この記事では、カナダのトロントにベースを置くアーティストである、《CT57》さんの作品らを、ご紹介しようとしています(☆)。
なのですが、まず、少し前おきが……。
米ニュージャージーの《Wizard of Loneliness》は、大きな実績のあるヴェイパーウェイヴ関係のレーベルです(☆)。
そしてそこから出ているコンピレーション、“Vaporwave Up & Comers”のシリーズは、毎年の注目のまと。タイトル通り、有望な新人や若手アーティストたちの作品集オムニバスです。
この新人セレクションは、2018年に第1弾が出て、以後は'20・21・22年と、年に一度の連続でリリースされています。
そして2021年版から、そのキュレーションを、《ᴘₒʟʏɢʟᵒᴛ》さんが担当しておられます(☆)。この人の選曲の傾向に、私は強く共感しています!
さらに最新の22年版は、アルバム全体のマスタリングまでが、このポリグロットさんによるのです。
それがもうみごとにスムースな仕上がりで、コンピレーション特有の曲間の凸凹ギャップ感が、ほとんどありません。全26曲・99分のアルバムとして──“ひとつ”のものとして──ゆったりと、愉しめることでしょう!
と、そういうことですから、この選集は強くオススメです。ぜひ皆さんもこの中から、お気に入りの楽曲やアーティストらを見つけてください。
そして私としても、この中からの強力なお気に入りを、ひとつご紹介させていただきたいのです。
“Vaporwave Up & Comers 2022”の22曲め、CT57さんによる“Radio Network”は、何か恐ろしくローファイ化された、イージーリスニングめいたトラックです(☆)。
もとの素材は、あるいは有名な曲なのかも知れません。ともあれ1970年代くさいサウンド──その美しいメロディ──が、へんなノイズをまといながら、よろよろと再生されています。
これが私には、とてもショッキングだったんですよね。撃たれた感じ!
と申してしまいますと、さきに述べた本アルバムのスムースさ、ということを打ち消すようですが。
それは実にさりげない音でもありながら、しかし怒とうのような、ノスタルジーの奔流に襲われた気がして。
この楽曲について私が感じたのは、《距離》がある、ということです。
もとの素材がおそらく古いものなので、まずはとうぜん、時間的なへだたりを感じさせます。
しかもへんにローファイ化され、ノイズ混じりになっているので──。はるか遠い外国の中波ラジオ放送が、何らかの天候の条件などにより、ごくまれに運よく(?)、受信されているような印象です。
そしてこのトラックが、そういった《距離》らを強く実感させてくれていることに、私はこころよい衝撃をこうむったのです。
……で、その、さて。ボードリヤールさんの述べておられる、《ハイパーリアル》とは、いったい何でしょうか。
むずかしいですがひとつには、そこでの《距離》の滅却、ということがあると思うのです。
すなわち、地球の裏側くらいの遠くでのできごと等を、リアルタイムのハイレゾで視ることができる、その場で体験までしたような気さえする──というような。
さらに。最新のドラマや映画などには、もろもろのテクノロジーを駆使し、たとえば数百年も前の人々の生きようを、あざやかくっきり再現しているように思わせるものも、多くあるかと思います。
まるで、その遠いはるかな過去にじっさい居あわせているような、ユーザ体験の実現に向けて……!
そのような《ハイパーリアル》風の体験らが、いま人々によって歓迎されており。またそのような体験らをベースに人々はいま、自分らの意識やイメージらを構築しつつあるのでしょう。
冒頭の「ブルー・スター」がすばらしい
ただし、そういうものが──そのタッチのフレッシュさは否定できませんが──好ましいだけのものであるのか、どうか?
空間的&時間的な《距離》が、実在しているにもかかわらず、それは否定され無視されるだけで、よいのでしょうか?
ことによると《ハイパーリアル》とは、人間たちを、〈いま・ここ〉という単一の時空だけに閉じこめる──しかも幻想として構築された時空──そんなものだったりは、しないでしょうか?
と、そんなことを以前から考えていたのかどうか、それがもう思いだせませんけれど。
ともあれ、CT57さんによるトラック“Radio Network”が、私にそういうことを考えさせました。
対象の現前のリアルさというハイパーリアルではなく、《距離》の存在をリアルに感じさせるものとして。
そして。そういう想いをいたしてから、われらがCT57さんのディスコグラフィ等を、チェックしなおしますと……。
このバンド名はおそらく、〈第57チャンネル〉という意味のようです。
2021年の暮れから現在までに、5作のアルバム/EPらが発表されています。その作品傾向は、すべて放送めいた演出のシグナルウェイヴです(★)。
そしてそれがもう、この《距離》の感じをグイグイと押してくるものばかりで……。ローファイ化された、遠い、1960〜70'sめいたムード音楽の切れはしのようなもの……。エレクトロ的な響きがほとんどない、という特徴もあるでしょう。
とても悦ばしく、私は好きですね!
CT57: local network (2022) - Lost Distances, Again... Back from Hyperreal
[sum-up in ԑngłiꙅԧ]
In this article, we would like to introduce the works of CT57, a Vaporwave artist based in Toronto, Canada.
But first, a little preamble...
The "Vaporwave Up & Comers" series of compilations on the New Jersey-based Wizard of Loneliness label has been the focus of much attention every year. As the title suggests, it is an omnibus of works by promising new and emerging artists.
And its 2022 edition, curated and mastered in its entirety by ᴘₒʟʏɢʟᵒᴛ. I think it's a great job!
And the 22nd track on the "Vaporwave Up & Comers 2022" album, "Radio Network" by CT57, moved me strongly.
The track has a kind of horribly lo-fi, easy-listening sound.
The original material may have been a well-known song. Whatever the case, the sound was very 1970's, its beautiful melody, and it was played with a strange noise and staggered.
What it strongly reminded me of was the "distance".
Since the original material is probably old, it is obvious that there is a gap in time.
Moreover, it is very low-fidelity and noisy, giving the impression that a medium wave radio broadcast from a faraway foreign country is being received only rarely due to some weather condition or other.
The concept of "Hyperreal" advocated by Baudrillard, it tends to destroy such distances in time and space.
On the other hand, however, this is not the case. I found the track wonderful, not as Hyperreal in the sense of the actual reality of the subject, but as an expression that makes the existence of "distance" seem real.
Now, let me check the discography of CT57 again.
From the end of 2021 to the present, five albums/EPs have been released. All of them are Signalwave with a broadcast-like production.
And they are all pushing this feeling of "distance"... It's like Lo-fied, distant, mood music à la 1960-70's... It would be characterized as having little or no electronic sound.
Very pleasing, I much like it!