エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

Mute Channel: 黄昏のカーニバル (2014), Garden (2016) - 資本主義の神へと捧げる祈り

ヴェイパーウェイヴのサブジャンルもろもろの中で、最もチン妙感の強い部類に入る《シグナルウェイヴ》。要してしまえばそれは、テレビのCMの音声やその類似物らのサンプルをフィーチャーしてる系のヴェイパーか、と自分は理解。

で、ご紹介する《ミュート・チャンネル, Mute Channel》は、近年のその系統を代表するヴェイパー・クリエイターの一人である風。2014年から現在までに、日本を拠点とする《チャイロディスク》レーベル()から5コくらいのアルバムを出しているもよう。

で、シグナルウェイヴなので、CMっぽい音声を使ってるわけだけど。それにあわせてこの人の作品らの特徴は、スローダウンの激しさがものすごい。

思い起こそう、関連記事()で取り上げられた《新しいデラックスライフ》や《New Dreams Ltd.》らのシグナル古典では、スローダウン手法はそんなに用いられていなかった。ところがミュート・チャンネルによるシグナルでは、半速くらいへのダウンはザラであり、さらには3分の1くらいまで落としている場合もありそう。
そのきょくたんに遅まって低まったサウンドを、さらにEQでナマらせ、リバーブでスムースにしているので、言うまでも、なく、きわめて、眠い……。モヤけて眠たい、響きが、演出される。

そうしてサンプルが日本のテレビのCM等であるので、この感じはアレだ。夜も遅く眠いのにムリしてテレビを見ようとしているが、いつしかそのまま寝入ってしまう、そのときの、意識を失いぎわの耳に残る響きに近い。その快いような心細いような感覚が、ずっと引き伸ばされた延長として持続される。

サンプルの選び方にもちょっと特徴があり、あまりアッパーなものは使われていない風。もともとが、言うならばダウナーだったりラウンジーだったりしているネタが多いのでは。
そしてニホン語が分かる場合、〈髪にツヤと潤い〉、〈素肌を整え〉、等々と女性の肉体に関するらしい宣伝フレーズがけっこう耳に入ってくるので、それが何かおぼろげに官能性みたいのを匂わせている感じもある。

そういうものとして2014年のアルバム“黄昏のカーニバル Carnival of twilight”の完成度はすでに高いのかも。いっぽう、それを追った2016年の“Garden”は、またちょっとトーンが違う気が。
このアルバム“Garden”のちょうど真ん中に置かれた“New Tax”は、〈4月1日、消費税が……UP! New Tax!〉という実に腹立たしいアナウンスを用いたトラック。しかしなぜなのか、それをきっかけに、以後のムードが宗教っぽさへと転じ、祈りや瞑想みたいなふんいきがじわじわと高まっていく。
そしてついには、さいご壮麗なるカンタータめいた楽曲で一大フィニッシュへ。しかしよくよく聞いてみれば、その輝かしき賛美の祝典のエヴァンジェリストは、〈ビール職人が作りました、キリンの〉……うんぬん、とかいうあさはかな宣伝をしてるばかり。

だが、そうではありつつ、そのふんいきの奇妙な高さは、まるで資本主義の神へと捧げる真しな祈りかのよう……などとも感じさせられてしまう。奇妙だが。
ただし《資本主義の神》ってもここにましますは、世界のマーケットを左右しているほどの大物ではなさげ。「あしたも変わらず百均ストアや最寄りのドラッグストアで、オトクな買い物ができますように」──ああ、商品経済よ、とこしえに──、そんなていどのわれわれ庶民の願いを、まあ聞きおいてくれるくらいのソレの降臨の気配。