エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

Phil Tomsett: The Sound of Someone Leaving (2020) - 消える行為が空気を揺らす

イングランドアンビエント・クリエイター、《Phil Tomsett》さん()。別名義の《The Inventors Of Aircraft》をあわせ、かれこれ10年以上の活動歴があるもよう。
しかし、地味だった感じは否めず。アンビエントってのがさいしょから地味なんだけど、その中でもまた、ね。

けれどその2020年の最新アルバム、“The Sound of Someone Leaving”──全10曲・約43分を収録──、これはすごくいい。たんじゅんに聞いて愉しいし、しかも新しみがある。

何が斬新なのかって、ナマっぽいコーラスの響きをエレクトロニクスと組み合わせた、ハイブリッドで奥行きある清澄なサウンド。これがユニーク。
じっさいこのコーラスの扱い方がひじょうに洗練されたもので、たぶんサンプリングだと思うんだけど、しかしどうやって処理してるのか見当もつかない。あたりまえだが、シンセのよくある〈Choir〉とか〈Human Voice〉とかのプリセットトーンを使ったんでは、こんな深い音にはならない。

そしてそのコーラスの清らかで重層的な響きがしばしば、あのルネサンスの宗教的合唱曲くらいの崇高さにまで、いたり加減。もともと自分が、そういうジョスカンデュファイあたりをすこるので、そのツボをグサリと突かれちゃったんだよね。

あとそれと、Bandcampページの作品解説が──誰が書いたものか不明だが──ちょっとした名調子なので、少し引用しておきましょう。

トムセットの音楽は、完全に消える寸前の、優美で薄っぺらなものです。
音楽が一連の軽いアンビエントタッチのトーンを流れるとき、不在の痛みを感じることができます。音楽は空中に浮かんでいるので重力に逆らうようで、ボーカルは遠くに響き渡り、彼女の声を思い出します。
誰かがもうそこにいないとき、空のスペースは感情的な力で満たされます。まるで消える行為が、空気のような、超自然的な署名を残すかのように。

(グーグル翻訳より, 任意な抜粋)

今アルバムのタイトルが述べている、《誰かが去る音》ということ。そのテーマの味わい方は、各自の心におまかせするとして。
それにしても、アンビエントやネオクラに興味がおありの方々には、ぜひご一聴をオススメしたい傑作だと思うんだよね、これが。