドになっていく。
そしてラスト10曲めのニャンニャンは、さらに過激なんだ。カッコいく咆哮しまくるボントロの背後で、もともとの複雑なアンサンブルがエコーか何かでズイズイと積み上げられ、そして切り刻まれ、大カオスの爆誕へッ。
で、もうワケが分からなくなる寸前だが。しかし、音楽の方向性が見失われることはない──、この構成力が、実にすごい。

なお、〈第1曲の「エッチ」〉って、バカみたいなことをいま述べたけど。でもじっさいこの曲は、タイトルが“Ecchi”なんだよね。
これはちょっと、ニッポン語のエッチのこととしか、考えられない。──だがしかし、楽曲自体にエッチなムードがほとんどないっぽいのは、奇妙というか残念というか。そして「ニャンニャン」は、原題が“Meow Meow”。

と、このように、ばくぜんと聞いててもけっこう目立っている、エビ・ソーダのボントロ奏者。この人は《VVilhelm》を名のっており、これでウィルヘルムと読ますのか。エビ作品らのミキシングやプロデュースをも担当していて、実質的バンドリーダーと目してよさげ。
このVV氏のエビ以前の活動歴とかを探っていたら、《The VV Experience》というバンドを率いていたことが判明。その2018年のスタジオライブ映像が、つべにアップされている。

これがまた、ちょっと実にアレな演奏で。ボヤーッと聞いていたらいちおう唄ものなんだが、しかしスタジオ内には、歌手の姿が見えないぞ?
……唄の要素はサンプリングであり、それをVV氏がマシーン操作でアタマ出ししているのだった。
調べてみたら、これのもと曲は、ジョルジャ・スミスというR&Bの歌手による「オン・マイ・マインド」(2017)。そのアカペラ部分をサンプリングして、伴奏をかってに付け足した、というものかと考えられる。

しかし何度も言うけれど、エビにしろコレにしろ、《伴奏》ということばが、ぜんぜん適切でない。アンサンブルのどこに注目するか、それは聞き手の自由に任されている。そしてその自由を支える構成力と表現力の尊さ、すばらしさ、ということを訴えたいんだよね。
そしてそういう《地と図》のゲシュタルトの崩壊寸前、その地点での快感を演出すること。そこらがさっき述べた、ある時期のマイルスっぽさでもあろうかな、と。

とまでを見てから、エビ・ソーダの過去作らを聞き直してみると。演奏そのものはそれほど変わらないが、しかしサウンド処理の大胆さは、『うぐぅ』の域までイッていなかった。
すると今後のエビちゃんズは、才人VV氏の指揮下、ますますカオス寸前のスリルを追求していく流れなのだろうか。オレはかってにこのアルバム『うぐぅ』を、かの植草甚一氏──〈快的混沌状態の耳きき〉を自称していたお人へと、捧げたい。