エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

世界は80年代に終了しました: EP´s Collection (2020) - 夢の中で別れを告げる あなたに

お知らせします、世界は80年代に終了しました、《世界は80年代に終了しました》

……というすばらしい偽名を名のるのは、素性がまったく不明のヴェイパーウェイヴ・クリエイター、2016年から現在まで活動中()。ちょっとこの場では、《セカシューとでも略称させていただこう。
オレらの尊敬するサンブリーチさんが、その作品らのかなり多くをご紹介されているので、そちらのご一読もオススメです()。まっとうな見方はそこに示されている、と言えそうだ。

そして。そのセカシューの2020年・最新アルバム“EP´s Collection”は──まあタイトルそのままなんだけど──、彼のデビュー作らしき『24時間』から2018年の“Cultural Industrial”まで、やや短めで《EP》と呼べる作品集ら6コ、そのまとめ。
これの前作は、昨19年8月の“The Devil, The Sea & A White Pill”)であるようなので、今『EP選集』はセカシューとして、ほぼ1年ぶりのリリース。でもコンピレーションなので、今20年中にぜひ、EPくらいでも新作の発表を期待しちゃいたい〜!

ところで。世の中のよろずについての幻想を喪ってしまったオレちゃんは、もはやミュージシャンのインタビュー記事とかを読んで、興味深いと思うことがまったくないんだが。
けれど、このセカシュー氏に対してだけは、ちょっと聞いてみたいようにも思う──。

“世界は80年代に終了しました”? あなたホンキでそう思ってんスか? それはなぜ?〉

──まあそんな質問をする機会があったとしても、あまり大した答は戻ってこないような気がするんだけど!
にしてもそんなことを聞いてみたい理由は、この人の打ち出している〈世界は80年代に終了〉という一大テーゼに、けっこう自分が共感しちゃってるせいなのだろうか。

いっぽう音楽そのものをチェキすると、このセカシューさんの作品たちは、ワリにまともなほう。モヤモヤと耳にやさしい音質(=ローファイ)でまとめられた、なかなかに端正なクラシックヴェイパーである()、くらいに言ってもよさそう。
いや、さいしょバンド名からかってに想像し、うる星やつらとか1980年代のアニメソングらをグッチャグチャに崩していくようなデスペレートなものだろうか、なんて思ったりもしてたんだが──むしろそういう音楽を、ちょっとは期待してたってことか──、しかしそうではない。そもそもアニメとか関係ない。

じゃあ、このセカシュー氏にとっての《80年代》とはどういうものなんだろうか。

別にはっきりとは言いきれないが、でもこの『EP選集』でもっとも自分的に80'sフィーリングありげと思ったのは、2018年のEP『海の夢』のラストトラックであった、「深淵」
モヤモヤ感をきわめた“パッド”的なシンセ音が空間を満たし、ウェットでおセンチなムードを演出。それがずっと続いたあげく、何かの唄の出だしがちょっと聞こえて、そして終わってしまう、という約5分20秒のトラック。

これってひじょうによく知っている楽曲が、響きを変えたものだよね──って思ったんだけど、これのもと曲は、フ才り†ーによる1984年の全米No.1ヒット曲「アイ・うォ+・/ウ」。もとからスローなこの曲のスピードを、さらにググッと落とし、そしてそのイントロと歌い出しが切り貼り編集されたもの。

……意識的に聞いていたのではないが、しかしテレビや街頭の放送で耳に流し込まれていた往年のヒット曲らが、その時代を象徴するものとして、夢の中で再生される。
……そのさいの、あいまいなボンヤリ感が……述べたようなヴェイパー処理により、みごとに再現されているんだ。

しかもこの「深淵」は編集の仕方がヘンで、まっとうな4拍子になってないと思う。ばくぜんと流してたらおかしい感じがしないんだが、しかし集中して聞くと、字余りのビートのあることが感じられる。たぶん概略、〈4拍 - 4拍 - 2拍〉の反復みたいになっている。
かといって、その集中を解けば、まあ別にヘンじゃないかな、という気もしちゃう。この迷宮性、アヤフヤさもワザとの構成で、夢の世界のシュルレアルなできごとが、夢みているさなかには別にヘンじゃない気もする──、そういうことの再現だろうと、解釈しておく。

ということを思った上で、『海の夢』をさいしょから聞き直してみると。このしめやかにおセンチでモーローとしたふんいきのEP、その全体が、80'sとか遠い過去の記憶たちを夢の中に埋めて葬り去る、その告別の式次第のようにも思えてくるんだよね。
──いや。そんなことをオレなんかが言う前に、このEP『海の夢』、その冒頭のトラックのタイトルがズバリ、「夢の中で失われた」であるワケで。

にしても、その失われたものとは、いったい《何》だったのだろうか。
それが何であったかという記憶さえもが、もちろんすでに喪われている。または、その喪われたもの自体が幻想でしかなかったとすれば、そんなもんを〈喪った〉とは、言えるんだかどうなんだか。

だから、ばくぜんとこの音楽が、オボロさをきわめながら指し示している《享楽》への渇仰、そしてその断念。それだけを受けとめてオレたちは、ありえたはずの愉しい過去の記憶を求め、再びそれを喪うために、きょうも夢の中へと分け入る。

[sum-up in ԑngłiꙅℏ]
The wonderful pseudonym 世界は80年代に終了しました (the world ended in the 1980's), is named Vaporwave creator, whose identity is completely a mystery, and has been active since 2016.
This Mr. “Seka Shoo” is the creator of a neat Classic-vapor that features a lo-fi sound that is easy on the ears. And his latest album "EP's Collection" is a compilation of 6 EP's from the earliest to 2018.
When I listen to it again, the songs from the EP “海の夢” (Dream of the sea) in 2018 give a fresh impression again. It seems that it depends on the ceremonial ceremony of burying 80's and memories of the distant past in dreams and burying them.