ポ  サ  研

─ Post-Truth Sound Lab, Vaporwave / Désir Duplication Répétition ─

ALL CAPS AND αւτ kεÿ CΘᕸEᔕ™: ひどく翻訳日本語の文字 (2013) - 《Broporwave》とは何か?(追記あり)

どこかで目にしちゃった気になることば、《Broporwave》。読み方は仮に、ブロパーウェイヴとしておくけれど。
これはいったい、どういう意味なのだろう?

その秘められた《意味》を自分が知っていると愉しいんだが、実はあんまり分かっている気がしない。ただ、うちらのヴェイパーウェイヴにちょっとは関係ある、それだけは確かそう。

──そのていどの認識で記事を書いちゃうって、無責任? でも何だか気になっているんで、オレなんかよりモノを識るお方が「それは……」とご教示くださることを期待しつつ、分かった限りのことを書いておくんだよね。

まず、Bandcampというセカイの中に、《Broporwave》というタグを打たれたアルバムたちがある。その数は、そんなに多くはないけれど。
そしてそのほとんどの例で《Vaporwave》というタグが併用されているので、両者に関係が何もないとは思えない。
だがしかし。それらのアルバムらをザザッと聞いてみても、それぞれがヴェイパーではあるのかな、という感想にしかならず、《ブロパー》の要素が把握できない。

というわけで、困惑した。では、サウンド面をいったん離れ、ことばの側面から調べてみてはどうだろう。
だがしかし。《Broporwave》とはこういうもの、というストレートな説明は、英語のネット上に発見できない。多少の言及は存在するが、でも説明にはなっていない。

いっぽう英語の俗語で“Bropo”とは、一種のゲイ的な人間関係を言う場合があるらしい。また、“Brother Police”の略語でもありうるらしい。かつまた、いわゆる「連れション」的な意味にもなるっぽい()。

──と、分からなすぎてイラッとしちゃうけど。しかしその反面、ひじょうにはっきりしていることがある。
(…ということを書いてしまったが、実はそんなにはっきりしていなかった。この記事の文末の追記を参照してネ!)

それは、ブロパーウェイヴを名のる音楽の第1号が、2013年の「ひどく翻訳日本語の文字」というアルバムだということ。その収録トラック2曲めのタイトルに、ズバリ《Broporwave》という語が出ているんだ。
これの作者の名は、《░▒▓【ALL CAPS AND αւτ kεÿ CΘᕸEᔕ™】░▒▓》。在フロリダという設定以外はまったく素性が不明、かつこの1作でしか知られないお人。

そしてこのアルバムがブロパーウェイヴの、ほとんど“すべて”なのではなかろうか。自分はそういう感触を得たのだった。そうしてこれが、どういうアルバムなのかというと。

説明しすぎてはつまらないと思うけれど──ゆえに誰もが、ブロパーとは何であるかを説明“しない”のだろうか?──、このアルバムは、一種のパロディ作品であるもよう。2013年という当時、ちょっとだけ話題になっていたヴェイパーウェイヴとかいう音楽、そのスタイル等々を、ドギツくパロっている気配。

そのアルバムのタイトルやカバーアートからしてオレらへのイヤミだが、また曲名らにも、皮肉と悪意がぞんぶんにあふれている。その一部を、ザザッとご紹介すれば──。

オレはすべてのブロパーウェイヴを日和見Audacityで演る
昨夜オマエのカーチャンを、オレの千×ポで“エコジャム”してやった
ヴェイパーってよりか、“ゲイ”パーウェイヴ
ダフトパンクになりたくてサイドチェーン・コンプを超必死
要するにヴェイパーとはダイア十・口又の唄をスローダウンしてみるだけ
ヴェイパーウェイヴの死に捧げる哀歌

このさい説明を続けてしまうと、制作関係の用語がふたつ出ている。まず“Audacity”とは、デジタル音声加工用のすぐれたフリーソフトで、ヴェイパー界でも活用されているらしい()。いっぽう“サイドチェーン・コンプレッション”とは、ダンスミュージックに迫力を出すためのサウンド処理。

そしていちおう音楽内容にも、タイトルらに即したところがある。「“ゲイ”パーウェイヴ」の楽曲は、おそらくゲイ・ポルノビデオの音声のカットアップ。ある海外のファンは、このトラックを評し、〈LoLで禿藁、“草”生える!〉と賞賛しているけれど。
そして「サイドチェーン」のトラックは、イケてるはずのサウンド処理に失敗し、音声がボコボコしてヘンになっている。ダフトパンクには、なれなかったっ……!

そして「ダイア十・口又」は、おおむね皆さまのご想像のとおり。あの有名すぎる楽曲を、その展開につれ、だんだんにドロロ〜ンと遅くしている。どれほどの遅さをお望みですか

そんなんが続いたあげくのラスト曲、「ヴェイパーウェイヴの死に捧げる哀歌」は、何やら異様にモッソ〜リとしたヘンな音の8分間。
これは再生スピードを約4倍まで上げてみると、原曲がどうでもいいようなR&Bの何か、ということが分かる。いや、こんなんで送られても、逝くにイケないような気分ですけど?

さて。この23分間ほどのアルバムは、《音楽》としたらホメるところがそんなにないっぽい。つか、しようのない安易なこさえものかのようにも思えるんだけれど──。
だがしかし、ヴェイパーウェイヴ自体に本来、これに近い安易さがあるということを、否定ができない。むしろマジメにキッチリと造ったりしたら、ヴェイパーらしくは聞こえなくなってしまいそう。

なので、うちらにしてみたら実に、痛くてカユい作品であるのかも。ヴェイパーのパロディもまたりっぱなヴェイパーである、ヤッていることの次元がどうにもあまり変わらない、〈メタ言語は存在しない〉、といったことらは認めざるをえない。

で、ここに示されたような見方の存在を、意識はしながら。うちらは自分らのテキトーで安易な悪ふざけらの中に、どれだけの《違い》を──ウィットのクールなシャープさを──提示することができるのか。
そしてこんな、2013年という誕生して早々の時期に、いきなりその死を宣告されてしまったヴェイパーウェイヴ。追ってその、《ノーフューチャー》という名の果てしなき現在を、アンデッドさながら的にカラ廻りさせ続ける──、そのためのエネルギーをオレらが注入し続けなければならないが。

と、いうわけで「ひどく翻訳日本語の文字」というアルバムが、傑作じゃないけどヘンに心に貼りつくものとして、あり続けている。……そこまでは、まあイイとしても。
だがしかし、その宣言し樹立した《Broporwave》の意味を、いまだ分かった気がしないっ! 悪ふざけに対抗する悪ふざけ、悪趣味にぶっつける悪趣味、くらいのニュアンスを受け取っておくだけでいいものなの?

そのいっぽう、現在ブロパーウェイヴを自称するヴェイパー者として、日陰で少しだけ目立っているようなイデアル Corp.》というバンド()。その近作のアルバム2コくらいは、ワリとイイのかな──、という気がせぬではないが。
けれど、それを聞いてもブロパーの意味は、あいかわらず分かった気になれないっ。よって事情を識る方々の、ご教示ご指導ご鞭撻を、切に希望しながらこの話は終わる。

赤い薔薇の花ことばは、「美」「情熱」そして「愛」…

【追記】追ってもう少し調べを続けたら、書いていることがあまり正しくないような気がしてきた。《Broporwave》という語の発明者がオール・キャプス・アルトキーさんだと書いているみたいだけど、どうもそうではないっぽい。自分が想像する限り、こういうことがあった感じ。

──2013年の初夏、第1次ブーム渦中のヴェイパー界に、《Broporwave》という概念がフッと提唱された。さして実体の定かでないものだが、ニュアンスとしてはゲイっぽく、かつヴェイパーよりもさらにヒドいものとして。
それがびみょうに話題を呼んだところに8月、〈おまーら、えー加減にせー〉くらいの感じで、「ひどく翻訳日本語の文字」というアルバムがポストされた。並みのヴェイパーよりも、さらにヒドいものとして。実体のなかったブロパーに、そこで実体が与えられてしまったのだ。

で、やがてブロパーの話題が通りすぎてしまうと、残されたこのアルバムが、ブロパーウェイヴという過去のムーブメントの代表作にも見えてくる。そこに自分は、あっさり喰いついてしまったのかも。