エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

S E L F - B E I N Gの減価償却: S a v i n g s 貯蓄 (2018) - 放棄されたショッピングモールに最適化された音楽

ヴェイパ!(ごあいさつ) みんな、Vaporwave聞いてる〜? 聞いてない仔はイくないぞぉ〜、チョメっ!
ふぅ…。さてこの、「S E L F - B E I N Gの減価償却を名のるバンドのアルバム「S a v i n g s 貯蓄」。これについては出くわし方を憶えてて、在マーシャル諸島というレーベル「Palm '84」のBandcampページ()を見に行ったら、その上の方に出ていた。で、ジャケ買いじゃないけど、スリーブの写真がいいと思ったんで、聞いてみようかという気になった。

ご存じのように、「放棄されたショッピングモールらに最適化された音楽(Music Optimized for Abandoned Malls)」とは、RedditのVaporwave板()のスローガン。むかしからそうなのかどうかは知らないが、少なくともいま現在、ブラウザのタイトルバー等に見えている標語。
そしてここに、まさしく放棄され廃墟となり無人化したモールの観葉植物が、かってに茂っているという「S a v i n g s 貯蓄」のジャケ写真。それで、「おー、ここにヴェイパーの真髄があるのかも?」と、思い込み期待してしまったわけなのだが。

◇ショッピングとセービングをお楽しみください◇

聞いてみてじっさいどうだったかというと、なぜかそれが、前記事の「ベルベット73-95: ベルベットの罪悪感//ベルベットの栄光」)に似ていると感じられた。いや実はそんなにも「なぜか」ではなく、これらのような愁いあるMallsoft作品を自分は根本的に好きなので、それらを嗅ぎつける感覚が、ちょっと身についちゃたのかなと。

で、その似ていると思えるポイントらは、まず、今作では10曲も入ってたったの約13分間、というコンパクトな構成。さらに、1980's臭のするラウンジっぽいサンプルらを強力に音質劣化させる、という方法。そしてもちろんMallsoft特有の、華やぎ、享楽の匂い、そして憂愁と寂涼感、それらが併存している、その感じがグッド!

そして両者には異なる点もあり、音質劣化の操作においてはベルベット73-95のほうがハード、わりと手間かけてひどい音を作っているようだ。それに比すれば今作「S a v i n g s 貯蓄」のほうが、やや耳に甘い響きになっている。原曲のテンポをそんなには落としていないという点が、こちらの響きの印象を作っているのやも。

それと。「ベルベットの罪悪感//ベルベットの栄光」については、タイトルが「罪悪感//栄光」というだけに、規範や倫理といったものが、作品のどこかで問題になっている。具体的にはどういう問題か分からないにしろ、しかしそういうムードが感じられる。
いやこれはまじめなだけの話ではなく、《罪の味の甘さ》というものも存在する、そういう意味だ。に対し、S E L F - B E I N Gの減価償却にはそういうスタンスは感じられず、もっと感覚的なアプローチなのでは。

と、いま、こともあろうにヴェイパーに関連して「規範・倫理」とかいうことばが出たが、しかしもともとVaporwaveは批判的アチチュードの文化運動なので、根本的にはそれほどヘンじゃないはず。しかも、そういうところを意識しなくても楽しめるようにできている《POP》だということ、そこがいい。

◇従来製品よりも快楽二倍のバイバイン効果?◇

さてこのS E L F - B E I N Gの減価償却というバンド、本人のBandcampページ()があるので行ってみたらびっくり。まだそんなには名前が通っていないアーティストだと思うんだが、にもかかわらず、すでにアルバムが30コ以上も発表されている(別名義などを含め)。
しかも、その中の古い作品でも、制作年は2017年であるもよう。いま2018年暮れなので、つまりたった約2年間にこんな大量のものを!? 見ていてまるで、いままで喰ったパンの枚数をチェックしている気分になった。

で、何かと無意味に念入りなことをしがちな自分は、その大量の中の目ぼしそうなものを選んで、さっきからず〜っと聞いているんだが…そこにとくべつにいいものが、あるんだかないんだか…。意外とスタイルが一様ではなく、シンセでちゃんと作ったような曲もあったり、またヘンに長い曲もあったりするとは分かったが…。

で、そのヘンに長い曲らを8コ集めて演奏時間は80分以上、という「一目ぼれ」(2018)は、やや注目に値するアルバムであるかも。何らかの既成曲らを極限にまで遅くして引き延ばした、恐ろしいまでにドロ〜ンでダル〜んなサウンド。ただこれが、なぜか気持ちよくないでもない。
ちょっと分析すると「一目ぼれ」収録の楽曲らは、再生スピードを倍速くらいにすると、ややふつうの音楽、元のサンプルはこうだったのか、という感じに聞こえてくる。ただしジュブジュブのリバーブがかかっていることに加え、低音がごっそり抜けたスカスカの音になっている。
これはおそらく、半速で再生するとすれば音程が全体に1オクターブ低まる、すると低音がドロドロに過剰な聞きづらい音になる(やってみると確かにそうなる)。ということから、どこかの段階で元の低音がカットされるという思いやり、心使いがあったのだろうか。

にしてもこのやたらに遅くするという手法、Vaporwaveの古典的常套手段だけど、いま調べたらご存じマッキントッシュ・プラスの「リサフランク420 / 現代のコンピュー」(2011)について、再生速度は原曲の4分の3くらい。それを半分とは大胆なほうかも知れないが、おそらくまあ他にも例がないではなさそう。
がしかしわれわれは、いったい何を考えて、そんなかったるいサウンドに耳を(半分くらい)傾けているのだろうか。もとから気持ちがいい音楽を半速で再生すると、楽しい時間は二倍(!?)、という幼稚な計算。または、目の前のとりあえず現前している快楽を、できるだけ長く引き延ばして味わいたい、その引き延ばしの処理による変質は考慮に入れない…というわれわれの――ひいては人類どもの――安易な態度のやさしみある戯画化、そんなものなのだろうか。

ただ、S E L F - B E I N Gの減価償却の作品には困ったものもあって、スティーヴ・ライヒが幼稚園児のころに作曲した木琴ミニマルミュージックみたいのが単調さをきわめながら16分以上も続くトラックあたりは、さすがに迷惑(Cosmic Infinites EP 2018)。1〜2分間の短い曲らについてはそこまでおかしいのはなくて無難だけど、ともあれこの旧作ら全般に、あまりきわだったものが、ない…なさそうな気がする。

と、そんな旧作らはいちおうさておいて、彼(ら)の最新作の部類に入る「S a v i n g s 貯蓄」が、自分内のヒットであった…と。その方向性で彼(ら)が再び、商業主義の崩壊し棄却されたゴミためから何かいいものを拾い出してくれますように。