クラフトワークの結成メンバー、フローリアン・シュナイダー氏を追悼(1947-2020)。ということで、オールドスクール・ジャーマン・エレクトロニック特集を開催中。
そして今回は、その第2弾。ジャーマン・エレクトロニックの歴史上には「クラスター」と呼べるバンドが3コ存在し、順番からして《Kluster》、《Cluster》、そして《Qluster》。ややこしいんだよね。
そしてそのすべてに、ハンス-ヨアヒム・ローデリウス(Hans-Joachim Roedelius)という人が、関わっている。ゆえに3コは、兄弟バンドみたいなもので。
そしていずれも評価が、きわめて高いもよう。このジャンルの内部的には、少なくとも。
で、順番からして長男みたいな“K”のクラスターからご紹介、とイキたいんだけど。しかぁ〜し、これがまた実に恐ろしい音楽なんだよね。
聞いての印象をすなおに言うと、邪教でなければインケン隠びな秘密結社の秘儀・祭儀、そんなイベントにうっかり立ち会ってしまった感じ。つまり、文字通りの“カルト的”なしろもの風味。
そのやべーブツらをやや細かくチェキる前に、まず、クラスター一族の流れをざっと見てみると……。
“K”のクラスターの歴史は1969年、コンラート・シュニッツラー(Conrad Schnitzler)を中心とし、そこへローデリウスとディーター・モービウス(Dieter Moebius)を加えた3人で始まった(らしい)。やがて71年にこのトリオは解散、残したアルバムは、ライブ盤を入れて3コ(と見ておく)。
そしてローデリウスとモービウスは、“C”のクラスターへと移行(☆)。休止期間もありながら2009年まで活動し、安定した高い評価をかちとった。ことわりなしに「ジャーマンのクラスター」と言われたら、通常はこれを指す。
追って2010年、ローデリウスは“C”のクラスターの解散を宣言。そして若いミュージシャン2人を率い“Q”のクラスターの活動を開始し、現在にいたる(☆)。そのサウンドは、“C”とそれほど変わらない(と見ておく)。
ちなみにシュニッツラーは2011年、モービウスは2015年、それぞれ物故。この亡きふたりの分まで、ローデリウスさんの今後末永き活躍を祈らずにはいられない!
……で、やっとこれから、“K”のサウンドをチェキっていくんだけど。
その3コのアルバム、“Klopfzeichen”(1970)、“Zwei-Osterei”(1971)、そして解散後に出たライブ盤“Eruption”(1974)らについて──。
まずその楽曲らがすごく長い、アナログ時代の言い方で「片面1曲」。だからアルバム3作で、全6コのトラックがあるのみ。
しかも、ドロッドロにグチャグチャした暗黒そのもの的な内容で。聞いて憶えるようなメロディが存在しないどころか、何拍子なのかさえもよく分からない。
かつ、〈エレクトロニック〉と申しますけれど、しかしモロにシンセサイザーみたいな音はほとんど聞こえない。いっぽうでいま言う“ダブ”っぽいサウンド処理があるが、しかしそれが、聞く楽しさに結びついているかどうか。
そしていちばんイヤなのは、スタジオ盤の2コについて、その“A面”相当の曲らに、何か禍々しいドイツ語の呪文みたいのがブツクサと入っている。何なの? これが実に威圧的というか、もォほんと恐ろしい……!
なお、ドロ〜リグチャ〜リの混トンとした即興(?)みたいなサウンドという点では、シュニッツラーが並行して関わったバンド《タンジェリン・ドリーム》の1stアルバムも近い。とすると、ヘンな音を出していた主犯はコンラートなのか?
オレの考えますに。初期ジャーマン・エレクトロニックの重要バンド、そのふたつの立ち上げに関わったシュニッツラーは、宇宙開びゃくをもたらすカオス的エネルギーの持ち主、だったのかも知れない(☆)。
そして彼が去ったのち、“C”のクラスターもタンジェリンも、カオスからコスモスへとサウンドの整理がじょじょに行われ、そしてそれぞれの安定期に移行した。それはそれでいいんだが、しかしゼロから存在らを生み出したビッグバン、その起爆者の功績はある感じ。
かつまた。この数日間、“K”のクラスターのサウンドをず〜っと聞いていて(!!)、フと思うんだけど。
……音楽を聞いて「分かる」とか「分からない」とか、ついつい言っちゃうが。しかしいったい、それはどういう意味なんだろう?
楽曲の構造性が理解できる、それはもちろんあるけれど、しかしそれなら面白い、ということにはならないよね。
まったくもって分からないけれど、しかし何か心をひかれてしまう、退屈はしない。そういう音楽もあるんだなあと、“これ”に対して感じ入ってるんだよね。ずいぶんのむかし、モートン・フェルドマン(☆)に対しても思ったことなんだが。
そしてこの“K”のクラスターについて、ドイツ式ヒッピーのサイケ運動、それと現代音楽のライブ・エレクトロニクスの影響、そういった見方からの分析もできそうだけど。しかしそのへんは、かしこい人々に任せた。
すごくヘンだが、何か気になる響きがある。自分としては、それだけを言っておきたいんだ。
そして、“K”のクラスターのアルバム3コのうち、1971年に録音されたライブ盤“Eruption”。これがいちばん瞑想的というか、威圧的ではないサウンドを誇る(?)。
ゆえに初心者さまには、まずそれがオススメ……かも知れないな、と……。
【おことわり】ここに出てくるようなドイツの人たち、その名前らの読み方をちょっと調べてみたんだが、即行で絶望に導かれたんだよね。
ローデリウスではなくリーデリウスだとか、またクラウス・“シュルツ”ではなく“ショルツァ”だとか。ヘンに正確さを期すると、誰のことだか分かんなくなっちゃう!
ゆえに定着してしまっている読み方は、今後だいたいそれで通すことに。そのことをご了承ありたしなのよ〜。