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蔵石ユウ/白山一也「絶望集落」 - 気ィつけれっ! “村”と“島”にはご用心ッ!?

今2020年3月からのマガジンポケット新連載、モンスターパニックホラーまんが「絶望集落」──。
これをばくぜんと見ていて印象的だったことは、まず高校生であるヒーローの名前が三沢くん、その親友が田上、学園のダニ的ヤンキーが川田、そしてヒロインらしい少女は鶴田の知海(ともみ)ちゃん……。

さては全日派だなオメー!?
まあオレもそのようなものなんで、それは別にいいですよ。というか、むしろイイ。

いや、あえて説明すると、ここでは、よかった時代の全日本プロレスのレスラーたちの名前らが流用・借用されているのだ……! そのうちには馬場さんや天龍あたりも登場するのか……?
とはいえまんがの内容はプロレスとは関係なさそうなので、たぶんそこらは一部読者のささやかなお楽しみ要素、と解釈して。

そこで物語のほうを見てみると──。現代日本の閉塞感の立ち込めた地方都市、その山沿いの辺境に、猿っぽいバケモノの群れがひそかに出没し始める。
運悪くそれに遭遇しちゃったら、男は喰い殺され、女は犯される。この怪物どもは、柳田国男遠野物語に記述された妖怪《経立(ふったち)》なのでは、との見方が示される。

そしてさいしょの犠牲者のひとりが三沢くんの姉で、生命には別状ないが精神に異常をきたしてしまった。いっぽう鶴田ちゃんは狩人(マタギ)の孫娘なので、その感覚で鋭敏に、山の異状を察知はしたけれど……。
といったあたりで、現在・最新の第3話が終わって「つづく」。

──さてここらで思ったんだけど、まんがを筆頭に現在、《イナカの恐怖》を描くホラー作品が多いよね? そんな気がしない? 《GANMA!》掲載中の「人形峠」あたりもオレにはけっこう印象的だし()。

そしてこの領域の最重要なキーワードが、“村”“島”。「△△村」や「××島」みたく、モロそれらがタイトルに出ているものも多数。今作タイトル中の「集落」も、“村”を言い換えたようなものと現状では思える。

こういう傾向の近代的な元祖は、横溝正史の名作ミステリー「八つ墓・村」や「獄門・島」あたりなのだろうか。ただし恐怖を描いているにしても、横溝作品らはいちおう合理的なお話だった。
がしかしそれが、妖怪やユーレイや吸血鬼、忌まわしい淫祠と邪教、またはフィクションの病原体や寄生虫──、そういう要素らまでをアリにしてしまったら、あとはもう“すべて”をヤリたい放題だぜェ。イエイッ

かつまた。自分も横溝作品の、金田一探偵シリーズくらいはすべて読んだと思うが、その率直な感想、都会が舞台の作品らはあまり印象が強くない。
ドロドロした土俗性と閉鎖性がきわまったイナカのお話ら、そればかりがくっきりと心に残っているんだ。シリーズ内の各割合は、まあ半々くらいかと思われるのに。

まあそれほどに《イナカの恐怖》は、なぜか強すぎる説得力とインパクトを持っているものらしいんだよね。

そのいっぽう、都市が舞台のホラーも、絶対数は少なくなさげ。がしかし、それらを見ていて、「都市だなあ……」と意識する受け手は多くはないのでは。
すると背景そのものが印象的だというポイントで、《イナカの恐怖》にはさいしょから大きなアドバンテージがあるのか。仮にタイトル案だけで検討してみると、「屍獣鬼都市」よりは「屍獣鬼村」のほうがキャッチーなのだろうか。

いや。もっとはっきり言ってしまえば、イナカがイナカであること、社会的には閉鎖的、歴史的には土俗的、それがすでにきわめて恐ろしい。こんなでも東京ビトである自分は、正直そう思う。“村”と“島”とは、その恐怖をプンプン匂わせてくるキーワードだ。
まあ、オレの感じ方なんかはどうでもいいとしても。だがしかし、“村”と“島”とがホラー界を席巻しているそのイキオイ──という事実はありそうに思えるんだよね。

そうしてその中、ご紹介してきた「絶望集落」は今後、どこまでの恐怖をオレらに味わわせてくれるのだろうか……?

赤い薔薇の花ことばは、「美」「情熱」そして「愛」…

付記。自分のつまらない常識的な見方だと、男を殺し女を犯す伝説の妖怪《経立》なんてものは、むかしの山賊か何かの言い換えか見まちがいだろう、くらいにしか思えない。その行動の原理が、どうも俗っぽくて。
しかしこの「絶望集落」というお話が、そんなバケモノが実在したらこえー、くらいの感じから始まるのはとうぜん構わない。そしてその「こえー」の感覚を、どこまで拡張していけるのか。