《Jorja Chalmers》──ジョルジャ・チャルマーズさんは、英ロンドンを拠点に活動している女性歌手、そしてサックス等のマルチ演奏家です(☆)。
そしてご紹介する『ミッドナイト・トレイン』は、この方のセカンドアルバムです。2021年5月に発表、全13曲・約41分を収録。
──そしてその内容がもう、私が言っている《デヴィッド・リンチ系》そのものなんですよね!
すなわち、メランコリックでスローでエロティック、催眠的でノスタルジック。ここに絶妙にブレンドされた、甘みと苦さ……。酔いしれます!
よって。かのジュリー・クルーズさん(☆)に始まり、そしてクリスタ・ベルさん(☆)らが続いた、《リンチ系歌姫》の称号を、大悦びで私たちは、このジョルジャ・チャルマーズさんにも捧げることができるでしょう(★)。
ジョルジャさんのデビュー作で、これも評価が高かったという“Human Again”(2019)とあわせて、強くご一聴をおすすめします! もしもあなたが、人をあやしい眠みへといざなうセイレーンたちの、蠱惑〔こわく〕の唄声に興味があった場合には。
で、さて。このお話は、以上で終わってもいいのですが、何となくもう少し……。
さいしょ何の予備知識もなく、『ミッドナイト・トレイン』の第1曲を聞いた時点で私は、〈ワシのこよなく好んでやまぬ《リンチ系歌姫》やんケ!〉とばかり、思い込んでしまったんですよね。
そもそもアルバムのタイトルからして、クリスタ&リンチさんによる『ジス・トレイン』(2011)に──悦びをもってしか想い出せない、あのすばらしいアルバムに(☆)──、まあ近いですしね!
とはいえ。当のジョルジャさんが、そんな《リンチ系》なんてことを意識してるのかどうか……とも思って調べ直したら、まあ自供してるみたいな感じでした(☆)。確定です!
けれども。《リンチ系歌姫》らの中でジョルジャさんの少し違うところは、サウンドに電子の味がやや濃いところでしょうか。ポストロック風であるよりは、サックスをフィーチャーしたエレクトロポップみたいなのですね。作りが。
それと。何の予備知識もなかった私は、ジョルジャさんについて、〈やや珍しげなお名前からすると、東欧あたりのお人だろうか?〉、とばかり思い込んだのです。ひとまず。
しかしさっき調べたらそれが、ぜんぜん違っていて!
私たちのジョルジャ・チャルマーズさんは、1982年・豪シドニーの生まれ。まずはサックス奏者として音楽キャリアを始め、やがてロンドンに移住(☆)。
その時期のめざましい実績は、ブライアン・フェリーさんのツアーバンドへの参加です。
彼の《ロキシーミュージック》が〈ロックンロールの殿堂〉に入ったさいのスピーチで、フェリーさんがジョルジャさんの貢献について語っています(☆)。
まさにジョルジャさんが、あのロキシーの『サイレン』(1975)──、セイレーンでもあるのでしょうか。
というわけで。東欧の辺地からポッと出てきたエキセントリックな才能ではなくて、やや意外にも、ポップ音楽のメインストリーム的なところから出てこられたようです、ジョルジャさんが。
にしてもフェリーさんが、また私の崇拝しつづけているスーパーアイドルですから。やはり何か、必然性があったのでしょうか? 《私たち》の、出遭い(そこね)について。
というわけで、おそらくあなたをも含んでいる《私たち》は……。
あのリンチさんの『ツイン・ピークス』が映していた赤いカーテン、その向こう側──。《享楽》と不安、陶酔と恐怖らに満ちていると想定された領域──。
そこにどうしようもなく惹かれつづけ、空気を揺らす音楽めいた挙動らによってかろうじて、その永遠(とわ)のあこがれに形を与えつづけるのです。