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にたもと『隣にりんごが届きました』, 田亀源五郎『僕らの色彩』 - 男とオトコの黄金律

《にたもと》氏による『隣にりんごが届きました』は、今年5月から月イチでwebアクションに掲載中のまんが。その現在の最新章は、第4話。
けれどもそこまで拝読してみて、今作のジャンルが何系であるのか、それはいまだ分からない。
いやまじで。本編にあわせてアオリ文句を熟読しても、分からない。

とはいえ、お話の流れが分からない、ということはない。むしろ明快、と言えそうかも。
そして今作の第4話までは、だいたいこのようなお話だと考えられる。

主人公の《春好(はるよし)くん》は高校2年生、剣道部の主将をつとめるイケメンさわやか男子。
その彼がある晩、夕涼みしていると、マンションの隣室の見知らぬ住人が、ベランダの仕切り越しに話しかけてきた。
そいつがオッサンになりかけの二枚目で、みょうに温かい感じの男。それで春好くんはつい心を許し、問われるまま、自分のことをいろいろ話してしまう。
ただし、言えなかった部分もある。それは春好くんがゲイであり、そして部の後輩の少年《安藤》と、密かにつきあっているということ。

その翌日、隣室の男は《高瀬凛伍(たかせ・りんご)》とあらためて名のり、職業が少年課の警察官と書かれた名刺をよこす。意外にも、怪しい人ではなかった?
で、それから。春好くんは安藤が、だんだんに《重い恋人》になってきたことを、思い悩むにいたる。何かというと、彼の誠実さをテストするようなほのめかしが多く。
このことを、(細部をボカしながら)凛伍に相談するとオッサンは、〈思ったことは、はっきり言うべき〉とアドバイス。それを実行し、どうやら安藤も分かってくれた風。

けれど春好くんは、自覚できているのかどうなのか──? かわいいけどウザい安藤よりも、やさしくてアダルティな《りんごさん》に惹かれていく、彼自身の気持ちを。

──といったようなお話で、ここまではいちおう明快なんだ。

ではあるが。
ここからのお話が、三角関係恋愛ストーリーとなるのか、あるいは意外とサスペンスに転じるのか、さもなくばゲイへの理解を訴えるプロテスト作品になるのか。そういう方向性が、いまだ見えてないんだよね、自分には。
ただし、そこが分からないのでつまらない、とは思っておらず。お話の行き先自体が宙吊りの、まさしくサスペンスなので、やきもきしながら期待させられている、といったところ。

ところで。〈お話自体はいちおう明快なんだが〉、という前置きに再び続き、今作に対して自分はとまどっているところがもうひとつ、ある。
それはこの『隣にりんごが届きました』が、いまの世間でよくあるようなことを描いているのか、いやそうでもないのか、というポイントなんだ。

つまり。古いことから言うと、同性愛を扱ったまんがで、パタリロ!だとかBANANA FISHあたりは、どこをどう考えてもまったくの絵空ごと。ゆえに読者らは、セーフティきわまるエンターテインメントとして、それらを気らくにエンジョイ可能。
そしてそのあたりの流れをくむ、《耽美》・《JUNE系》・《BL》といったレッテルのついたまんがたちも、ほぼ同様。身に迫る要素のない絵空ごとなので、読者らは安心である。性別を換えて、《百合》とか言われる系列もまた同じ。

それらに対する『隣にりんごが届きました』の表現は、まっこうからのリアリズムが意図されたものなのか、それともやっぱり《ホモだらけのBL世界》のお話なのか。
現在はその中間を、ちょっとたゆとうている感じ。そこいらで受容の心がまえに困る──、かってながらそう感じてるのはオレなんだよね。

BLものに耽溺なさっている《貴腐人》さまたちの世界では、〈男が二人いたら即カップル成立、それが黄金律(ルール)!〉……だとかいう話。そうしてオレらの見ている『隣りんご』は、そういう世界のお話なのか。いやそうじゃない、《この世界》のことなのだろうか。

たとえば今作で春好くんは、同じ高校の同じ剣道部の後輩クンと、つきあっているわけだが。しかしそんなでは、この世間におけるゲイ密度が、ちぃっと濃すぎるんでは? まるで、BLの世界かのように?
これがもし、ネットかリアルの《ハッテン場》で彼氏を見つけた、とか言われたら、もっとありそうなお話になるんだが……。とはいえ、そのほうが面白いかどうかは別だけど。

そのいっぽう。同じwebアクションに、ゲイまんがの巨匠・田亀源五郎先生が、長編『僕らの色彩』を連載中であり。こちらの主人公もゲイの高校生くんなので、多少くらいは『隣りんご』と似たようなお話だ、とも言えそう。
で、こちらのほうは、もうさすが。リアリティあふれる描写から、ありうるようなファンタジーへの飛躍、そのステップが実に着実。

だがしかし、堅実でしっかりした創作である『僕らの色彩』のほうがより面白い、とは、必ずしも思わないんだな。
いまはまだちょっとあやふやなところのある『隣りんご』、それが今後どこへどう進むのか。セーフティなエンターテインメントとしてまとまるのか、または、この現実にある痛みを伝える作品になるのか。
そっちのほうを、より楽しみにしているかも知れない──オレは、ね!