エッコ チェンバー 地下

─ €cco ₵hamber ฿asement, Vaporwave / Đésir đupłication répétition ─

Limousine: Paypal Playboy (2018) - まずはゴールドチェーンを見せびらかすこと

《リムジン》を名のるヴェイパーウェイヴ・クリエイター、2017年から活躍中()。その正体はDiscogsによると、カリフォルニア在住のデヴィッド・アンソニーさんであるという。
いや、そんなふつうすぎる名前を知ったからって、どうということはないんだけど……。

でも何せリムジンとかいうだけに、彼と彼の作品らは、金持ちクサさを匂わせているのが特徴なのか、と見うける。その曲名らを見ても、ロレックス、オメガ、百万ドル、そしてプロレスラーのテッド・デビアス、といったワードらが目立ってるワケで。

むっ? なぜここでプロレスラーの名前が出るかというと、このデビアスさんは一時、《ミリオンダラー・マン》というキャラクター設定でファイトしていたから。
なぜだかとにかく大金持ちで、ゆえに札束を誇示して対戦相手やレフェリーらの買収を試みる。試合に勝てば、ご祝儀として、敗者の口の中に札ビラをネジ込む(!)。──という、実にまったく鼻もちならぬ悪役だったもよう。

……〈鼻もちならぬ〉? そうなのか? いやむしろ、《ミリオンダラー・マン》は、大いに望まれ愛されリスペクトされるようなキャラクター、なのでは?

というのも、現在のいま。とにかくカネを持ってるらしい、くらいにしか見れない人物たちが、ツイーターア等で何かを申されるたび、大量のフォロワーたちが、そうだとかふざけんなとかのご意見で、ムダにネットをバズらせる──、そんな風景が、連日のようにあるっぽい。ベンチャーの起業家、成功したユーチューバ、そして示ーケー千×ポの皮切り職人、等々々のヤカラがね。

Limited Edition 7” 'Paypal Playboy' Picture Disc Lathe (ft. 猫 シ Corp.)
「ペイパル・プレイボーイ」からカットされた
7インチ盤、そのカバーにデビアスさんが!

すなわち“誰も”が、《ミリオンダラー・マン》たちを大好きなんだ。愛しちゃってお近づきになりたいんだ、心の底から。

ゆえにデビアスも正しく、そしてリムジンのアンソニーさんも正しいと、ここでガッツリ確認された。そもそもの話、〈まずゴールドチェーンを見せびらかすことが成功への近道〉との定理は、1980年代初頭のヒップホップ・シーンから言われてるようなことで。

イヤでもおうでも、時代は変わる。いにしえのローリング・ストーンズとかいうロックバンドは、数百ミリオンくらい(?)のダラーをゲットした上でも、ブルース貧人ロバート・ジョンソンの猿マネを、平然とご披露していた。

〈カネはなくゥ、女には逃げられェ〜、そして行くとこもねェェ〜〉

当時はそういう貧をてらうポーズがクールだったのかもだが、しかしそれはもう終わった。──ま、見え見えのポーズでしかなかったし。
ブサイク貧乏なソクラテスよりも、イケメンでリッチなアルキビアデスちゃま、そういうご時世なんだ。いやむしろ、人類史なんて、常にそんなもんだった。

……とまあそんな正論はともかく、リムジンの話にオレらは戻るべきっ。

まずはしっかり結論を述べると、この人のアルバムでは、2018年のPaypal Playboy、そして最新2020年の“ΩMEGA MALL X”)、この2作がいい。《モールソフト》の傑作である、と言える。もはやモールの神でもあるような《猫 シ Corp.》さんが、両作に何らかの貢献をされており、道理でなのか。

また。逆に言うと、この2作以外のリムジン作は、メタルっぽいロックのサンプルが目立ってやがってウルサくて、オレは好きじゃない。……オレはね。
ただこのロック系サンプルら、あるいはプロレスラーのテーマ曲か何かであって、コンセプト的な機能があるのかな、という気もする。だが、そうだとしても、聞いてて快適でないという、現実は変わらないんだよね。

とまあそういうことで、オレらは再び、モールの雑踏の中へと戻る。商品文明のすばらしさ、そこでモノ言うおカネのパワー、それらを心から賛美し崇めたてまつるために──。

赤い薔薇の花ことばは、「美」「情熱」そして「愛」…

とか言って、ややウマくオチをつけたような錯覚があったが。しかし“新型肺炎”流行の現在、〈雑踏の中へと〉紛れ込んじゃ〜ダメらしいじゃん! ったくヤリにくい世の中だぜ!