エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

from tokyo to honolulu: Selection 1 - 4 (2018) - 夢のハワイへのご招待! 提供は口ー卜製薬っ!?

《from tokyo to honolulu》、フロム・トーキョー・トゥ・ホノルルを名のっているヴェイパーウェイヴ・クリエイターが存在し、2016年から活躍中()。
そしていきなり失礼なこと言っちゃうようだけど、「この人は、2014年から活動しているヘアカッツ・フォー・メン()、その別名義じゃないのかな」……と、一時は考えてたんだよね。

なぜってこのご両人、いろいろと符合するところが多いと思ったんだ。

まず音楽的に、かなり近いスタイルのヴェイパーホップである。次に、カバーアートらのグラフィック的センスも似てる。かつニホン語の曲名らも似てる、喪失感とかを匂わせてくるところが。
そして、ホノルル在住と称するヘアカッツさんとおそろいで、芸名がホノルルだ。さらにまた、作品の発表ペースがすごく早い、きわめて多作であることも類似。

だけれども、その同一人物説は、すでに自分の中で引っ込めたんだ。なぜならば、ご両人の多作ぶりが、あまりにもイキすぎて加速して……。
そこで、こうとしか思えなくなった──「いくらゼロからの創作ではないにしたって、しっかしこれほどの量を、一人の人間が作って管理しきれるワケがないっ!」。

さらにいま調べたら、フロム・トーキョーさんの本名は《Anton Mertsalov》だと、Discogsに書いてあったんだ。名前からすると、ロシアの人なんだろうか。
あちらでメジャーなSNS《VK.com》にアカウントがあるあたり、確かにロシアっぽいんだよね()。そこで彼はヴィジターさんとロシア語で会話してるしね、内容は分からんけれど。

そのいっぽうのヘアカッツさんはというと、これがまた本名《Andre Maximillion》であると、Discogsの人が言っている。この名前は……分かんないけど、フランス系のアンドレ・マクシミヨンさんなのか? 響きが重くて、貴族みたいだが。
さらになんと彼の顔写真まで載っていて、見ればヒゲむじゃのシブいアンちゃんである。まあそれこれで、やはり別人、と解釈しておく。

いやしかし、ところが? フロムトーキョーさんについて、やや念入りに調べてみると、似てるというならあの《テレパシー能力者》に似てる点もかなりある()、とくに初期は似てた、と気づいてしまう。
まず、VHSビデオからキャプチャしたようなモワッとしたカバーアート。そして、10分間以上にもなるような長い楽曲らのスタイル、等々々。

ちなみに後者の特徴、「いにしえのポップス等のサンプルをスローダウン&音質劣化&ループさせて長ぁ〜い楽曲を構成する」──。このスタイルはヴェイパー業界において、《Slushwave, スラッシュウェイヴと呼ばれているもよう。
そしてその創案者はテレパシーさんであろうと、一般に考えられている。このワードはフロムトーキョーさんのお気に入りであるらしく、本人発の情報に《Slushwave》という語はよく出ている。

じゃあ、ここらでもう強引にでもまとめてしまえば? フロムトーキョーさんのBandcampページのアルバム一覧、その上のほうの近作ら(2018-)を見れば、サウンドもグラフィックもヘアカッツ的である。そのいっぽう、下のほうの過去作ら(-2017)を見れば、おおむね同じくテレパシー的である。

……それじゃあまるで、ただのマネしっ子じゃねェかッ!?

ただしこのヴェイパーウェイヴと呼ばれる餓狼陰獣の世界にて、ヘンにオリジナリティを語ったりしてもお笑いぐさでしかないんだ。コピーキャットのマネしっ子、大いに上等なんだ。

さて、フロムトーキョーさんの2018年発、“Selection 1 - 4”というシリーズはベスト盤的なものだろうか、全4作あわせて3時間近くになる「セレクション」。これを中心にオレは現在まで、彼のトラックらに計24時間くらいは耳を貸してみた。いや、もっと長時間のようにも思われるけど。
で、結論、「聞くに十分値するだけのクオリティが実現されている」。いや別に“聞いて”もおらず、流しているだけかも知れないが、しかしそれでもいい。

てのもサウンドにトゲトゲしいところがないし、ネタ選びやサウンド処理のセンスもいい感じ。まあ少なくとも、ヘアカッツ/テレパシーらのアブノーマル音楽を悦んで聞いてるようなヤカラには、これもまたアリであろう、くらいの品質はあるなと。
モデルとなったみたいなアレらを超えている点はもちろんないんだが、逆にその分ヘンな主張がなくて、むしろ聞きやすいくらい。あまり過剰にはならぬよう、うまくまとめているな、と考えられる。

赤い薔薇の花ことばは、「美」「情熱」そして「愛」…

──ここらで正直に言ってみれば、オレちゃんの中にも古くさいオリジナリティ信仰が、いまだある、ということに気づかないではいられない。フロムトーキョーさんによるトラックらのスタイルが、あれやこれやに似てるということに、マインドで「引っかかっている」のを否定はできない。

けれど。フロムトーキョーの2017年のアルバムユートピア、そのラストトラック「気体化」は、щ卞達郎「$ραгк1э」(1982)を、テレパシーもどきの《スラッシュウェイヴ》に仕立てたものだが──。
それを聞いてたらついうっかり感動しちゃったんで、じゃあやっぱりイイのかな、との確信にいたる。だがその《感動》とやらをさせてくれた人が、このさいはいったい“誰”であるのか? そこらがボカされたままで、それがまた実にイイ。